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マンドリーノ東京14thの個人的感想群
毎度おなじみ、と言いつつまだ3回目でしかない、マンドリーノ東京定期演奏会の振り返り曲紹介。前の2回はです・ます調で書いていたが、だ・である調のほうが案外ハジケた雰囲気で書けるんじゃないかと思いついた。つまり、今回はそういうことだ。この記事で実験してみる。
幸いにもマンドリーノの広報部隊を追い出されることもなく、公式Xと公式Instagramでの広報活動に励んでいる。その延長線上で、ここに定演動画のまとめプレイリストリンクなど貼ってしまう。
まとめプレイリストを貼ってなお、各曲の紹介冒頭に動画を貼りつけてしまう。ちょっとくどい。それはわかっているが、そのほうが華やかになるので、どうかご辛抱のほど。では、いざ曲紹介本体へ。
一曲目 武藤理恵 『Paradiso』
懐かしのParadiso。
Q. どうして懐かしいんですか?
A. 高校2年のころ(というのが何年前なのか、計算するのも面倒な年代に差し掛かってきた)に部活で取り組んだ曲だからです。
このイマジナリーインタビュアーなら、それはそれは今回ずいぶんとお楽をなさったようで、と言うだろう。しかーし! 高2の私はコントラバス担当、いまの私は2ndマンドリン担当。手にしている楽器(とそのサイズ感)が違う。ということは弾くメロディも違う。譜読みをサボれない。というか、争点はそこではない。低音パートと高音パートでは忙しさがまるで違うのが問題だ。私の右手および右腕はこき使われて悲鳴をあげる。特に楽譜の3ページ目。休みが、基本的に、ない。トレモロつらいぃぃ。こんなん腱鞘炎になるぅ(不真面目が幸いして、結局腱鞘炎になることはなかった)。
へばっている奏者の私を尻目に、演奏動画を視聴する私は言ってのける。
視:「Paradiso、やっぱいい曲だね。ラテンぽいリズムが楽しい」
奏:「だからさ、そのラテンぽいリズムってのが演奏を忙しくしてるの」
視:「けど、キラキラロングトーンで泣かせにくる系の曲とはまた違った魅力はあるよね」
奏:「むむむ……」
こうして、お気楽に動画を見ている私が勝利をおさめる。
ところで、アップテンポパートに入ってメインテーマが終わったあと(4:13)を聞いていると、頭のなかで熱帯魚が狂ったように泳ぎはじめるのはなんなのだろうか。
二曲目 丸本大悟 『杜の鼓動 –欅の風景–』
高校時代、同じ県内の某進学校のマンドリンクラブが演奏しているのを聞いてすごくきれいだと感動した記憶がある。彼女たちはフルート担当を擁していた。今回の我々にはフルート担当はいない。フルートのメロディは、どこかほかのパートに割り当てられている(スコアを見たことはないが、たぶん)。この、マンドリンオーケストラの音だけで勝負していく感じが、マンドリーノ東京の好きなところだ。
この曲、ものすごく緩急と強弱と音の高低の幅が大きい。速度的に「間に合わん!」な箇所もあれば、初見でも問題なくついていけるほどゆっくりな箇所もある。弦を切ってしまいそうなほど強く撥弦する箇所もあれば、「音出てる??」レベルに小さな音で弾く箇所もある。高低も、たぶん3オクターブくらいは使う。というわけで、いくらでも悪ノリ(?)してめちゃくちゃドラマチックに弾くことができる。ストレス解消に最適。
個人的に楽しかったのは、5:36あたりから始まる
①じわじわクレッシェンドきらきら
②みんなでパッキパキのオールダウンユニゾン
③これまでの流れは嘘だと言わんばかりのお澄ましふんわり美メロ
の流れだった(擬音語・擬態語からなんとなく察してください)。演奏中は息を止めがちな私でも、③の冒頭でなんとなく深呼吸したくなるという健康保証つきだ。
三曲目 青山涼 『虹龍山嶺』
今年唯一の譜読み手探り曲(というのは、全貌が明かされていない新曲のこと)。厳密にはこれが初演ではないらしいが、YouTube音源がなかったので、初回の合奏練習までは他のパートの音がまったくわからなかった。今回は雰囲気で明るい曲だろうなとわかったが、たまに長調なのか短調なのかすらパート譜だけではわからない曲というのもある。
ついでに、タイトルの読みがわからなかった。「ニジタツヤマミネ……?」とか思っていた。こうりゅうさんれい、というのが正しいようだ。広報のとき、一度「ミネ」の字を「峰」にした状態で投稿しかけて、焦った。「峰」なら読みは「ホウ」なので、「ニジタツヤマミネ」で変換していることが、わかる人にはわかってしまう。危なかった。
虹だし龍だし、全体的には明るくて爽やかで力強い。そして青山涼さんの曲ではパートごとに見せ場っぽいものがいつも用意されている。今回も、きれいに弾ければめちゃくちゃかっこいい決めフレーズがあった。その上で弱い音で弾くところもやっぱりあり、1:26の2ndはスズムシにでもなった気分を味わえる(リリリリー、リリリリー)。
イチオシフレーズは5:30からの、ギターがメインになるところ。『杜の鼓動 –欅の風景–』もそうだが、ニ長調への偏愛が止まらない。
四曲目 ドビュッシー (青山涼編) 『小組曲』
今回のベスト苦戦したで賞はこの曲。ちょっとでも失敗して妙な音でも出そうものなら光の速さでバレるレベルの繊細さだった。ドビュッシー、何なん。
苦戦ポイントはいろいろあるが、まず第一曲の「小舟にて」。シドレミレドシ、みたいに山を描くタイプの細かい音の動きを、正確に再現するのが大変だった。第二曲「行列」は、音は高いし細かいし、雰囲気もコロコロ変わるし、変わったならもう戻ってこなければいいのにまた戻ってくるし、小指が短くなかなかうまく音を押さえられない私としては「はあ……」というほかない。第三曲「メヌエット」なんか、冒頭からして出遅れたらまずい。なのに小音符までついている。ドビュッシー、絶対こんな大人数で合わせることは想定してないんだろうな。第四曲「バレエ」が唯一の救いで、これはまあまあ楽しく弾けた。基本踊りたい性格の私なので、動画のなかでもけっこう楽しそうに左右に揺れつつ弾いている。
それにしても、ドビュッシーの想定している小舟が浮かんでいる川か海か湖、だいぶ冷たくないか? と思わずにはいられない。ト長調のせいだろうか。小舟とメヌエットが、なんか寒い気がする。
五曲目 マスネ (飯塚幹夫編) 『絵のような風景』
ドビュッシーに散々してやられた直後に進軍してくるマスネ。
私:あの、御免をこうむるわけには……
マスネ:ゆかん! さあ行進曲で幕開けだ。諸君、進め!
