『外枠不利』は本当か?〜アノ馬から学ぶ有馬記念2021〜
1年が終わる。2021年も残り数日。「もう終わるのか」街中でそんな声が響く。だが、少し考えてみてほしい。我々は1年というものを長く捉えすぎてはいないだろうか。365日。52週間。12ヶ月。
競馬好きにとっては一週間という区切りが大きいように感じる。勿論、地方競馬もバリバリという方は年中無休だろうが、あいにく筆者は交流重賞を眺める程度。土日のために平日を過ごし、日曜が終われば来週の登録馬に目を通す。こんな流れを52回過ごすだけなのだ。そして今まさに、52回目を迎えている。
前置きが長くなったが、今週末、競馬界では1年の総決算、有馬記念が行われる。まあ厳密に言えば2日後にも開催はあるのだが…。そこで行われるのがホープフルS。3歳馬、古馬の最終戦である有馬記念の後に2歳G1。ホープフル(Hopeful=希望に満ちた)だなんてJRAも粋なことをする。こんな書き方をすれば、決まって「有馬が最後じゃないとおかしい!」という争いが起こるのだが、それはまた別の話。
脱線した。それでは例のごとく、皆様に質問をする。
JRA全GⅠの中で、有馬記念だけで
行われる特別なこととは?
難しく考える必要はない。いや、即答だったかもしれない。そう、有馬記念では、枠順の公開抽選会が行われるのだ。
枠順。これはレース展開に大きな影響を与え、時に勝敗をも左右する。「枠が逆なら勝ち馬は違っていたかもしれない」こんなことはよくある話。だが、「何番枠がいい」などと希望できるものでもない。天命に任せ、決まった枠からレースをするしかない。これがまた競馬の面白いところでもある。
そんな、「勝負の前の運試し」とも言える枠順抽選が、「ドラフト制」で行われたことがある。2014年の有馬記念だ。筆者は当時競馬を見ていないため、情報をもとにした推測で物を言うことは許してほしいが、有馬記念の枠順を語る上で、この年がとても重要な意味をもつことは言うまでもない。なにを隠そう、有馬記念は数あるGⅠの中でも特に枠順が重要であると言われるからだ。
まずはこの年の枠順抽選がどのようなものであったかを確認していく。とられた方式は「ドラフト制」と言ってもプロ野球のドラフト会議とは違った、簡易的なものであった。まず、ゲストの田中将大さん(プロ野球選手)と松山康久さん(元調教師)が枠選択の順番を決める。そしてその順に各陣営が希望の枠を述べ、決定していくというものだ。枠選択順と確定した枠番は以下の通り。
一目瞭然だろう。内から外へ。これではっきりしたのだ。関係者が「内枠有利、外枠不利」であると認識しているということが。そしてこれは結果にも現れた。
一番目、二番目に枠を選んだ馬のワンツー。言い換えれば「一番良い枠」と「二番目に良い枠」のワンツー。勝ち馬が4番人気、2着馬が9番人気であったことを考慮すれば、枠の影響の大きさも如実に表れるというものだろう。
ではなぜ、内枠有利なのか。いや、外枠不利と言われるのか。それはこの一点に集約される。
スタートから最初のコーナーまでの距離が短い
以下に示したのは中山競馬場のコース図である。2500mのスタート地点を見ていただければ分かる通り、このコースはスタートしてすぐに3コーナーを迎える。天皇賞秋などが施行される東京2000mと同様に外枠の馬は好位を取るのがとても難しい。抜群のスタートを決めたとしても、内でまずまずのスタートをきった馬がいれば距離ロスの分、前に入られる。かと言って強引に行けばメジロマックイーン(1991年の天皇賞秋)のようになってしまう。
そして、好位が取れなければ、そのまま道中の運びにも影響する。コーナー6回を周るこのコースで、外々を周らされるのはかなりのロス。かと言って内に入れようと思えば最後方近くまで下げなければならない。一般的にあげられるのがこれらの理由。そして、長い長い有馬記念の歴史の中で「大外16番は勝利なし」というデータがそれらを証明している。
