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【新書が好き】わかったつもり


1.前書き

「学び」とは、あくなき探究のプロセスです。

単なる知識の習得でなく、新しい知識を生み出す「発見と創造」こそ、本質なのだと考えられます。

そこで、2024年6月から100日間連続で、生きた知識の学びについて考えるために、古い知識観(知識のドネルケバブ・モデル)を脱却し、自ら学ぶ力を呼び起こすために、新書を学びの玄関ホールと位置づけて、活用してみたいと思います。

2.新書はこんな本です

新書とは、新書判の本のことであり、縦約17cm・横約11cmです。

大きさに、厳密な決まりはなくて、新書のレーベル毎に、サイズが少し違っています。

なお、広い意味でとらえると、

「新書判の本はすべて新書」

なのですが、一般的に、

「新書」

という場合は、教養書や実用書を含めたノンフィクションのものを指しており、 新書判の小説は、

「ノベルズ」

と呼んで区別されていますので、今回は、ノンフィクションの新書を対象にしています。

また、新書は、専門書に比べて、入門的な内容だということです。

そのため、ある分野について学びたいときに、

「ネット記事の次に読む」

くらいのポジションとして、うってつけな本です。

3.新書を活用するメリット

「何を使って学びを始めるか」という部分から自分で考え、学びを組み立てないといけない場面が出てきた場合、自分で学ぶ力を身につける上で、新書は、手がかりの1つになります。

現代であれば、多くの人は、取り合えず、SNSを含めたインターネットで、軽く検索してみることでしょう。

よほどマイナーな内容でない限り、ニュースやブログの記事など、何かしらの情報は手に入るはずです。

その情報が質・量共に、十分なのであれば、そこでストップしても、特に、問題はありません。

しかし、もしそれらの情報では、物足りない場合、次のステージとして、新書を手がかりにするのは、理にかなっています。

内容が難しすぎず、その上で、一定の纏まった知識を得られるからです。

ネット記事が、あるトピックや分野への

「扉」

だとすると、新書は、

「玄関ホール」

に当たります。

建物の中の雰囲気を、ざっとつかむことができるイメージです。

つまり、そのトピックや分野では、

どんな内容を扱っているのか?

どんなことが課題になっているのか?

