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勉強日記⑤臥床による呼吸器・循環器への影響

 日本は、リハビリテーション開始にあたって医師による処方が必要である。医師の指示によって安静度が決まり、ベッドから起きて良いのか、歩行を開始して良いのか等が決まってくる。いや、正確には医師の指示次第というより治療内容・病態によって決まると言った方が正しいか。安静が必要な治療内容や病態ならベッド上で安静にしておく必要があるし、必要ないのならベッドから起きて良い。
 治療開始後、早期にベッドから起きることを医療業界では早期離床という。早期離床の歴史は、1899年にある医師が術後早期に離床を行ったら、早期に歩行を獲得することができたと報告したことから始まる。これが早期離床の幕開けである。日本でも1910年頃から早期離床を進める取り組みが始まり、1970年代から本格的に離床を促進する流れとなる。今や医療現場のスタンダードであり、薬や処置の内容、病気・患者の状態など特別な理由がなければ、離床を否定する者はいないだろう。むしろ制限する理由はないなら、積極的に離床しないと別の病気が生まれてしまう可能性がある。
と思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。個人的には、その医師と意見が合わなくても自分に知らない知識と経験があり、様々な方面から考えて、離床させない方が患者のメリットが大きいと判断しているのだろうと思うようにしている。それならそれで全然かまわない。事実、医師の知識量と勉強量は凄まじい。命がかかっているのだから慎重になる理由も理解できる。だが、どうしても納得できないことがたまにある。しかし、現場は医師の指示に従うしかない。医療はチームで動くのだから、意見を交わすことはできる。今回はいま一度、超基本に立ち戻りたい。3月2日を忘れない。

【長期臥床の影響】


 人間は二足歩行の動物だ。夜寝る時以外は、基本的に立っているか座っていることがほとんどだろう。ところが、病院にいる患者はどうだろうか。治療を終えたにも関わらず、必要のない安静を過ごしてしまっている患者が多い。そこにベッドがあるのだから寝てしまう理由は分からないでもない。ベッドとは本来寝るための家具だ。睡眠がアフォーダンスされてしまう。もちろん、1人で起きることができない患者は仕方がない。ここに関しては、起こしに来る看護師・リハビリスタッフのマンパワーがものを言う。
臥床による身体の変調を廃用症候群と言う。症候群というだけあって、それは多彩な症状が現れる。呼吸器、循環器、骨格筋、消化器、神経系などに影響を及ぼすと言われている。
入院中は確かに暇だ。入院したことがあるからわかる。それはもう途轍もなく暇だ。一人で歩けない患者は本当に気の毒に思う。一人でトイレにすら行けないのだから。大部屋を4人で分けた狭い空間に1日中居ないといけないのだ。
 一方で、看護師はその日のスケジュールをこなすことで多忙だ。いつ来るかわからない患者の要望に仕事のペースを柔軟に変えながら仕事をしている。医療ドラマを観ると看護師が長い時間付き添ってくれていることを目にする。こんなに現場は暇じゃないよとツッコミを入れたくなる。そして、あんなに美男美女がそろっている現場は存在しない。
ということで、離床の機会はリハビリしか基本的にないのであるが、長期臥床は廃用症候群を生む。本来、衰えるはずがない器官が衰え生活機能が破綻する。筋肉が痩せるんでしょ?と単純に考えてはいけない。筋肉以外にも呼吸器、循環器への影響がある。

【臥床による呼吸器への影響】


 まずは基礎の基礎。キーワードはFRC(機能的残気量)。FRCとは、自然に呼気(息を吐く)を行った後に肺内に残っている残気量のことを言う。FRCが多いという事は、ガス交換に関わる空気量が多いということになるので、酸素化に有利という事になる。簡単に言うと酸素と二酸化炭素の交換がしやすいって感じだ。
では、臥位になるとFRCはどうなるのか。「臥位のFRCは立位でのFRCの半分」と言われている。
臥位は横隔膜の運動を阻害する。立位・座位だと内臓が重力の影響を受け下に下がる。ゆえに横隔膜が動きやすくなり呼吸がしやすくなる。しかし、臥位になると内臓が頭部へ移動するため、横隔膜が動きにくくなり呼吸がしにくいということになる。正確には横隔膜の背側の方に臓器が乗る形になるらしい。まとめると肺胸部のコンプライアンス低下ということだ。加えて、ベッドに接している方の胸郭は体重がかかるため動きにくくなる。
以上をふまえて呼吸器だけで考えるのであれば、さっさと起こしてしまった方が良いという事になる。

【臥床による循環器への影響】


 循環器も基礎の基礎。廃用患者で怖いのは起立性低血圧だ。失神する可能性があるので、どうしても初回離床は慎重に起こすことになる。なぜこうなるのかというと神経系や体液量が関係している。
 臥位になると下半身になった血液が上半身に還ってくる。こうなると中心静脈や大動脈弓に存在する圧受容器が「体液が多い」と判断する。結果、利尿が促進され血液量を減らす方向になるのであるが、この軽い脱水とも言える状態で体を起こした時、再び上半身の血液が下半身に移動する。ここで神経系が反応できないと血圧を維持できず失神する。
ほら、さっさと起こした方がいいじゃないか。
調整するのは動脈圧受容器反射、心肺圧受容器反射、末梢血管・脳科学受容器反射による交感神経の亢進作用。あとは皮膚・骨格筋の動脈が収縮して血圧低下を防ぐ。
神経系の設定は3日くらいの臥床で変わってしまうと、研修会に行った時の講師が話していたことを覚えている。個人差はあるだろうが仮にそうだとすると体液量が良くても神経系が追い付かない場合も考えておく。
イケイケの医者たちは「なんでもして良いよ。バク転以外なら。」と言ってくる。意見が合うからやりやすい。バク転は生活に繋がらないからな。
長くなってきたので、今回はこれでおしまい。
Remember March 2nd,2023.
最後まで読んでもらいありがとうございました。

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