ここから『外枠不利は本当か』という本題に入っていくわけだが、結論から書く。外枠は不利である。間違いない。ファンのみならず関係者が言っているのだし、データにも表れているのだから間違いない。
が、このまま終わってしまっては前菜だけを食べさせられたコース料理のようになってしまう。余談だが、以前行った焼き鳥屋で、「前菜3品と串3本セット」を頼んだら最後まで串が出てこなかったのには参った。3本セットに入っていないものをと、先にレバーやらなんやら頼んでセットの存在を忘れていた筆者もアホなのだが、もうお腹は一杯だ。会計のときに気づいて店員さんに話し、「もう食べられないので」と言って店を出たが、どうやら割引してくれていたらしい。
こんなどうでもいい話を書いているから読んでもらえなくなることは分かっているのだが、この話だけはどうにも添削の手を逃れる。ここまでで終わり、となればただのタイトル詐欺だ。皆が口を揃える定説に立ち向かい、最終的に焼き鳥屋の話をして終わったなんてことになったら、この先筆者の記事を読む者は誰一人としていなくなるだろう。
話をもとに戻し、ここからはまじめに書こう。なんども書くが、外枠不利は間違いない。間違いないが、その中でもなにか攻略の糸口はないか。そんなとき、先程紹介した2014年の結果が目に入った。
着目すべきは3着馬。ゴールドシップ。今年ウマ娘で爆発的な人気を誇り、、、ダメだダメだ。まじめに書こうと決めたばかりではないか。そう、「一番良い枠」と「二番目に良い枠」がワンツーを決めた中、この馬は「下から4番目の枠」から3着に入ったのだ。
過去10年の結果を見ても、7、8枠から好走したのはたった4頭、6回しかない。しかし、その内の3回はゴールドシップ。3年連続7枠からの発走で1、3、3着。この馬から『外枠不利』を打破する道が見つかるかもしれない!そんな期待を胸に、7、8枠から好走した以下の4頭の共通点、7、8枠の壁に跳ね返された馬との相違点を調べてみた。
1.中山実績
言わずもがな、中山競馬場は特殊なコースである故に、リピーターがうまれやすい。中山競馬場で重賞6勝を挙げたマツリダゴッホなどが最たる例だろう。不利と言われる外枠でも、中山実績があるなら好走できるのではないか。
まあ特別良くもない。出走経験があるなら、好走していたほうがプラスという程度だろう。マツリダゴッホほどの中山巧者というのも最近はいないということなのだろうか。
2.非根幹距離実績
400で割れる距離を根幹距離、そうでない距離を非根幹距離と呼ぶが、この2つではレース質が異なる、なんてことをたまに聞く。走る血統なども違ってくると言うから調べてみた。
これは割と良いのではないか?ゴールドシップとフィエールマンは見るからにいい。シュヴァルグランも前年の有馬記念での好走や同距離のアルゼンチン共和国杯勝ち実績があるし、サラキアは1800mを連勝してからのエリザベス女王杯2着というローテだった。
え、これだけ?
そう思った方も多いだろう。2つのデータを並べてみたが、これではあまりに説得力に欠ける。それに、この程度のデータならこれまでに誰かが発信しているはずだし、そもそも根幹距離と非根幹距離の違いってなんだ?もし違いがあるしたら、菊花賞好走馬が天皇賞春で好走しやすいというデータはどうやって説明する?私にはまだそれを説明するだけの力はない。
はあ。『外枠不利』の一般論に反旗を翻してみようと思ったが所詮この程度か。。。そんなときだ。また彼に目がいった。いや、彼から訴えかけているかのようだった。
ピスピース!
ウマ娘宣伝担当のゴルシちゃんだぞ〜!
