機動戦士ガンダムGquuuuuuX(ジークアクス)先行上映感想
新作シリーズジークアクスの先行上映、「機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス) Beginning.」を見ました。
面白く見れた。
ネタバレすると、ガンダム版の歴史改変SFである。
ストーリー
シャアがガンダムを鹵獲しアムロが登場せずジオン勝利世界線になってしまった世界。その5年後、UC0085年の物語。
先行上映では前半がシャアを主人公とする一年戦争(ではなく独立戦争と呼ばれる)の大筋、後半が本編の冒頭となっていた。
以下詳説。ファーストガンダム見てる前提で書きます。というか映像自体がファースト見ていること前提みたいな感じだったのでそうせざるをえない。
ザクがサイド3に侵入する1話の完全なパロディ(オマージュと呼ぶべきでしょうか)から話が始まる。なぜかシャア自身がジーンの代わりに偵察に行った結果、ガンダムとホワイトベースをあっさり鹵獲。ザクではなくガンキャノンを切り伏せる。
宇宙で迎撃のために別のガンダム(01ガンダムと呼ばれる、たぶんRX78-1プロトタイプガンダム)と鹵獲ザクが出てくるもシャアはあっさり撃破。格闘戦は2話と3話のパロディ。
それからガンダムにビット(原作でエルメスに搭載されたものに似てる)を搭載し、鹵獲したホワイトベース(ソドムと改名)を改修。フラナガンに紹介されたシャリア・ブルと共に無双。そしてシャリアらとNT部隊によるクーデターを画策。と、トミノメモ(打ち切り前の構想)と小説版を下敷きにしたような展開になる(ララァは登場しない)。
そして戦争終盤。追い詰められた連邦が、奪取したソロモンをジオンの拠点である月のグラナダにぶつける作戦に出る。つまりアクシズ落としの逆みたいなことをやられる。シャアはそれをザビ家と連邦共倒れの策として使おうと画策してソロモンの中に侵入。残兵と戦うが相手がアルテイシアと気づいて手を引く。そこを撃たれたりなんやかんやしてシャアのガンダムはソロモン内部に閉じ込められちゃう。そこでシャアはヤバいNT能力の交信を受ける(原作のララァ登場時に酷似した音が流れる)。そしてそこで世界線を超えた何か(?)と会話するがそのやりとりは外で待つシャリア・ブル視点で主に描かれるのでよくわからない(作品世界の核心なんでしょう)。
でシャアが「刻が見える…」つってソロモンから巨大な光が出てシャアとガンダムは消失。このときキシリア(グラナダ指揮官)が「シャロンの薔薇」とかなんとか知らない単語を言う。
さて、ソロモンはアクシズのように離れていってグラナダは無傷で済み、シャアのクーデータもなくなったのでジオン完全勝利(連邦の完全撤退、と言っていたので地球は連邦のものなのかな)として戦争は終わった。シャアに心酔していたシャリア・ブルはその後もシャアの行方や痕跡を探し続ける…という感じで前半終わり。
後半は五年後のUC0085からはじまる。ホワイトベース型軍艦の指揮官をやっているシャリアがサイド6(原作だとテムレイがいたり、ララァとアムロが出会って白鳥が…みたいなコロニーなどがあるところです)でシャアのガンダム(と同じ赤い機体)が動いているのを見つけるところから始まる。
シャリアはシャアのガンダムを強引に奪取しようと部下をガンダムクアックス(シャアのガンダムをベースにジオンが作った試作後継機)に乗せて出すが、サイコミュがうまく操縦できない。そのところにコロニー(ジオンとはやや独立した在地統治機関)の軍警(憲兵というよりは武装警察っぽい)がやってきてちょっとした抗争になる。で、その3つどもえに巻き込まれるのがサイド6の日系コミュニティに住む一般市民のアマテちゃん(主人公)。シャアのガンダムと出会い、色々あってガンダムクアックスを奪って軍警のザクを倒す。翌日(数日後だったかも)さらに非合法バトルに参加。シャアのガンダムを駆っていた少年シュウジと共に二体のガンダムで相手をNT能力でボコボコにするまでが描かれる。短くまとめたけどこっちも2~3話ぶんくらいあって地味にカムランさんとか出てくるよ。