という基本知識を、大まかに把握することができます。

新書で土台固めをしたら、更なるレベルアップを目指して、専門書や論文を読む等して、建物の奥や上の階に進んでみてください。

4.何かを学ぶときには新書から入らないとダメなのか

結論をいうと、新書じゃなくても問題ありません。

むしろ、新書だけに拘るのは、選択肢や視野を狭め、かえってマイナスになる可能性があります。

新書は、前述の通り、

「学びの玄関ホール」

として、心強い味方になってくれます、万能ではありません。

例えば、様々な出版社が新書のレーベルを持っており、毎月のように、バラエティ豊かなラインナップが出ていますが、それでも、

「自分が学びたい内容をちょうどよく扱った新書がない」

という場合が殆どだと思われます。

そのため、新書は、あくまでも、

「入門的な学習材料」

の1つであり、ほかのアイテムとの組み合わせが必要です。

他のアイテムの例としては、新書ではない本の中にも、初学者向けに、優しい説明で書かれたものがあります。

マンガでも構いません。

5.新書選びで大切なこと

読書というのは、本を選ぶところから始まっています。

新書についても同様です。

これは重要なので、強調しておきます。

もちろん、使える時間が限られている以上、全ての本をチェックするわけにはいきませんが、それでも、最低限、次の2つの点をクリアする本を選んでみて下さい。

①興味を持てること

②内容がわかること

6.温故知新の考え方が学びに深みを与えてくれる

「温故知新」の意味を、広辞苑で改めて調べてみると、次のように書かれています。

「昔の物事を研究し吟味して、そこから新しい知識や見解を得ること」

「温故知新」は、もともとは、孔子の言葉であり、

「過去の歴史をしっかりと勉強して、物事の本質を知ることができるようになれば、師としてやっていける人物になる」

という意味で、孔子は、この言葉を使ったようです。

但し、ここでの「温故知新」は、そんなに大袈裟なものではなくて、

「自分が昔読んだ本や書いた文章をもう一回読み直すと、新しい発見がありますよ。」

というぐらいの意味で、この言葉を使いたいと思います。

人間は、どんどん成長や変化をしていますから、時間が経つと、同じものに対してでも、以前とは、違う見方や、印象を抱くことがあるのです。

また、過去の本やnote(またはノート)を読み返すことを習慣化しておくことで、新しい「アイデア」や「気づき」が生まれることが、すごく多いんですね。

過去に考えていたこと(過去の情報)と、今考えていること(今の情報)が結びついて、化学反応を起こし、新たな発想が湧きあがってくる。

そんな感じになるのです。

昔読んだ本や書いた文章が、本棚や机の中で眠っているのは、とてももったいないことだと思います。

みなさんも、ぜひ「温故知新」を実践されてみてはいかがでしょうか。

7.小説を読むことと新書などの啓蒙書を読むことには違いはあるのか

以下に、示唆的な言葉を、2つ引用してみます。

◆「クールヘッドとウォームハート」

マクロ経済学の理論と実践、および各国政府の経済政策を根本的に変え、最も影響力のある経済学者の1人であったケインズを育てた英国ケンブリッジ大学の経済学者アルフレッド・マーシャルの言葉です。

彼は、こう言っていたそうです。

「ケンブリッジが、世界に送り出す人物は、冷静な頭脳(Cool Head)と温かい心(Warm Heart)をもって、自分の周りの社会的苦悩に立ち向かうために、その全力の少なくとも一部を喜んで捧げよう」

クールヘッドが「知性・知識」に、ウォームハートが「情緒」に相当すると考えられ、また、新書も小説も、どちらも大切なものですが、新書は、主に前者に、小説は、主に後者に作用するように推定できます。

◆「焦ってはならない。情が育まれれば、意は生まれ、知は集まる」

執行草舟氏著作の「生くる」という本にある言葉です。

「生くる」執行草舟(著)

まず、情緒を育てることが大切で、それを基礎として、意志や知性が育つ、ということを言っており、おそらく、その通りではないかと考えます。

以上のことから、例えば、読書が、新書に偏ってしまうと、情緒面の育成が不足するかもしれないと推定でき、クールヘッドは、磨かれるかもしれないけども、ウォームハートが、疎かになってしまうのではないかと考えられます。

もちろん、ウォームハート(情緒)の育成は、当然、読書だけの問題ではなく、各種の人間関係によって大きな影響を受けるのも事実だと思われます。

しかし、年齢に左右されずに、情緒を養うためにも、ぜひとも文芸作品(小説、詩歌や随筆等の名作)を、たっぷり味わって欲しいなって思います。

これらは、様々に心を揺さぶるという感情体験を通じて、豊かな情緒を、何時からでも育む糧になるのではないかと考えられると共に、文学の必要性を強調したロングセラーの新書である桑原武夫氏著作の「文学入門」には、

「文学入門」(岩波新書)桑原武夫(著)

「文学以上に人生に必要なものはない」

と主張し、何故そう言えるのか、第1章で、その根拠がいくつか述べられておりますので、興味が有れば確認してみて下さい。

また、巻末に「名作50選」のリストも有って、参考になるのではないかと考えます。

8.【乱読No.93】「わかったつもり~読解力がつかない本当の原因~」(光文社新書)西林克彦(著)

[ 内容 ]
「わからない」ことよりも、「わかったつもり」でいることの方がはるかに問題だ!
理解力・読解力を磨くための一冊。

[ 目次 ]
第1章 「読み」が深まらないのはなぜか?(短い物語を読む 「わからない」と「わかる」と「よりわかる」 ほか)
第2章 「読み」における文脈のはたらき(文脈がわからないと「わからない」 文脈による意味の引き出し ほか)
第3章 これが「わかったつもり」だ(「全体の雰囲気」という魔物 「わかったつもり」の手強さ)
第4章 さまざまな「わかったつもり」(「わかったつもり」を作り出す“犯人”たち
文脈の魔力 ほか)
第5章 「わかったつもり」の壊し方(「わかったつもり」からの脱出 解釈の自由と制約 ほか)

