[#51] 哀愁の「🍎」メニュー

初出: MacPower 2004年 10月号

パリではApple Expoなんてものが行われて、iMacもG5になったこの時期になっても、いまだにWWDCでのキーノート・スピーチで気になっていることが1つある。それはMac OS X v10.4（以下、Tiger）の「🍎（アップル）」メニューだ。壇上でスティーブ ジョブズがデモで使っていたマシンでは、どうも見た目がほかのTigerとは違うOSが使われていたのだ。顕著なのが🍎メニュで、青地に白でリンゴマークが表示されていた。なんか普通のメニューではないぞ、と主張しているように見える。ほかのメニュー項目とはあまりなじんでいるようには見えない。いったい、なぜこんな表示になったのだろうか。

同じ、青地に白の見た目が使われていたものがもう1つあった。メニューバーの右端に新登場した「Spotlight」メニューだ。クリックすると検索フィールドが表示され、そのまま検索結果が表示される。通常のメニューの使い方からはかなり外れている。ここにヒントがあるのかなぁと思い始めた。ひょっとして🍎メニューも普通のメニューではなくなるのではないか、と。

🍎メニューはMac OS Xになったときに大きく変わった。デスクトップアクセサリが廃止され、アプリケーションに関することは「アプリケーションメニュー」に移された。本当にシステム全体の処理に関する（とアップルが決めた）項目以外は姿を消してしまった。ユーザーがカスタマイズもできない。Mac OS 9 までの🍎メニューとは似ても似つかないものになってしまった。残念ながら役割そのものが変わったということだ。

以前の🍎メニューに戻せ！と言うことはできる。そういうツールが作られてもいる。しかし、はたして昔の🍎メニューは本当に使いやすいものだったのだろうか？実は、ずっと以前に破綻していたのではないだろうか。確かに以前の🍎メニューは親しみやすく長らく象徴的な存在ではあったが、メニューであるがゆえの不便さもあったと思うのだ。

🍎メニューの役割が変わり、ランチャーとしての意味はなくなった。再起動 / スリープ / ログアウトなど、システム全体の設定に関わるものしか存在しなくなった。マルチユーザー環境で、権限の低いユーザーの場合では、使うことさえできない項目が並んでいるということになる。なんかもったいない気がする。

ここでWindowsのスタートメニューを考えてみると、その違いが面白いと思う。🍎メニューとは明らかに役割は違うのだが、どちらも画面上に常に存在して、OSの象徴的な存在となっているところは同じだからだ。

スタートメニューは最初はシンプルなメニューから始まったが、現在のXPのスタートメニューなどは、とてもメニューとは言えない作りをしている。ボタンがあり、階層メニューがあり。しまいには、ドラッグ&ドロップでのカスタマイズなどもできてしまう。はなはだ整合性には欠けているが （使いやすいとも思えないのだが）、1つの方向性としては理解できる。

要はユーザーのモードを意識しているかということだ。使う側が「よし、スタートメニニューを使うぞ！」というモードに入り込むことを前提にしているのだと思う。他の場所とは違うのだと。その意味では、通常のメニュとかけ離れていたほうがその意図は明確になるのだと思う。スタートメニューの中身がメニューじゃなくなっていたほうがいいのだ。

🍎メニューもその方向に進んでいいのではないか。もっと大胆にユーザーのモードを切り替えるかたちで、🍎メニューの機能を提供していいのではないか。モードというのは説明しにくいが、例えばワープロで文章を書くときとネットワークの設定をしているとでは、ユーザー自身がそれぞれ違うモードになっている、ということだ。「オレ今、仕事モード」とかいう感じだ。あまり意識していなくても、どんな人でも自然と切り替えているはずだと思う。それを積極的にアシストするようなインターフェースがあるのではないか。

例えばExposé効果だ。ウィンドウを探す、ファイルを探す、というのは一瞬でも作業とは違うモードに入る。それを明確にしてくれるインターフェースという意味で優れている。「Dashboard」への適用を考えても、非常にウマい。モードの切り替えに成功している。Exposé効果だと思う。これをシステム全体の設定に適用してもいいのではないか。素早くもとの状態に復帰できるし、通常の作業との違いも明確だ。そして🍎メニューをそのモードへの入り口にすればいいのではないか？もうすでにメニューではないので、🍎ボタンと呼ぶべきか。

🍎メニューがメニューとして残されている理由は、昔からのユーザーへの配慮なのかもしれない。ここぐらいは最後の砦として残しておいてあげようよ、ということなのだろうか。しかし、全体のインターフェースはAquaに替わり、起動時のHappy Macは消え、ExtensionもDAもコントロールストリップもなくなり、Finderは使い物にならなくなり、ハードディスクの階層構造もまったく変わってしまい、もう何がMacなのだ？という状況になっている。それでも、Macを使うだけの魅力があるのだからすごいと思う。なので、🍎メニューにだけ昔の名残を見つけることができるという現在の状況は、ある種の悲しさを感じずにはいられない。

もし🍎メニューの存在が旧来のMacユーザーのノスタルジックな気持ちを満足させるためだけならば、いっそなくしてしまってくれても構わないぞ、と思うようになってきている。変えるだけの自信が最近のアップルには感じられるからだ。ジョブズが変えろ、と言ったからではなく、開発者たちが自信を持って変えてくれるのであれば、ちゃんと評価しようという気分なのである。……なんてエラそうなんだ（笑）。

バスケ（シエスタウェア代表取締役）http://saryo.org/basuke/
北海道に行ってとして、新庄はサポートしていきたい。札幌ドームはいい球場ですよ。いち阪神ファンの応援をしてきました。しかしプロ野球への熱も冷めかかっているのも事実。つらいところだ。ウマい方向へ収まってほしいと思う。ともかく議論を尽くしてくれ。