「ハーフコート・オフェンスでは絶対勝てない」宮崎早織の言葉が意味するものとは
パリ五輪世界最終予選、いわゆるOQT(Olympic Qualifying tournament)で見事パリ行きを決めた女子日本代表。帰国後の記者会見を観た。
この中で、宮崎早織が語った言葉が非常に印象的だった。
この言葉に、恩塚ジャパンのすべてが詰まっていると感じた。
🏀そもそも「ハーフコート・オフェンス」とは何か?
宮崎の言葉の真意をできるだけ正確に理解したいので、まず「ハーフコートオフェンス」の言葉の意味から振り返りたい。
「ハーフコート・オフェンスとは」と検索すると強調スニペットで表示されたものが以下の説明だ。
速攻などでフィニッシュできなかったときにはハーフコート・オフェンスになるのが一般的だ。そのときには、オフェンスの5人が所定の位置に立って攻撃を仕掛ける。裏を返すと、相手の守備の陣形が整っているということでもある。
🏀ハーフコート・オフェンスで戦わないために必要なことは?
ハーフコート・オフェンスでは勝てない……では、どうすればいいのか? その答えは宮崎が語っている。前述の彼女の言葉の後に続くのが以下だ。
トランジションとは、守備から攻撃(攻撃から守備)への切り替えのことである。そしてプッシュとは、ボールをキャッチしたら素早くドリブルでボールをフロントコートに進めることだ。
要するに「スピードを生かして相手の守備の陣形が整う前に攻撃したい」ということなのだろう。これを実現させるためには、40分間走り切るというタフさが求められる。
なぜなら、ディフェンスでプレッシャーを与えて相手のミスを誘い、マイボールにしたら素早く攻めに転じる。攻めでは日本の強みであるシュートをできるだけいいシチュエーションで打つ、あるいはスピードを生かしてドライブする。これをやり続けなければならないからだ。
攻撃で「停滞しない」ことが求められている。それが、恩塚ジャパンのテーマ「走り勝つシューター軍団」という表現につながってくるのだろう。
🏀「走り勝つシューター軍団」だからできたこと
「走り勝つシューター軍団」については、インタビューの中で恩塚さんが具体的に説明していた。
逆も然りで、ドライブしてくるからディフェンスが収縮して外が空く。そうなると、プレッシャーの少ない状態で3ポイントが狙える。結果、確率が高まる。という好循環が生まれる。これは恩塚ジャパンに限らず、バスケットボールでは当たり前のセオリーである。
ということは、やはり成否にかかわらず3ポイントを打つ続けることが大事になってくる。恩塚HCの目指すバスケをより理解している吉田亜沙美がカナダ戦の前に、このように語っていた。
もちろん、恩塚HCが日本、そして相手チームの試合を全て見て分析した戦略はそんな簡単で単純なことではないだろう。半年後に本戦を控えた日本であるし、細かい部分は明かせないはずだ。
ただインタビューから読み取れる大枠は、何か特別なことを狙った奇抜な戦略ではなく、日本の強みを生かすのであれば至って一般的なセオリーに帰結した。恩塚さんが発した言葉の一部だけを切り取って(カオスとか?)、なんだか難しく考えがちだが、コートで表現していたのは一般的なセオリーだった、そんな気がするのだ。
吉田が会見で笑い話にしていた宮崎の”3ポイントエアーボール事件”だが、あれも宮崎が「走り勝つシューター軍団」という戦略を全うした結果のことであり、なんらマイナスな部分はない。宮崎自身も語っていた。
あのスリーが布石になった。そういうことなのだ。
もちろん、結果が違っていたらそうはならない。なので、ただの結果論だ。だがOQTなのだから、結果が出なければ終わりである。パリ五輪への切符を手にしたのだから、それでいいのではないだろうか。
🏀「走り勝つシューター軍団」のジレンマ
ハンガリー戦に負けたように、恩塚ジャパンの「走り勝つシューター軍団」も万能ではない。相手にドライブか3ポイントかでジレンマを与えている一方で、高さがないことでリバウンドが取れない、ゴール下で勝負されると弱いといった面は否めない。
だったら「高さ」のある選手を選出すればいいじゃないかとなるが、そうなると「走り勝つ」が実現できない(傾向が高い)というのが、走り勝つシューター軍団のジレンマだと思っている。
そこは恩塚HCも課題だと語った。
ここは、さらなる上位を目指すためには避けては通れない部分だと思う。そこをどう対策してくるのか。
と恩塚HCはリバウンド対策のヒントを語った。
ここから読み取れるのは、高さのある選手を入れるのではなく、現状のままでリバウンドを取れるように対策してくるのだろう。それが通用するのかどうか、半年後の本戦の楽しみとしたい。
🏀ディフェンス面での課題を突き詰めていくことも大事
メディアの方の質問がほとんどオフェンス面のことだったのはやや残念だなと思いつつ、やはりバスケはオフェンスのスポーツなんだなと改めて感じた。
1本のシュート、1つのミスが大きく影響してくるOQTにおいて、個人的に気になっていたのがディフェンスのローテーション部分だ。
林はこう語っていた。
ハンガリー戦で、守り切りたい時間帯に日本のローテミスによって相手に3ポイントを決められてしまった部分があった。
これは身体能力や体格差、調子の波などは関係ない。まさに、やれるかやれないかだけの部分だ。ここが徹底できれば、さらに強くなるんだろうなと思っている。
🏀オリンピックに出ることは当たり前じゃない
林がインタビューで「オリンピックに出ることは当たり前じゃない」と答えていた。そう語る林の後ろで、エブリンが大きく頷いていた。
それは「オリンピック出場権を獲得することは簡単なことではない」ということだ。そうなるとオリンピックでメダルを獲得することはかなりハードルの高い目標だということになる。東京五輪で銀メダルという結果は出たが、それも当たり前じゃないということなのだ。
銀メダルという結果が出た以上、とかく周囲の期待は高くなりがちだ。もちろん金メダルを取って欲しいし、選手たちもそこを目標とするだろうが、結果ばかりにとらわれず、選手がそこに挑む姿勢を見たい。大きな覚悟を持って挑んでいたことが伝わってくれば、結果が出なかったとしても私は大きな拍手を送りたい。
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