夢の新磁石 L1₀-FeNi磁石, part 2
この記事では、引き続きL1₀-FeNi磁石について紹介します。L1₀-FeNi磁石の発見の経緯と作製の困難さについて書きます。
どうやって作るの?
そもそもL1₀-FeNi磁石は、ただ鉄(Fe)とニッケル(Ni)を混ぜただけではできません。単純に溶かして混ぜただけでは、冷える頃にはFeとNiは大部分が分離してしまいます。磁石として能力を発揮するためには、FeとNiが原子レベルでちゃんと混ざり、かつ下図のように上からFe, Ni, Fe,,,と規則正しく並ぶ必要があります。こうなることで結晶が縦に少し伸びたL1₀-FeNi磁石になるのです。
(理論的な研究によれば、結晶が歪むことでバンド分散がある箇所で重なり合い、スピン軌道相互作用が強まるため磁気異方性が発現するそうです。もし結晶がただ伸びたとしても、Fe、Niが乱雑に位置する場合は、バンド分散曲線の幅が広がってしまいスピン軌道相互作用も弱まることになります)
ではどうやったら、このような規則正しく並んだFeNiを作れるのでしょうか?
そもそもどうして磁石として知られていたの?
L1₀-FeNiが磁石としてモノになるかも、という話は極めて最近のことです。では、そもそもどうして磁石になることが知られていたのでしょうか?
(L. H. Lewisらのよくまとまった記事があります。)
L1₀-FeNiは1962年、J. Paulevé, L. Néelらによって初めて報告されました。一体どういう経緯なのか分からない(調べてない)のですが、FeNi合金を300℃で暖めつつ、磁場をかけつつ、中性子をぶつけてみたところ、L1₀-FeNi相が見つかり、これが磁石としての特性を持つことも確認されたそうです。
その後、このL1₀-FeNi相が、およそ一万年以上前にグリーンランド北部に降り注いだ鉄隕石など、多くの鉄隕石に含まれていることが報告されていきます。(下写真はその隕石の一部、wikipediaより)
中性子をぶつける実験と隕石、この二つで見つかる理由はなんでしょう?
そこにはL1₀-FeNi相の分解(規則正しい整列が乱れてしまう)温度が、およそ320℃とかなり低いことが関係してきます。
Fe, Niが整列するにせよ、乱れてしまうにせよ、それぞれの原子が動いて別の位置にジャンプしなければなりません。このジャンプは外から熱を得ることができればたくさん発生するのですが、上で挙げた320℃という温度は、ジャンプを起こさせるには低すぎるのです。FeNiでは320℃の分解温度以下で原子がジャンプし、移動してくれればL1₀-FeNi相になってくれるのですが、300℃の温度では、10,000年に1回しかジャンプが起こらないのです。
中性子実験では、FeNiに熱を与えるのではなく中性子をぶつけて無理矢理原子をジャンプさせることができました。また、鉄隕石は宇宙で百万年に数℃という冷却速度で冷え、300℃くらいの状態を数十億年というめちゃ長い時間をかけることができたのです。
ひとまずの終わりに
L1₀-FeNiを磁石として製品にするには、中性子を使うわけにもいかないし、もちろん数十億年オーブンに置いておくわけにもいきません。L1₀-FeNi磁石の製品化はいかにも困難の塊のようです。実際にL1₀-FeNi磁石が現実的な手法で実現されるのは、Neelらの発見から50年以上たった後でした。
思いのほか長くなってしまったので、L1₀-FeNi磁石の(現実的な)製法についてはpart 3に書くことにします。
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