[ 発見(気づき) ]
本書は、文章をより詳しく読んだり、正確に読むことに対しての障害と対策について述べている本である。
文章を深く読む障害となるのは「わかった」状態である。
何故なら、「わかった」思うと、それ以上わかろうとしないからである。
これは、なかなか厄介な状態だ。
その「わかった」状態は、読み手の先入観や思い込みによる、物足りない読みや間違った読みによる事が少なくない。
著者は、この「わかった」状態を、「わかったつもり」の状態であると言っている。
本書では、この「わかったつもり」の状態がどんなものか、どんなふうにその状態に陥るか、いかに手強いか、また、その状態を壊すのに、いかに努力を要するかが、読者が小学生用の教科書等に掲載されている文章を読んで具体的に経験出来るように構成されている。
小学生用の教科書に掲載されている文章を読んで「わかったつもり」の状態に陥った読者は、その文章が小学生向けな分だけ、大きな衝撃を受けるかもしれない。
そして、本書に述べられているような対策を用いて「わかったつもり」から、「よりよく読めた」状態に移行したとしても、それで読みが終わるわけではなく、もっと良い読みが存在するという。
そういう意味で、著者は、「読み」という探求の過程には終わりはないと考えている。

[ 問題提起 ]
本書を読んで、更に文章というものをよく読むよう、自戒をしながら本を読む毎日である。
当たり前のことが書かれているのですが、それこそ読者が「わかったつもり」にならないよう、「より深くわからせる」気づかいに感心させられた。
簡単に言えば、一番困るのは「わからない」状態ではなく、「わかったつもり」の状態であり、そこから脱却するためにはどうすれば良いか、が書かれた本ということになる。
たしかに「わかったつもり」が前進を妨げる可能性はあります。
実は、これを読みながら、橋本治の「わからないという方法」を思い出した。
「「わからない」という方法」(集英社新書)橋本治(著)

ちょっと似てるけどだいぶ違うなっと思う。
あそこでは「わからない」→「わかる」→「わかった」であった。
こちらでは「わからない」→「わかる(実はわかったつもり)」→「よりわかる」である。
その微妙な違いも面白いのであるが、やっぱり両者の書き方の違いであろう。
橋本治は正直まどろっこしくて「わからない」。
だが本書は、少なくとも「わかったつもり」にはなる。
で、ものすごく意地悪というか性悪な言い方をすると、これはもう書き手の問題だと思うのである。
まず第一にテキストの責任が大であると。
読解力がつかない以前に、読解を促す文章か、妨げる文章か、そこが問題だということである。
いやいや、促すのが善で、妨げるのが悪だなんてことは言わない。
そうじゃなくて、すんなり「わかる」ことを提供するか、すんなり「わからない」ことを提供するか、ということである。
すんなり「わかる」喜びもああるし、すんなり「わからない」喜びもあるのである。
そのどちらを提供するかは書き手の意志次第である。
そして、そのどちらを読もうと思うかは読み手の意志である。
論説文、エッセイ、小説、詩・・・本当にいろいろな「わかってほしい」レベルがあると思う。
それぞれに適した読みというのがあると思う。
そして、書き手の意志に乗るもよし、対抗するもよし。
一方、「よりわかる」ことによって得られた「わかった」状態も、次のステップのための「わかったつもり」に過ぎないとも言える。
そして、その「わかったつもり」は橋本流に言えば、まだ、あるいは、また「わからない」状態であるのである。
そうして永遠にグルグル回りながら螺旋状に登っていく。
自分が書いたものであるすら、後で読むと「わからない」ことが出てくるん羽目になる。ところで、最後の方にある、「試験問題を解いてみる」章は、教師の方には、大変勉強になる内容と思う。
センター試験の国語の問題などを、単なる正誤ではなく、本文との整合性という基準をもってして解き直していく。
教えつつモヤモヤしていたものが晴れてくるかもしれない。
とにかく、この本はとてもわかりやすく書かれている。
それは筆者の善意によるものであろう。
その善意に乗るもよし、ひねくれて対抗するもよし。
私は読んでいる最中は常に前者であるが、今回は後者だったかもしれない。
これは読者の悪意であろうか?