作風
前半はファーストっぽい、というよりOVAのジオリジンっぽい作画。ファーストの曲・効果音をかなりアレンジ少なめで使う。メカデザインは変更されているが、それが歴史改変に伴う何かなのかただの見え方の違い(ポケ戦みたいな)なのかは不明。声優は一新されていて、原作に寄せている人と寄せていない人(シャアなど)に分かれている。まさに二次創作ファーストガンダムって感じ。
後半は曲もキャラデザも変わる。色味やメカの雰囲気は共通なのでそんなに違和感はない。両方に登場するシャリア・ブルのキャラデザもちょっとだけ違う。効果音(ニュータイプ音やブーン!って衝撃音)はファースト同様のが使われる。
物語に対する想像
歴史改変とニュータイプ能力が関わっているのはほぼ間違いない。可能性としてこれが作品内作品である可能性や世界ごとループしているみたいなオチもないではないが、いまのところ歴史改変モノだと思うのが妥当でしょう。
また、シャアがサイド3に向かったことについて「あのときのひらめきが私を変えた…」みたいに述懐したり、グラナダに謎のオブジェクトがあるなど、何かの意思でこの世界線が生まれたことが示唆される。つまり宇宙世紀のどこかのタイミングで何かが起きた結果、この世界線が生まれたってことなので、最終的には今まで描かれてきた宇宙世紀モノにつながる何かになるんではないでしょうか。マーベル作品におけるバースほにゃららみたいにジークアクスバースが生まれたうえで、いままでのアムロバースがあるみたいになるのかなと思った。そして「ZZ」と「逆シャア」にしょーもない後付けを加えまくった「ユニコーン」同様、本作もまたニュータイプというものに新たな後付け設定を加える作品になるんでしょうね。
シャアが世界線の向こうから来た存在と会話していたので本編でも主人公らが世界線を移動する可能性もあると思う。その時に出るエフェクトがオーラロード(ダンバインの異世界転生)っぽかったっすね。最終的にはアイカツマルチバースともくっつけば良いと思います。
後半に登場したシャアのガンダムは前半のガンダムとは別の世界線から来たんじゃない?って私は思った。
そういえばタイトルのジークアクスというのはガンダムの名前でありつつも、やっぱりジークジオンにかけてるんでしょう。でも戦後のジオンはファシズム国家というよりもコロニーに対して軍事的に間接統治する巨大国家として描かれる感じだった。それについてナチスではなくアメリカ的に描いているという見方をしている人がいた。そうであれば宇宙世紀を舞台により現代的な政治が描けるが、描ききれるんですかね…。実際のところナチスすぎると困るから間接統治ってことで現代日本風のコロニーを最初の舞台にしただけじゃないだろうか。(なおサイド6は元が中立の場所なので、それでジオンの支配がおよんでないともとれる。ほかのサイドにはやっぱりナチス的なジオン公国があるのかもしれん。)
感想
「真実の世界はこうだ」というタイプの陰謀論がハバを効かせまくって世界に害を与えまくっている時代に、(架空世界を舞台に)わざわざ歴史改変モノなんか作る意義はあるんですか。もし今後の物語展開を通じて「その意義があった」と言えたなら傑作だと思うが、「なかった」ということなら…。
そういえば鶴巻監督作品といえば主演の声優だった清水富美加が幸福の科学(カルト宗教な上に陰謀論集団でもある)に取りこまれる事件がありましたね。そうした何かから画期的な作品が生まれたりしてくれるのだろうか…?あんまそういう気がしない。
