インド人の喧嘩に遭遇して
ナマステ。
ネパールから入国して2週間がたった。
僕はアーグラという街にいた。
この街には世界遺産でもあるタージマハルという建物がある。
タージマハルとは、ムガル帝国第5代皇帝シャー・ジャハーンが、1631年に死去した愛妃ムムターズ・マハルのため建設したお墓。
入場料はいくらだっけな?もう忘れてしまった。
この街には、殆どがタージハマルを訪れる観光客ばかりで、その他はそんなに魅力はない。只、この建物は安宿から歩いて行ける距離でもあるので、散歩コースに含めるのには丁度良く、のんきに周辺も見て回ったりしていた。
この頃にはちょっとインド人疲れしていた時期でもあった。
ネパールのポカラという避暑地から陸路でインドに入国してから、インド人の多さやがさつさ、好奇心からの視線がしんどくなってきていた。
ポカラは少々標高が高くて日差しがきついが湿気もなく、窓の外の景色は緑が多い茂る山々の数々。本でも読んでまったりするのは最高の街だった。
街の中心ある湖の周辺には店や安宿が多く立ち並び、そこではボートも借りることも出来る。
カトマンズで待ち合わせていた日本人と一緒に、僕らは釣りをしたり、舗装されていない山道を歩いたり、雨期のカトマンズでなかなか乾かない洗濯物を再度まとめて洗ったり。
首都カトマンズより人が少ないのでリフレッシュ&リラックス出来た。過ごしやすい環境なので当然に沈没者もかなりいた。
釣れた魚は少年たちにあげました。
そういう日々を過ごしていたので少年たちとも仲良くなり、「ジャパニは釣りがみんな上手なの?」と傾倒させることに成功(笑)
そういう街からのインド入国である。
ポカラからインド国境までバスで10時間。
ボロボロのバスを見た時には絶望感を抱き、その予想は的中で、前との隙間がないぶっ壊れた座席で何とか耐え忍んだ。
道中、幼子を連れた女性が乗ってきたので席を譲ろうとすると断ってくる。「貴方は外国人だから」って。そんなの気にしないで。
さて、アーグラの話に戻しましょう。
いつものように安宿の近くにある食堂でカレーを食べていた時、外で騒がしい音がした。複数人の声が聞こえる。
その声がするほうへ目を向けるとインド人数人が怒鳴り合っていた。
また喧嘩してるなあ。
インドへ来てからそんな印象を受けていた。とにかく主張が激しい。言いたい事は言う。思った事は口に出す。皆がそうではないんだろうけど。
食堂のおばちゃんが不安そうにその言い争う様子を眺めている。
どうやら食堂の向かいの雑貨屋と、おばちゃんの息子の相性が良くないらしく、いつも口論していると聞いた。
双方とも段々と口調が荒ぶっていく姿をみて、僕らも「え、これ大丈夫か?ちょっとやばいんじゃないの・・・」と不安になってくる。カレーを食べる手も止まる。
とうとう相手がキレたのか。右ストレートを息子へ放った。
あ。。。
と、思ったと同時に、息子はふっ飛ばされたところにあったコーラビンを入れる黄色くて四角い容器を片手で持ち上げ、コーラビンごと相手にぶん投げた。
それにキレた雑貨屋のオヤジが息子に襲い掛かる。
息子の胸ぐらを掴み、お前!それはやり過ぎだろう!!!とか言ってるのか。互いにヒンドゥー語だから何を言っているかわからないが、恐らくそんな感じだった。
運悪く、息子がぶん投げた容器は相手の顔面に当たってしまい、血だらけで地面に倒れていた。
おばちゃんは必至に止めに掛かるがもう聞く耳を持たない。
雑貨屋のオヤジは止めに入るおばちゃんを突き飛ばしてしまった。
「きゃー!!!」
その悲鳴を聞いた食堂の親父が何事かとキッチンから出てくる。
(うわ。これはマジでやばいぞ。)
その光景を見て、直ぐに親父も状況を理解したらしく、親父は一旦キッチンに戻った。
(え?何で戻ったの?)
その時僕らが想像したのは、親父はこれ以上お互いに手を出さないようまずは仲裁に入るか、突き飛ばされたおばちゃんの身体を気にするのか、救急車や警察を呼ぶのか等々思っていた。
胸ぐらを掴まれた息子は一歩も引かず、ひたすらに怒号を浴びせる。とうとう雑貨屋の親父も息子を殴ってしまった。
血だらけになってしまった相手も起き上がり、両方で息子に襲い掛かる。
格闘技とはまるで違う。これが殺気か。
息子は手にする物すべてを使い二人に対抗する。
もう事態が混乱して収拾がつかない。必然的に野次馬も集まってくる。
食堂の親父がキッチンから出てきた。
心の中では(何やってんだよ!)って思った時、親父はコーラの空き瓶2本を僕らのテーブルに置き、奇声を発しながら彼らの喧嘩に突入していった。
??????
僕らの目の前に空き瓶を置いていったよ。こちらは2人。2本。
どういう事!?
おいおい、加勢しろってか。今日で決着付けるぞってか。
僕はごく普通の日本人。この喧嘩に参加するのは到底無理。
だけど、一緒にいた日本人は元陸上自衛隊員。彼と目が合う。
「カレーの恩返しですかね」
全く面白くない。何だよ、カレーの恩返しって。そもそもお金払って食ってるし。変な血がたぎってるんじゃないよ。止めてくれ。。。
僕の想い願いとは裏腹に、彼は静かに席を立つ。
そういや、彼はこの前、インド人にファッキンって言ってしまったな。その時は英語が分からないんだと必死に言い訳をしてインド人と仲裁出来たが、あの感情がこのシチュエーションでリフレインされてしまったのか。
立ち上がった彼の姿を見て、おばちゃんは悲痛な声で「あんたたちには関係ないから。絶対に店から出ないで。」みたいな事を言ってくれる。
その表情はとても悲しかった。
喧嘩は出来なくても俺にも何か出来るんじゃないか。
そういうスイッチが入った。入ってしまった。
すると、ウ~ウ~~とのサイレンが鳴った。どうやら誰かが警察に通報してくれたみたいだ。
喧嘩の当事者4人が連行され、パトカーが走り去ると周りの野次馬もさっさといなくなった。こういうところがインド人らしいなあと思う。好奇心が旺盛だから何事も興味を持つが、その対象が無くなると何事もなかったのようにふるまう。華僑に勝てるのは印僑しかいないのかも。
道端にはモノが散乱し血も残っている。直ぐにインドの灼熱の熱気が蒸発させるのであろう。果たして彼らは日常に戻れるのか。遺恨でまた繰り返すのではないか。
その後、彼はカレーをおかわりした。食欲を増すんじゃないよ。と思った。
おわり。