旅の記憶 1994・夏 フンザ ウルタル氷河からの帰還
30年前の夏
僕はパキスタンの山間の街
フンザにいた
ウルタル氷河を見た僕らは
来た道を引返す
下るだけだが
疲労困憊な僕は膝が笑い
辿り着けるか不安だった
でも実際はそれよりも大きな問題が立ちはだかる
それは行手を阻む冷たい川
登る時も靴を脱いで越えてきたのだが
帰り道は明らかに水かさが増していた
登りの時は、石を飛び越えて
最後の最後で靴を脱いだ感じだったが
わずか数時間たっただけなのに
明らかに水量が違う
しかも登りの時よりも
水温があからさまに低いのだ
涼しい顔で登っていた
登山家の兄貴もこの冷たがりよう
ちなみに僕の記憶だと
この時僕も川を渡れずに立ち往生
見かねた羊飼いの翁が川底に立ってくれて
自分の膝の上を踏んで渡れと言ってくれた
僕はその行為に甘えて
翁の膝の上に足を乗せて
なんとか川を渡ることができたのだが
僕が1秒足をつけるのを躊躇う冷たさの川に
僕がモタモタと渡る間
足を入れたまま支えてくれた翁の優しさに
感謝の言葉もない
ウルドゥ語しか話さなかった羊飼いたちと
言葉でのコミュニケーションは取れなかったが
今思うと、川の水が増水していることを
知っていた羊飼いの2人は
僕たちが困るのを見越して
一緒に降りてきてくれていたのだと思う
そして当たり前のことのように
僕たちを助けてくれたのだ
このおじいさんにもう会うことは
叶わないだろうが
もしまたこの村を訪れるチャンスがあったら
お孫さんを探してみたい
小さな村だから
もしかしたら写真を持っていったら
わかる人に会えるかもしれない
そんな思いもあって
僕の中で、このフンザの村は
もう一度訪れたいと思っている
この綺麗な景色を
別の季節にも見てみたいし
この建物も気になる
今度はちゃんとした装備で
同じルートのトレッキングにも再挑戦したい
こうして僕の
フンザの旅は終わりを告げる
翌日僕たちは フンザを後にし
ギルギットを目指して移動をはじめる
次回からまた
モノクロ編に戻ります
続く
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