縫い目の力で変化させる、SSWチェンジアップについて

チェンジアップと言ったら"遅い","真横の回転軸"のもの?

チェンジアップというとどのようなものをイメージするでしょうか?

例えばEli Morganのような強い腕の振りからボールが来ないチェンジアップでしょうか。

もしくはDevin Williamsのように真横に近いサイドスピンをかけるイメージでしょうか。

これらのチェンジアップは腕や手首を回内(内側にひねる動作)させることで緩急やサイドスピンを生み出します。そのため、回内が苦手な選手は投げるのが難しいとされています。

しかし、これらに当てはまらないチェンジアップを投げる選手もいます。それが縫い目の力でボールを変化させるSSW Changeupです。

SSWとは?

SSW ChangeupのSSWとはざっくり言うと「縫い目の力でボールの軌道が変化する現象」です。

野球のボールには縫い目があります。

https://www.rawlings.co.jp/products/balls/10339/

この縫い目、実はくせ者でボールが回転する時の縫い目の向きによってボールの軌道を変える働きがあることがわかっています。これをSSW(シーム・シフト・ウェイク)と呼びます。

この記事ではチェンジアップの紹介にあたるため詳細な解説は避けますが興味がある方は以下のページを参考にするとわかりやすいと思います。

SSW Changeupとは?

このSSWを利用してボールの軌道を変化させようというのがSSW Changeupです。一般的にはアームサイド(腕側)への動きと、ドロップ(落下)の動きを大きくすることを狙います。

ひねりを加えて投げないため、ある程度高速でかつ落差のある沈む高速チェンジアップとなります。

SSW Changeupの使い手は?

SSW Changeupの近年の使い手といえば2024年に投手三冠とサイ・ヤング賞も受賞したTarik Skubalです。

SkubalはMLB公式の記事でも、過去に回内して投げるチェンジアップやスプリット(フォークボール)の習得に苦戦したものの、縫い目の力を利用してチェンジアップを変化させることで落差のある球を投げられるようになったと紹介されています。

Skubalの記事はSSW Changeupを理解するのに重要な要素が一通り揃っているので読むことをオススメします。(英語が苦手でもChromeなどの翻訳機能でWeb翻訳をしたり、文章をChat GPTに入れて翻訳してもらえば読めると思います)

どんな握りで投げる?

基本的に握りは2シームで、まれに1シームで握る人もいるといった感じです。中指と薬指を狭くなってる2シームの部分に乗せて握る人が多い印象です。

SkubalのGrip
https://x.com/PitchingNinja/status/1843393169356214711 より

カギは回転効率

どんな意識で投げるかをチェックする前に回転効率の話をします。
回転効率とはジャイロ角度の割合によって変化する値です。

回転効率が高いほどマグヌス効果によるボールの動きが大きくなります。(言い換えるとスピンの効果によるボールの変化が大きくなります)
一方でSSWを最大化したいなら回転効率は80~90%程度に抑えた方が良いとされています。これから紹介する『どんな意識で投げる?』はこの回転効率を下げるための意識、といっていいでしょう。

どんな意識で投げる?

回内はしない

チェンジアップと言うと緩急をつけたりサイドスピンをかけるために回内をするイメージがあるかもしれません。しかし、SSW Changeupでは回内は推奨されません。

これは先程も言ったようにSSWを引き起こすにはある程度低い回転効率を求められるためです。回内は回転効率を高くする効果があるためSSW Changeupには推奨されません。

元々、速球を投げる際の回転効率が低い投手の場合は速球のように投げるだけである程度回転効率を抑える効果も期待できます。

回内しないの他に回転効率を下げるCue(合図)を見ていきます。

カットする意識

Skubalの記事内でも紹介されてたものです。
カットしたらボールがグラブサイドに変化するように感じるかもしれませんが、カットする意識で投げることで回転効率が落ちて、むしろアームサイド側に沈みます。

あの握りでどうカットする意識で投げればいいかはわかりませんが投手経験者ならではの感覚があるのかもしれません。

リリース時に中指からボールが外れるのを感じる

これも回転効率を下げるための方法の1つです。

https://x.com/PitchingNinja/status/1823497742896796051
Skubalのリリース時、中指が最後にかかっている

Skubalもそうですが、このチェンジアップを投げる投手は最後に中指がかかる傾向にあります。このリリース時に中指がかかる動作が軸をズラしたり、ボールの回転効率を落とすうえで役に立つと思われます。

(Aaron SanchezのSSW Changeupのハイスピード映像。こちらも中指が最後にかかっている)

中指と薬指の2本の指でボールを転がす意識

リリース時は実際には中指で最後に押し込む形になっていますが、意識としてはこちらでも問題ないかもしれません。というのも人の手は中指が最も長いため両指でボールを転がす意識で投げても最終的には中指がボールにかかります。指で転がすことでボールの回転効率を落とします。

SSW Changeupの効率的な練習方法

SSW Changeupの効率的な練習方法としては、中指側の左のボールのUの字になってる部分に黒い丸を描き、それが常に左上に来るようにして回転効率を確認する方法です。(左投手は右側に描き、右上に来るように)

回転効率が100%だとボールに描いた●は見えにくいですが、80~90%だと左上にある程度見えることがわかります。この方法を使えばラプソードを使わずとも、手軽に回転効率をチェックできます。

ちなみにこの方法はSkubalがデトロイト・タイガースで実際に行った練習と同じものです。

https://www.mlb.com/news/how-tarik-skubal-s-changeup-became-one-of-baseball-s-best-pitches

(右投手の場合は上記動画のように左上に黒丸が見え続けることが理想)
(左投手の場合は右上に黒丸が見え続けることが理想)

握りは違えどSSW Changeup?

Kevin Gausman

Kevin Gausmanのスプリットは左上に丸を描いてたらいつも見えるような回転をしています。これもSSWを活かした投球です。Gausmanの握りとリリースの意識は違いますがSSWを活かしてボールをアームサイドに沈めて落としているところはSSW Changeupと共通しています。

トレバー・バウアー

トレバー・バウアーがNPB時代から投げるようになったスプリットチェンジもSSW Changeupの一種と考えられます。バウアーはYouTubeショート内でSkubalがやったのと同じ練習方法(ボールに丸を描き、上部に表れたままになるように投げる)でチェンジアップを投げています。つまりSSW Changeupです。

映像から推測するとバウアーの握りは少しGausmanのグリップにも似ています。


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