私:(ため息)
一曲目から元気に行進しはじめようとするマスネは、なかなかなスパルタ将軍ではなかろうか。そう思いながら譜読みを始めてみると、行進曲にしては案外優雅で、ひねりがきいている。もっとマッチョな曲かと思った。というわけで、こちらの組曲はけっこう楽しく演奏できた。簡単だったなんて言うつもりはさらさらないが。
なんといってもお気に入りは第二曲の「バレエの調べ」。タイトルだけを見るとドビュッシーの第四曲とキャラ被りしていて、ちょっと気の毒だ。しかし、この曲のワルツ感の素晴らしさといったらもう、ドビュッシーの2拍子のバレエなんてどこかに吹き飛んでしまう(意見には個人差があります)。そしてなんとも珍しいことに、マンドラが主旋律を弾いているあいだ、2ndはずっと休みで、ずっとワルツの音に浸っていられる。なんだ、マスネ将軍、ちゃんと休暇をくれたじゃない。
「バレエの調べ」の冒頭で低音が4回鳴るのに合わせて、私の脳内ではジェイン・オースティンの時代みたいに二列に並んだ貴族の男女がお辞儀をし、一歩進み出て、パートナーの手を取る。3拍子の刻みが始まると、彼らもワルツを踊りはじめる。音が高まっていき、細かい音符がファソラ〜とかミファソ〜と動くのに合わせて、くるりとターンを決める。……練習のたびにこんな妄想をしていた。ちょっとイギリス18〜19世紀の小説の読みすぎかもしれない。
第三曲の「夕べの鐘」は、チェロが本物の鐘のように明るい音色を響かせるのに感心してしまった。いったい何種類の楽器を表現できるんだろう。そして1stがそれはもう大変そうにしていたのが、第四曲の「ジプシーの祭り」。2ndもいつもより忙しかったつもりではいるが、1stはそれどころではない活躍ぶりだった。うーん、あんなに指が動いて羨ましい。
アンコール サティ (武藤理恵編) 『Je te veux』
サティは『ジムノペディ第一番』が個人的に退屈で退屈でならず(もちろん個人の見解です)、なんとなく苦手意識を持っていたのだが、この『Je te veux』、弾いてみたらとても楽しい、いい曲だった。マンドリン・マジックのなせる業かもしれないし、これまた3拍子だからかもしれない。どうにもワルツが好きで困る。
各パートで主旋律と伴奏を順番に分け合いながら、テンポをところどころ揺らしつつ演奏していく感じが、とても心地よかった。それなりに休みもあって、周囲のパートの音に聞き惚れていることができる(が、聞き惚れすぎると次に入るタイミングを見失う)。
『Je te veux』というのは日本語にすると「あなたがほしい」なので、そう考えると、ちょっとドキッとするほどロマンチックに響く。しかし私の脳内では『Je te veux』というタイトルの英語変換が即座に試みられ、出てきたのは「I want you」。『ヘビーローテション』が文字通りヘビーローテションしはじめ、サティのアンニュイな余韻が打ち消されてしまった……こんなことを考えているのは私だけだろうか。まあ、ヘビロテは元気でよろしい。
感想
クラシック曲は難しい! というのが第一声。組曲2つ、合わせて約35分なんて、よく弾ききったと思う。個人的な力量としても、ちょっと前半は練習不足で、ついでに折り返しあたりで体調が微妙に揺らいで合奏練習に行けないこともあった割には、最後の数週間はよく頑張れたと思う。そして、クラシック曲が難しいからこそ思ったのが、マンドリンオーケストラ用に作られた曲って最高に気持ちよく弾けるじゃん、ということ。
来年は研究のほうが忙しくなりそうで、ちょっと参加できるかわからない。演奏する曲目のリストを見たら、また参加したくなってしまいそうだが。参加できなくても、聴衆として行けそうなら行きたいなと思う。
以上、だ・である調による初の定演レポートであった。つらつらとめんどくさい曲紹介を事細かに読んでくださった方がもしいたら、最大限の感謝を。