[ 教訓 ]
わかりやすくて面白い本だ。
読解において問題なのは、「わからない」ことよりも「わかったつもり」という状態である、という問題提起がある。
「わかったつもり」は「わかった」状態のひとつなので、それ以降の探索を妨害し、浅いわかりかたから抜け出すのを困難にする厄介な状態である。
わからない、わかる、よりわかるとは、この本の要約によれば、
「1 文章や文において、その部分間に関連がつかないと、「わからない」という状態を生じます。
2 部分間に関連がつくと「わかった」という状態を生じます。
3 部分間の関連が、以前より、より緊密なものになると、「よりわかった」「よりよく読めた」という状態になるのです。
4 部分間の関連をつけるために、必ずしも文中に記述のないことがらに関する知識を、また読み手が作り上げた想定・仮定を、私たちは持ちだしてきて使っているのです。」
ということとされる。
簡単なようでいて、部分間の関連を読み取るのがいかに困難かは、この本の極めてわかりやすい文章事例で示される。
どれも小中学生でもわかる平易な文章ばかりだ。
しかし、読後になされる質問に答えようとすると、実は「わかったつもり」になっていた自分が露呈するしくみである。
特に読解において、文脈は大きな力を持つ。
正しく読むガイドにもなるし、ミスリードの原因ともなる諸刃の剣だと著者はいう。
「1 文脈がわからないとわからない
 2 文脈がスキーマを発動し、文脈からの情報と共同して働く
 3 文脈がそれぞれの部分の記述から意味を引き出す
 4 文脈が異なれば、異なる意味が引き出される
 5 文脈に引き出されたそれぞれの意味の間で関連ができることで文がわかる」
文脈とは読んでいるうちにわかるものではなく、ある種の先入観として存在していることが多いと著者は指摘する。
わかったつもりの分類が面白い。
なるほどと思うケースばかりだ。
・「結果から」というわかったつもり
・「最初から」というわかったつもり
・「いろいろ」というわかったつもり
・「善きもの」というスキーマによるわかったつもり
・「無難」というスキーマによるわかったつもり
たとえば文中に事例がいっぱいあると、読者は「いろいろあるのだな」という読みになってしまう。
細部が読まれない。
書かれていなかったことまで書いてあったと勘違いしてしまう。
「地球にやさしい」や「共に育つ」のような記述があると、人は「無難」のスキーマを発動して、細部を省略したり、誤読して、典型的な理解をしてしまう、など。
この本はこうした「わかったつもり」を説明する文章事例が適切で、たいへんわかりやすい本である。
文章を書く上でもミスリードを避けるためのノウハウに満ちている実践的な内容だと感じる。
私が「わかったつもり」でなければ、の話だが。

