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自己紹介を。

 突然声を掛けてきたのは、歳の判別がつかないような男だった。30代にも40代にも見えるその肌の皺のより方は、その男が楽とは言えない生活を送っていることが一目で分かった。人に与える印象なんて考えもしてないようなぶっきらぼうに生え切った髭はその人の「生きること」において重要視していることが、身なりは死んでいても真っすぐと震えることなく正面を捉える精悍な目つきからは「未来への進み方」がなんとなく伝わってくる。
 きつい関西弁に四苦八苦しながらもその男の言葉に気圧されないように、いつもより三割増しの語気で相槌を打つ。風貌だけで言えば、世間からは排他されてしまうような人間だが、自分の身の上を考えれば、この人と自分は大差ない存在なんだ、何を一般人の観点から世捨て人を排他できる権利があるんだと不安に包まれた言葉が、自分に向けられた暴言として堕ちてきた。 
 私の悪いところは挙げ始めればキリがないが、飲みの席で赤の他人が僕に対して好意と興味と目利きの意味で話しかけて来てくれているときに、思案してしまうことだろう。その男は兎にも角にも僕の意見を聞いてくる。一方的に自分語りをしているのかと思えば、どこかで必ず適当な相槌では返せない質問が来る。「どう思う。兄ちゃん。」その前の流れを発作的な思案のせいで聞き逃してしまった。聞き返せばいいものをなぜだか、僕は文脈を無視して自分語りをしてしまった。今は何をしているか、どんな境遇で育ったか、周囲の人間と比較したときの自分のヒエラルキーの位置への絶望などありとあらゆることを話してしまった。
 するとその男はいきなり紙にIDとパスワードを書いて渡してきた。それがここnoteだったのだが。 
 訳も分からず意味を問いても、そこに全部かけとしか言わなかった。思ったこと、今まで心の中にためてあった妬み嫉みから、世間に対するありとあらゆることを書き連ねろと。そのあと私がお手洗いに行ってる間に男がメールアドレスの書置きだけを残し、居なくなっていた。

このアカウントがその男のアカウントだが、私はどうすればいいのか分からない。正直アカウントの譲渡等はどうのようなwebサービスでも禁じられていることだ。だからこそ、このアカウントが運営の方々に見つかり処分されるようであればそのまんま処分していただきたい。
 私は勝手にその時の自己紹介もしないで分かれたその男のことを「リーダー」とし、便宜を図ってこのアカウントの運営をしていこうかと思う。
 リーダーの残した文章が三作ほど見られるが、あんな世捨て人がこのnoteというwebサービスを使って何をしようとしていたのかは分からない。世の中を啓蒙しようとしたのか、恐らく自分が社会的底辺にいることが分かっているからこその説教なのか。彼の意志を継いで私も説教を解けばいいのか分からないが、兎にも角にも一筆だけ添えさせて頂く。

小説家志望だった場末のアンちゃん。

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関東近郊の寂れた「場末」は「場末」な場所に生息している人たちで運営しています。 コラム執筆は「リーダー」が担当。その他は「私」が担当します。