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作家(志望)の教師が読んだ本たち 2023

はじめに

ばっつもさっちもです。
高校の英語科教員として働きながら、小説家を目指しています。

今年はフルタイムから非常勤講師に転向したので、自由時間が増え、読書の質が大幅に上がりました。ありがたいことに下の記事も多くの人が読んでくださって嬉しいです。今後も、小説家を目指して頑張っていこうと思います。

さて、今年は様々な本を読むことができました。その本の一覧と、簡単な感想を載せておきたいと思います。いつもは、素敵な文章に線を引いて、エクセルかワードにせかせかと打ち込んでいます。

タイピングってて大事ですね……。線を引くだけでは気付かなかった技法など、新しい発見があるので、小説家志望の方にはおすすめです。

ランキング形式にはしていません。口頭では好き嫌いやランキングを言うのですが、文字は一度書いてしまうと価値が固定化されて絶対的な優劣が生まれてしまうので……。でも、ランキングを書きたいと思った時は書きます……。笑



01 むらさきのスカートの女/今村夏子

芥川賞受賞作です。今までにない斬新な表現を追求した賞に送られる作品に沿っているなと思いました。文字だけで「不穏さ」を表現するのは難しいですよね。勉強になりました。文章のどれもが信じられなかった作品です。でもところどころ、人間らしさが出てくるんですよね。そこが「信じられる要素」になりますが、もちろん宙ぶらりんです。

02 一人称単数/村上春樹

文学界の巨匠、村上春樹の短編集を読みました。レコードの趣味全開の話と、ところどころ現れる村上春樹の癖なのかな?「ちょうど〜のように」という表現が良かったです。村上春樹は英米文学を土台にして、精通していると自身でもおっしゃっているようですが、文学部の教授たちからすると、どうやら日本文学にもかなり精通しているようです。

公言していないのに精通しているって、どんなところから分かるのでしょうか。とても気になるので、次教授にあったら訊いてみます。

03 ここから世界が始まる/トルーマン・カポーティー

カポーティーの初期の頃の短編集。名だたる巨匠も最初は短編集を練習していたらしいので、彼の初々しさが見れた気がします。急に、ふとした時に、何かがきっかけとなって、誰かがすんなり死んでしまう、という不条理的な一面が恐ろしかったです。

インフラが整っていなかった時代は、私たちが歩きながら蟻を踏み殺しているように、私たちも突拍子もなく死んでしまうことがあったんでしょうね。もちろん、日本以外の国で常に生命の危機に晒されている地域は今もありますね……。戦争は人為的ですが……。果たして安全になりすぎている社会はいいのか悪いのか。そういったことを考えさせられました。

04 夜空に泳ぐチョコレートグラミー/町田そのこ

古い一軒家についている大きな水槽がとても印象的でした。個人的に、目で見た景色より、文章で見た景色の方がずっと覚えています。ただ、現実の景色が劣っているわけではありません。おそらく現実の景色の素晴らしさに気付けなくなったんでしょう。だから本の世界に逃げているのかも……。

連作短編集になっており、さりげなくそれぞれの話がつながっている、「私だけが気付く快感」も味わうことができて良かったです。

あと最初の3行が印象的で、とても勉強になりました。やっぱり書き出しってとても哀重要ですよね……。それぞれの主人公が「何かを持っている」ところと、それが「あるもの」につながるところが良かったです。

05 赤頭巾ちゃん気をつけて/庄司薫

古い芥川賞受賞作品ですが、面白かったです。高校生の主人公、薫くんが一癖あって傑作です。生々しい男子高校生らしさや、思春期特有の悩み、そして「優しさ」とは……。薫くんのセリフが心に残っています。

06 貝に続く場所にて/石沢麻衣

ドイツと日本が重なり、「記憶」というキーワードで色々な情景を描き出してくれます。身体に刻まれた記憶はなかなか取り除くことができず、自国を離れていても、ふとした瞬間に蘇る……そんな物語でした。

キリスト教の聖人に関する記述が印象的でした。異文化、特に宗教知識を持っていると、なお楽しめる作品です。

「笑い声の裏に啜り泣きの気配がある」(引用)
人物に潜む鬱々とした翳みたいなものが、常に表現されていました。

07 莉子 1st フォトエッセイ『ひたむき』/ 莉子

教え子から借りた作品。このフォトエッセイで初めて知った莉子さん。頑張る姿、打ちひしがれる姿、真面目な姿、全てが愛おしく見えます。本人が悲しんでいる時でさえも……。

08 世界と私のA to Z /竹田ダニエル

Z世代の実情を描いた批評書? になるんですかね。アメリカにおける若者の価値観の変化、社会の変化が分かります。社会に蔓延している価値観を知ることは作家にとって重要ですね。「今、あなたはなぜこの作品を書くのか?」と訊かれた時に、答えるのは社会をしっかりと捉えていかなければなりません。ただ今は個が重要される時代でもありますね。

09 おいしいごはんが食べられますように/高瀬隼子

「俺は、美味しいもののために生活を選ぶのが嫌いだよ」(引用)