[ 結論 ]
読みやすい文章とわかりやすい文章は違うもので、その違いは読む対象と理解する対象の違いによるものではないかと思う。
いくら読む文章が読みやすかったとしても、書かれている内容が馴染みのないもの(例えば、マダガスカル島に棲息するアイアイの生態だとか、体の大きさと脳の大きさの比較を示す大脳化指数など)であれば、理解することがむずかしい場合もあるということである。
なぜ、文章を読んで「わからない」ことがあるのか。
そして、「わかったつもり」という、いちおは「わかった」状態の安定状態が、「わからない」状態以上に知識の取得の障害になるのはなぜなのか。
この本はそんなことを扱っている。
この本では人が文章を読んだ際の状態を「わからない」「わかった」「よりわかった」という3つの段階に分けている。
「わからない」というのは割と明確な段階で、つまり読んではみたもののなんだかさっぱりわからないという状態である。
そして、「わかった」という状態が本書で「わかったつもり」と称される、とりあえず「わからない」と思えることが浮かばない状態で、これは「わからない」と思っていることがない状態なので、それ以上、文章を読み込もうとは思わない状態である。
しかし、私たちが文章を読む際によくあるのは、「わかった」と思っても、実はそれは最初から大体わかっていたことをあらためて納得のいくよう整理された文章を提示されたり、これまでつながらなかったことがきちんとつなげて説明してもらえたような文章を読んだりする際に、とりあえず「わかったつもり」になるのではないか?
結局、その場合は知識はあまり増えていないわけである。
ようするに、自分の思考の文脈や既存の知識が、文章が表現しようとしているものの背景と一致しただけのことであって、それはいわゆる読解とはほど遠い状態なわけである。
著者はさらに、自分の思い込みによる文脈をいったん外し、別の文脈でもって文章を読むことで「わかったつもり」から「よりわかった」状態に移行することができると記している。
文脈の交換によって、新しい意味が引き出せるということは、その文脈を使わなければ、私たちにはその意味が見えなかっただろうということである。
すなわち、私たちには、私たちが気に留め、それを使って積極的に問うたことしか見えないのである。
それ以外のことは、「見えていない」とも思わないのである。
私たちが「よりわかった」状態に到達するのを妨げるのは「わからない」ことではなく、「わかったつもり」でいることである
著者は認知心理学のモデルを用いて、この「わかったつもり」がなぜ発生してしまうかを説明してくれている。
スキーマ:私たちの中に既に存在しているひとまとまりの知識
文脈:物事・情報などが埋めこまれている背景・状況
活性化:全体の知識の一部分にスポットライトを当てて使えるようにすること
私たちは何かを理解しようとする際、必ずあらかじめもっている知識を利用して、わかろうとする。
しかし、「書かれている内容が馴染みのないもの」だったりすると、既存の知識は使えませんし、仮に使えたとしてもどう使えばいいかが検討がつかなかったりするわけである。そうなると、当然「わからない」という状態になある。
しかし、本当はそこに書かれている対象のことは知っていても、まさかそれがあれだと気づかない場合、私たちは自分の中にある「あれ」のスキーマを呼び出すことができず、やっぱり「わからない」わけである。
その場合、それがあれだと気づかない状態は、それが示す文脈が「あれ」との関係を示唆しなかったりするわけである。
文脈がわからなければ「わからない」。
よく友人や知人が突然話しかけてきたものの、彼(女)が何を言っているのかわからないことってないか?
そういう時ってたいていは、彼(女)のほうには文脈があるのだけれど、それが聞いているこっちには伝わってきていない場合だったりすることが多いのではないであろうか。
そういう場合、「何のこと言ってるの?」と訊くと、たいていは謎がとけて、一瞬にして理解できたりするのではないであろうか?
「わかる」ということは文脈によって、スキーマを活性化させることだったりする。
わかるということは答えを見つけることではない。
しかし、文脈が固定されてしまうことで「わかった」こと以外が「わからない」状態にもなるし、さらに「わからない」ことがあることにも気づかない「わかったつもり」の状態になってしまうことがある。
いまは本当に情報が多いので、私たちの中には数多くのスキーマが存在している。
そして、そのスキーマはその知識を得たときの文脈とともに保存されていることが多いから、自然と保存された知識はその文脈上でしか理解されていなかったりする。
例えば、私たちは学校でニュートン力学を習ってきたので、空間や時間は絶対的なものと考えがちであるが、実際にはアインシュタインの理論が示すとおり、どちらも相対的なものでしかない。
しかし、学校で習ってきた以上に、私たちが普通に生活しているうえではニュートン力学が示す文脈こそ、自然だったりもするので、なかなかアインシュタインの文脈における空間や時間の相対性を「わかった」状態になるのはむずかしかったりするのではないであろうか?
とはいえ、アインシュタインの理論が示すのは、ニュートン力学が間違っているということではない。
科学には絶対的な答えがあると考えがちであるが、実際にはそうではなく、ある特定のある状況下において観察を行うとこういう法則性が存在すると示しているのが科学にすぎない。
つまり、解釈は複数存在するのであり、そこに唯一の答えがあるわけではないのである。
整合性のある解釈は、複数の存在が可能である。
したがって、唯一絶対正しいという解釈は存在しない。
しかし、ある解釈を「整合性がない」という観点から否定することは論理的にも実際にも可能で、しかも簡単である。
であるから、「正しい」と「間違っている」という判定は、シンメトリーなものではない。
後者は明確に判定できるが、前者は「整合性はある」とか「間違っているとは言えない」という判定しかできないのである。
唯一の答えはないが、間違った解釈は存在するわけである。
読解力をつける、考える力をつけるというのは、唯一の答えを求めることではなくて、解釈の整合性を問う力をつけ、さらに複数の解釈が成り立つことを理解したうえで、それぞれの解釈にいたる文脈をいかに多く見つけられるかに関わる力をつけることではないかと思う。
例えば、最近、noteやブログなどを見ていると、「〇〇〇がわからない」といった文章を見かける。
単にわからないというのはいいのかもしれないが、いろんなブnoteやログやメディア系の記事を引用したり、リンクをはったりして、比較を行いながら、よけいに「わからなくなった」と言っていたりする人を見かけると、ちょっと「あれ?」って感じてしまう。
「わかる」ということが答えを求めることとイコールなら、わからないのは当然である。
そこで求められる答えはきっと定義に近いもので、そもそも定義が存在しないことから議論が起きている対象に対して、唯一の答えを求め、わからないと言ったところで、何の解決も得られるはずもないのである。
そこにはさまざまな文脈により複数の解釈が存在するのであるから、どの文脈ではどういう解釈が成り立つだとか、ある解釈は内部で整合性がとれていないので間違った解釈になっているとかを理解することそのものが、真に対象を「よりわかった」という状態になることだと思う。
とはいえ、対象を「わからない」といっている人より問題なのは、この本で問題視されていることを適用すれば、それを「わかったつもり」になっている人かもしれない。
また、このての話は、単に文章を読み解くというだけの認知の話ではなくて、もうすこし広い意味での認知の話では?ないかと感じる。
「わかったつもり」になることが「よりわかる」ことの障害になるということを考えると、著者は「わかったつもり」の克服法として、文脈を変えてみてみることを教えてくれているが、違う文脈でみれば異なる意味が引き出せるという点は、単に文章の読解だけに限らず、認知一般、たとえば、以下のようなリチャード・ドーキンスが『祖先の物語』で紹介している正常な三色系の色覚と、色覚に障害をもつ二色系の色覚(赤または緑が見えない)で、後者がある種のカムフラージュを見破ることがあるという例にも現れているのではないかと思った。
「祖先の物語 ~ドーキンスの生命史~ 上」リチャード・ドーキンス(著)垂水雄二(訳)

