【書評】幸福な監視国家・中国 梶谷懐/高口康太 著
経済学者である梶谷懐氏、中国関連で調べごとをすれば必ず名前があがってくるジャーナリストの高口康太氏による、中国における、市民への監視について、それぞれの知見を持ち寄ったらかなり深い洞察がなされた書籍となる。
タイトルだけを目にすると、情報弱者向けの中国ネタの書籍に見えなくもないが、本書を読むにはかなり脳をフル回転させられる内容となる。気になる箇所をつまみ食い形式で引用したい。
まず、中国国内のネット環境についてで、中国では海外メディアへアクセスできないと言われているが、実際の運用は下記となるらしい。
中国への赴任する人たちが、なぜ現地でユーチューブを閲覧できているのかがよくわかる。また、個人レベルでも海外からの目線を意識しないで生きてしまうと、視野狭窄(しやきょうさく)におちいってしまうと痛感させられる。
本書では、トロッコ問題(ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?)について、最新の知見を提供してくれる。
トロッコ問題の解決方法は、道徳的なストレスが小さいものになるというのがポイントとなりそうだ。結局のところ、社会的な非難(マスコミからの嫌がらせ)を最小化できる、各国の社会規範に則った形式で、自動運転の技術は進展しそうだと想像させられる。
他にもGDPRについて、深い洞察がなされているが、それらについては本書を読んでいただきたい。
本書は中国での監視社会についての矮小化したテーマではない。むしろ、テクノロジーが生み出すアルゴリズムによる人間社会への統治について、新たな視点を提供してくれている。