ただ、前半のパロディ同人誌みたいな展開でかなり笑っちゃったのも事実。冒頭は全く同じナレーションと画が展開されるのだが、コロニー落としは3DCGではなく原作同様一枚絵の引きで描かれる(結果としてソシャゲみたいな質感になってた)ような妙なこだわりとか、ウケはした。フラナガンが宇宙博物館で密談してるっぽいのとか、ドレンが長生きしてるのとか小ネタも面白がれた。杉田智和のマクベがほとんど塩沢兼人さんの物真似だった(ラジオかなんかで昔やってたはず)のも面白かった。
くだらないパロディも多くて、おおらかな気持ちで見れた。シャアが「五倍のエネルギーゲイン」って言うのとか、同人誌ですらなく、2ちゃんの「シャアがガンダム乗ったときに言いそうなこと」スレの一番つまんないレスって感じだよ。それを本当に映像化するのは面白いです。
それになによりシャリアブルは好きなキャラなので、シャリアの活躍が見れるのは嬉しい(なんか原作より若々しいのが不満)。
あと、テレビ版ガンダムの曲っていいなあと思った。劇場の音響で聴く「颯爽たるシャア」や「シャアが来る」のインスト版(ある程度アレンジ入ってた)はとてもよいですね。
本編も楽しい話だったけど、日系要素がなんか気にかかる。サイド6に日系コミュニティがあって、普通に日本語が公用語になっていて色々な景色が日本風。なんなら車のナンバープレートまで日本風で学園ものっぽい高校も出てくる。中国語やハングルも見られるので東アジア的な空間になっている。一方で場末の日系人(ヒロインのニャアンなど)たちは「不法難民」としてしょっぴかれていて人権も侵害されている。一方主人公のアマテは市民権を持った日系人で、中流家庭的なくらしをしている、というちょっと昨今の香港っぽい描写が入る。
ガンダム的に解釈するなら棄民だったはずの宇宙移民が戦勝国になった結果、その中で出自による格差が発生する…みたいな設定なんだと思う。それ自体は良いと思うんです(原作のアムロの故郷が全然日本っぽくなかったのかどうなるんだよとは思うが)。
しかしこのコロニーにはネノクニ駅(記紀の「根の国」のことでしょう)があったり小さな稲荷神社があるなど神道要素まで存在する。主人公のアマテ…って名前はアマテラスからですよね(姓のユズリハは正月かざりとかに使われる植物らしい)。
ただでさえ陰謀論めいた作品なのにそこでさらに神道も出すとは恐れ入谷の鬼子母神UFOの夏。貴公、近衛文麿を知っておるかって訊きたくなったよ。中世期の人物です。
全体に対する雑感
まあ、遅かれ早かれこういうのは出ると思っていた。ガンダムもマーベルみたいにマルチバース話で稼ぐんじゃないかって自分以外のオタクも予期していたことだと思います。ゲームではそういう作品だいぶ前からあったし、そもそもターンエーという作品によってマルチバースの前提は整ってるし。見せ方はなかなか驚いたけど、来るべき商品が来たって感じ。
私はそれでも、富野由悠季という作家の「一個人の感性が存分に注ぎ込まれた結果生まれた傑作」として機動戦士ガンダムを記憶しておきたいなあ…とやっぱり思いました。仮に不思議パワーで歴史を変えることができてもシャアは富野が殺したんだから安彦が描こうが庵野が書こうが復活することはないのです。しかしそれはそれとして中国の無許諾で作られたおもしろおもちゃのようなものとして楽しく観れたらいいなと思います。
あ、そうそう。こんな内容なので、前半のシャア編がそのままテレビ放送される可能性は低いと思います。なのでファーストに魂を引かれている老人は絶対見に行った方がいいです。逆に言うと本編は短いので、前半に興味が無いならテレビ放送を待てばいいと思う。
本編のキャラはとっても可愛かったし、カラーの3DCG技術で動くサイコミュ兵器はかなり見たい。
期待せずに楽しみにしています。
いいなと思ったら応援しよう!
![バターンひやま](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/159326046/profile_e9ea4553bc20b9af3ee067243e601306.png?width=600&crop=1:1,smart)