「祖先の物語 ~ドーキンスの生命史~ 下」リチャード・ドーキンス(著)垂水雄二(訳)

[ コメント ]
第二次世界大戦の爆撃機の乗員に、関して、色覚障害者のほうが、その他の点ではめぐまれた三色系の戦闘員より、ある種のタイプのカムフラージュを容易に見つけることができるという理由で、わざわざ乗員一名が召集されたという逸話が存在している。
ドーキンスはこのことが実験的にもわかっていると述べている。
私たち、ヒトを含む類人猿は、青、赤、緑の三色系の視覚をもっているわけであるが、それ以外のサル類は実は二色系の色覚しかもたないものが多いようである。
そして、そのことを紹介した上で、ドーキンスは次のような想像をしていたりもしている。
三色系と二種類の二色系からなるサルの群れが、純粋に三色系だけからなる群れよりも、集団としてはるかに多様な果実を見つけるということはありえるのだろうか。
三色系の視覚には見えないものが、二色系の視覚には見えるということは、違う文脈が異なる意味を引き出せるということと同じものであろう。
視覚という意味では、あるアフリカの蝶の羽根の模様は、私たちの目ではたんにきれいな模様にしか見えないのだが、私たちには見えない紫外線も視覚的に認識するある種の鳥(そして、それらは蝶にとっての天敵でもある)には、大きな動物の目がこちらを向いているように見えるのだそうだ。
これも文脈=視覚が異なれば違う意味をもつという例であろう。