またふざけてしまった。本当に申し訳ない。ここまで長々と、こんな文章に付き合ってくれた方に見せるものではないことは分かっている。が、やはりこの馬だ。この馬の走りこそ、有馬記念の外枠での走りなのだ。
具体的にどんな走りだったかは、この馬の有馬記念でのコーナー通過順位を見れば分かる。
そう、一言で言えば「捲り」である。3コーナー手前から動き始め、直線に入る頃には先頭集団に並びかける。そしてそこから一気の末脚。これが外枠からの走り方。
ここでようやく気づいたのだ。『外枠不利』を打破するのはデータでもなんでもなく、ゴールドシップそのものだと。外枠に入った馬の中からゴールドシップを探せばいいのだ。ゴールドシップといえば、「捲り」、そこから繰り出される「末脚」。そしてロスのある外を周ることのできるスタミナとそれを裏付ける「長距離実績」だ。
7、8枠から好走したゴールドシップ以外の3頭の競馬を見てみると、フィエールマンは好位追走から3角辺りで動き出し4角ではハナを捕らえているし、サラキアは13-13-13-12という通過順ながら、後方集団から抜け出して前方集団に外から並びかけ直線で驚異の末脚を爆発させた。18年のシュヴァルグランも捲っているとは言い難いが4角で馬群を割って進出し、9番人気ながら3着に入った。
こじつけだと言われるかもしれない。が、ただでさえ不利な外枠から最終コーナーで勝負のできる位置にいる。それこそが外枠から好走するための必須条件ではなかろうか。たとえスタートで枠による不利があって下がっても、終盤で上がっていくだけの地力があれば勝負になるのではないか。
糸口は見えた。小回りの中山競馬場で捲っていける、そして直線でも垂れることなく伸び続けるだけの脚。さらに、勝負所で上っていけるスタミナ。これらをもつ馬をどうにかしてレース前に見つけることはできないものか。過去10年間の外枠に入った馬を調べ続けた。そして、いくつかの条件を導き出した。
①はnetkeibaのデータベースからコーナー通過順位を調べ、3角から4角の間で順位を上げられているか。「捲り」の能力があるかを見る。
②もnetkeibaのデータベースから。推定ではあるが、上がり3ハロン上位の脚を繰り出せているか。「末脚」の能力があるかを見る。
③では地力とスタミナを見る。2200m以上という条件にしたのは、2500m以上のG1が3つしかないため。G1で連対できるだけの能力の下地、さらにそれを発揮するための最低限のスタミナ。
これらを合わせると以下のようになる。
【近10走以内の2200m以上のG1で、4角から3角の間に位置を上げ、上がり3位以内の脚を使って連対したことのある馬】
近10走以内という条件を加えたのは、若い頃に条件を達成した高齢馬が紛れ込むのを防ぐため。そして、過去10年で7、8枠に入った全40頭のうちこの条件を達成していたのは以下の通り。
計10頭が12回。好走したのは4頭で6回。11年ジャガーメイルは向正面で上がっていきながら直線では外に出せず敗戦。13年トーセンジョーダンは4角で更に外からオルフェーヴル、ゴールドシップに被せられ惨敗。15年ルージュバックは直線入口を好位で迎えるも末脚不発。16年マリアライトは3角手前で手応えが怪しくなったし、17年スワーヴリチャードは渾身の騎乗も4着まで。当日逃げた18年のキセキは、外枠から逃げることの難しさも教えてくれた。
そうだ、やはり外枠は厳しいのだ。万全の体調で完璧な競馬をしても届かないことがある。それでも、このデータに該当した馬は【1-1-4-6】と複勝率50%を記録している。勝負所で位置を上げ、更に直線でも末脚を伸ばすことのできる地力のある馬にこそ、外枠から頂を目指す資格は与えられるのだ。このデータはそのことを証明している。
いかがだっただろうか。こじつけがましい箇所がいくつもあったかもしれない。結局データか、あてにならん、と思った方は無視してくれてかまわない。だが、苦しい状況を覆して好走した馬にはこれだけの共通点があった。それだけで充分ではなかろうか。
そんなことはどうでもいいから、今年の登録馬の内、データに該当する馬をさっさと教えてくれという声が聞こえてくる。話をムダに長引かせてしまうのは私の悪いクセだ。
・アカイイト
・キセキ
・クロノジェネシス
・ステラヴェローチェ
・ディープボンド
データを突破したのは上記の5頭。そういえば、この5頭が7、8枠に入らなかったらどうするんだ?今頃気づいた筆者は本当に頭が悪いのだろうか。まあ年の瀬、52回目の週末だけバカになってみるってのもいいだろう。
ちなみに、冒頭に触れた『大外16番に勝利なし』というデータだが、初めて16頭で行われた1979年以来、勝利はおろか3着以内すらないらしい。【0-0-0-23】なんて目も当てられない数字だが、そんなデータを打ち破る馬が今年出るかもしれない。
いつだって『史上初』は刺激的だ。それはデータ通りの捲り馬か、常識を覆す大逃げ馬か。レースの命運を握る公開枠順抽選会は12月23日17:00より行われ、その模様はBSフジ、BSフジオフィシャルサイトにてライブ配信される予定。
グランプリ4連覇か。3歳世代の総大将か。はたまた伏兵が主役の座を奪い取るのか。年末の大一番を制するのは。