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【書評】幸福な監視国家・中国 梶谷懐/高口康太 著

経済学者である梶谷懐氏、中国関連で調べごとをすれば必ず名前があがってくるジャーナリストの高口康太氏による、中国における、市民への監視について、それぞれの知見を持ち寄ったらかなり深い洞察がなされた書籍となる。

タイトルだけを目にすると、情報弱者向けの中国ネタの書籍に見えなくもないが、本書を読むにはかなり脳をフル回転させられる内容となる。気になる箇所をつまみ食い形式で引用したい。

まず、中国国内のネット環境についてで、中国では海外メディアへアクセスできないと言われているが、実際の運用は下記となるらしい。

また、よくある誤解は、海外のサービス、メディアは絶対に使えない、あるいは検閲を回避したら逮捕される、というようなものです。実際はそんなことはありません。ただ、検間回避は手間がかかって面倒くさいのです。 (中略)外国人とのつき合いがほとんどない中国人でしたら、中国国内の代替サービスを使えば用が足ります。グーグルの代わりに百度の検索、LINEの代わりにウィーチャットといった具合に、同じような中華系サービスが展開されているからです。中国のネット検閲は回避できるが手間がかかる、面倒だと思う人は海外サービスから足が遠のく……………… という構造です

(幸福な監視国家・中国 頁117)

中国への赴任する人たちが、なぜ現地でユーチューブを閲覧できているのかがよくわかる。また、個人レベルでも海外からの目線を意識しないで生きてしまうと、視野狭窄(しやきょうさく)におちいってしまうと痛感させられる。

本書では、トロッコ問題(ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?)について、最新の知見を提供してくれる。

マサチューセッツ工科大学 (MIT)の研究グループがこういった自動運転に関する思考実験を、インターネットで不特定多数の人々を対象に実施したところ、事故によって犠牲になってもよい対象を選ぶ際に「人数」「信号を無視したかどうか」「年齢」「性別」 「社会的地位」などの基準のうち、どれを重視するかは地域によって大きな違いがあるという結果が得られています。このような実験による分析結果のデータをもとに、各国における自動運転のアルゴリズ ムが決定されるとしたら、それが導入された社会では交通事故の可能性が低くなるだけで なく、仮に事故が起きたとしても「万人に納得がいく」形で犠牲者が死んでくれる、すなわちより道徳的なストレスの少ないものになるはずです。

(幸福な監視国家・中国 頁180)

トロッコ問題の解決方法は、道徳的なストレスが小さいものになるというのがポイントとなりそうだ。結局のところ、社会的な非難(マスコミからの嫌がらせ)を最小化できる、各国の社会規範に則った形式で、自動運転の技術は進展しそうだと想像させられる。

他にもGDPRについて、深い洞察がなされているが、それらについては本書を読んでいただきたい。

本書は中国での監視社会についての矮小化したテーマではない。むしろ、テクノロジーが生み出すアルゴリズムによる人間社会への統治について、新たな視点を提供してくれている。


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