9.参考記事

<書評を書く5つのポイント>
1)その本を手にしたことのない人でもわかるように書く。

2)作者の他の作品との比較や、刊行された時代背景(災害や社会的な出来事など)について考えてみる。

3)その本の魅力的な点だけでなく、批判的な点も書いてよい。ただし、かならず客観的で論理的な理由を書く。好き嫌いという感情だけで書かない。

4)ポイントを絞って深く書く。

5)「本の概要→今回の書評で取り上げるポイント→そのポイントを取り上げ、評価する理由→まとめ」という流れがおすすめ。

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https://note.com/bax36410/n/n1098e345f157

【新書が好き】「あたりまえ」を疑う社会学
https://note.com/bax36410/n/n0737f9b6d60c

【新書が好き】男女交際進化論
https://note.com/bax36410/n/neadf35b9516a

【新書が好き】「弱者」とはだれか
https://note.com/bax36410/n/n638c0cf0ed43

【新書が好き】言語の脳科学
https://note.com/bax36410/n/na304bbf1e411

【新書が好き】現場主義の知的生産法
https://note.com/bax36410/n/n8e71fce98760

【新書が好き】自動販売機の文化史
https://note.com/bax36410/n/nb104003a2415

【新書が好き】サブリミナル・マインド
https://note.com/bax36410/n/n38d99c834f72

【新書が好き】かなり気がかりな日本語
https://note.com/bax36410/n/n6d0f14c36623

【新書が好き】悪の対話術
https://note.com/bax36410/n/n4959d0f2273c

【新書が好き】知識経営のすすめ
https://note.com/bax36410/n/nb6bf609358f2

【新書が好き】情報検索のスキル
https://note.com/bax36410/n/n144632f202a7

【新書が好き】テレビの教科書
https://note.com/bax36410/n/n2b875abf0852

【新書が好き】日本語は年速一キロで動く
https://note.com/bax36410/n/nac92b5bd65d1

【新書が好き】世間のウソ
https://note.com/bax36410/n/ndf4d1f4db82d

【新書が好き】学ぶ意欲の心理学
https://note.com/bax36410/n/neb66e8a48c9e

【新書が好き】人はなぜ逃げおくれるのか
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【新書が好き】時間の分子生物学
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【新書が好き】とにかく目立ちたがる人たち
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【新書が好き】パラサイト社会のゆくえ
https://note.com/bax36410/n/nbc9d24b694e6

【新書が好き】情報と国家
https://note.com/bax36410/n/n814704ab6eb7

【新書が好き】犬は「びよ」と鳴いていた
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【新書が好き】キヤノン特許部隊
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【新書が好き】ウェルチにNOを突きつけた現場主義の経営学
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【新書が好き】日本の公安警察
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【新書が好き】債権回収の現場
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【新書が好き】値切りの交渉術
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【新書が好き】議論のレッスン
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【新書が好き】インタビュー術!
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【新書が好き】相手に「伝わる」話し方
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【新書が好き(番外編1)】東アジアの終戦記念日
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【新書が好き】ゼロからわかる経済の基本
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【新書が好き】景気と経済政策
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【新書が好き】バブルとデフレ
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【新書が好き(番外編3)】文学で鍛える 人間を見通す力
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【新書が好き】消費資本主義のゆくえ
https://note.com/bax36410/n/nc44e5d09bd8d

【新書が好き】日本の経済格差
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【新書が好き】アメリカ海兵隊
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【新書が好き】寝ながら学べる構造主義
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【新書が好き】一億三千万人のための小説教室
https://note.com/bax36410/n/n90e2239e7a8c

【新書が好き】社会的ひきこもり
https://note.com/bax36410/n/n14d5ef12e46d

【新書が好き】やさしさの精神病理
https://note.com/bax36410/n/n7b8a7c228bb8

【新書が好き】禅と日本文化
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【新書が好き】日本の思想
https://note.com/bax36410/n/n0e3d7257bffd

【新書が好き】インフォアーツ論
https://note.com/bax36410/n/n7e2f24af4684

【新書が好き】テレビのからくり
https://note.com/bax36410/n/n92ca6ac4b097

【新書が好き】ジャンケン文明論
https://note.com/bax36410/n/n597580d5e6af

【新書が好き】夢と欲望のコスメ戦争
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