セルパン:メーカー比較
先日めでたくセルパンを購入されたユーフォニアム奏者の佐藤采香さんが、届きたての楽器を携えて遊びに来てくれました。
日本でセルパンを入手する場合、19世紀のオリジナルを探すことは年々難しくなっています(また、演奏するという目的の場合、必ずしも良いコンディションではありません)。多くの場合、コピーを製造するアトリエから購入するのですが、2000年-2010年あたりまではイギリスのクリストファー・モンク(Christopher Monk)のものを購入することがほとんどでした。
近年主流になりつつあるのは、ヨーロッパの2つの工房で、まずはスイスのステファン・ベルジェ(Stephan Berger)
もう一つはベルギーのピエール・リボ(Pierre Ribo)の2つの工房です。
ただ身の回りにそうそうセルパン奏者がいるわけでもなく、この2つのアトリエの楽器を比べる機会は今までありませんでした。並べてみるとずいぶん違います。
本体
まずは正面。向かって左側がリボ、右側がベルジェ。仕上げも違いますが、まずサイズがだいぶん違いますね。クルークの長さやデザインもだいぶ異なります。
キーについて捕捉します。元々セルパンはベルジェのモデルのようにキーのない形で発展しました。半音はクロス・フィンガリング(替え指)と唇の操作で発音していましたが、後年CシャープやFシャープなど、いくつかのキーが付加されていきます。そしてなかなか驚くべきことですが、指穴のみのセルパンはBフラット、Cナチュラルのフィンガリングはあるのですが、Bナチュラルについては唇の操作でどちらかのフィンガリングから(半ば無理矢理に)出していたのです。
背面から。特筆すべきなのは、ベルジェの背面に件のBナチュラルの指穴が開けられていること(後述します)。
クルーク
クルークも随分違います。一枚目がリボ、二枚目がベルジェ。ベルジェのものはカーブがきつく、またかなり重め(表面処理も独特)。
先ほどのBナチュラルの指穴。個人的には少なくとも今までこのような指穴がついているものは見たことがありませんでした。多分歴史的な文献資料にもないはず。この指穴を空けることで、キーのない楽器の演奏法が随分と変わるはずです(ない場合には、Cの指遣いからベンドする必要があります)。両者の穴の位置も随分違いますね。
どちらのアトリエもキーの有無、およびキーの数をオプションで選べますが、これは中々悩ましい問題です。音程は慣れてくればどちらでも対応できますが、フィンガリングの組み合わせ的にはキーを使うと逆に難しくなることもあるので、まずはキーなしのフィンガリングに慣れることが重要かと思います。
音色、吹奏感についてはうっかり動画を撮り忘れたのですが、両者にはかなりの差があります。ベルジェはとにかく明るくて軽い音、リボは柔らかなしっとりした音色です。音程についてはそれぞれ癖がありますが、これは練習で習熟すべき問題でしょう(手に負えない音程、というのはありませんでした)。またBナチュラルの指穴のキーの有無はかなり混乱するので、2つを吹き分けるのは結構難しいと感じました。
ソフトケース
ベルジェのケースはなかなか考えられていて、上の写真の空いたスペースにアクセサリ、サーキュレーター(管内を乾燥させるためのもの)、折りたたみのスタンドまで収納可能!
一方、ベルジェのケースはかなりコンパクトに軽く作られているのですが、屋外での持ち運びには若干の心配があるように感じました。リボのものは大きくてやや重いのですが、しっかりと作られています。
以上2つのアトリエのセルパンを比べてみました。