この言葉がとても印象的でした。美味しいものは好きだけれど、美味しいもののためには生活を選びたくない。いいですね〜。単なる選択のストレスというわけではなく、そのストレスは社会によって受けている。こういうことをさらっと言われると唖然としてしまいます。

「会話で語る」技法が優れているなと思いました。

10 暇と退屈の倫理学/ 國分功一郎

これは傑作。哲学書なのに、まず読みやすい! 現代哲学って、研究者たちが難しい単語を並べて内輪で楽しんでいるイメージがあるのですが、この本はサクサク頭に入ってきます。

退屈なときってありますよね。この本を読むと、「退屈なとき」が退屈ではなくなります……。ぜひ読んでください。

11 骨を彩る/綾瀬まる

これも傑作です。とにかく表現が美しい。それに人物描写と感情表現が圧巻です。主人公の設定に対して、感情の動きが繊細でとても勉強になりました。あと比喩表現が独特です。独特の割にはスッと入ってきます。すごい……。ちなみに生徒が教えてくれました。まじ感謝。

12 死神の浮力/伊坂幸太郎

日常生活に「死神」という特異点があるだけで、物語の深みと面白さがグッと増します。現代の常識に反応してしまう「死神」のセリフが面白かったです。

13 ハンチバック/市川沙央

芥川賞受賞作です。作中はとある領域で使われるワードがいくつか登場してきたので、それらを調べながら読みました。いつも物語を書くときは誰でも分かるようなワードチョイスをするので、そういう書き方もあるのだなと勉強になりました。

「私の身体は生きるために壊れてきた。」(キャッチコピー、引用)

このキャッチコピーはどなたが考えたんでしょうか。作家さんなのか出版社なのか、個人的には疑問です。本文に登場するのですが、これを主軸としてしまうと印象がかなり偏ってしまうような気がします。

14 犯人のいない殺人の夜/東野圭吾

タイトル通りの短編集がいくつか入っています。深みはないのですが、練られたトリックと謎解きが気持ちいいです。構成が勉強になりました。特に回想部分の入れ方が。

15 教養としての官能小説案内/永田守弘

官能的な表現を学びたかったので購入。文化的な側面を学びつつ……エッチでした。いや、エロかったです。今はエロ動画があふれていますが、昔の人は文字だけで想像していたんでしょう。こっちの方が卑猥で妖艶ですね。

性的欲求は人類の永遠のテーマですからね。

16 なつかしの高校国語/筑摩書房編集部

高校で扱われる芥川龍之介や夏目漱石、中島敦などの作品と、それを高校授業でどのように活かすかということが書かれています。

文学作品の批評書を読んだことはありますか? 文学部ではよく一つの作品を取り上げて、その作品を批評していくのですが、これがまた面白いのです。

個人的に作品の解釈は人間の数だけ存在すると思っています。つまり、私が思った感想が正義なのではなく、他の誰かが感じたことも正義です。もちろん誤読もありますが。私はもうそれも許容しています。だって誤読を恐れると自分の感想がかき消されるからです。

その作品解釈を研究した方々の思いを読むのは、いつも以上に作品に深みが出ます。中島敦の『山月記』なんかも、私が感じたこととは全く別のことを論理的に述べていたので面白かったです。

17 能の表現──その逆説の美学──/増田正造

日本芸能の一つ、能。個人的にはとても面白かったです。能って全てが逆説なんですよね。能の演者はあまり動きません。なぜだと思いますか? それは最大限の動きを表現するためです。動くために、動かない。逆説でしょ?

自分の常識が覆りました。

18 わかれの船/宮本輝 編 

「別れ」をテーマに、さまざまな作家の短編集を集めたアンソロジー。文豪たちのセリフの言い回し、使っている言葉、情景描写、とても勉強になりました。

この本を読んで、新しい短編を描きたくなりました。凄まじい……。

19 火花/又吉直樹

芸人ピースの又吉のデビュー作。笑いのための笑いを求める登場人物。その純真さは社会でどう現れるのか。一見、「真剣」という表現とは程遠い「芸人」ですが、そんなことはありません。どの分野にも「純度」があります。お笑い100%には、もう「一般的な笑い」なんて存在しないのでしょう。そこにあるのは世界を揺るがすための真の剣。それを準備する登場人物は、まさに生きた人として残りました。

面白かったです。でも、同僚に訊くと、面白くなかったと言っていました。きっと登場人物の一人は、そんなことを「どうでもいい」と思いたいんでしょう。つまり他者評価なんて関係ない。いかに他者と比べずに自分を納得させられるかどうか。

ただ、芸術は特に「自己」と「他者」が密接に関係しています。大衆を置き去りにした自分よがりの音楽を発信しても万人受けは狙えないでしょう。ただ万人受けを狙ってしまうと、不純物が混ざりますね……。ああ悩ましい。

おわりに


今年はたくさんの本を読むことができて幸せでした。まだまだ読んでいる途中の本がたくさんあるので、楽しんでいこうと思います。

良いお年を!


東京の夜景。地獄絵図に似ていました。



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ばっつもさっちも [教師/小説家/ライター]
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