トラッキングデータを用いた打たれにくいフォーシームの分析
※変化量を詳細に分割したverも書きました。
ノビるフォーシーム、お辞儀するフォーシーム、まっスラ、シュート回転……フォーシームを形容する言葉はいくつかある。それぞれのフォーシームがどんな特徴を持っているかを今回は検証する。
近年のMLBでは試合中にボールの球速・変化量等さまざまなトラッキングデータを取れるようになった。それらのデータを用いどんなシンカーが打たれにくいのかを検証する。
検証
フォーシームを球速帯別と変化グループにグループ分けしたうえで各種指標を算出する。グループ化の方法は球速を5km/hずつに刻みその球速帯の平均変化量と比較した変化グループを作成する。(下記画像を参考)
指標を集計した表については全球種の平均値を中間値とし、比較して投手にとって良い結果だと赤が、悪い結果だと青が濃くなるようにカラースケールしている。
集計対象とする指標はRV/100(100球あたりの得点価値、低いほど失点のリスクが低い)、RV/100との相関が強いO-Swing%(ボールゾーンスイング率)、Whiff%(空振り/スイング)、平均打球速度、PutAway%(2ストライクからの三振奪取率)とする。
右投手対右打者or左投手対左打者の場合
RV/100(100球あたりの得点価値)
まずは100球あたりの得点価値を示すRV/100を見ていく。横変化はGLOVE>NOMAL>ARM、縦変化はRISE>NOMAL>DROP、球速は158-163>153-158>148-153>143-148の順に投手優位となるようだ。
変化量について言えば、影響が大きいのは横変化より縦変化の方でARM-RISE型を除きRISE型は失点を抑止する効果が非常に高くなっている。(逆にDROP型は大きく投手不利となっている)ARM-RISE型の失点抑止が伸び悩んだのは、投手優位のRISEと投手不利のARMで効果を相殺してしまったことが要因と見られる。
また同じ変化グループの場合、基本的に球速は速ければ速いほど失点を抑止する効果が高い。「球速は全てではない」とは言われるところだが、他が同じ条件なら球速は速いほうが良さそうだ。
O-Swing%(ボールゾーンスイング率)
ボールゾーンでのスイング率を表すO-Swing%ではGLOVE-RISE型(平均的なフォーシームよりスライドしながら浮き上がる軌道)が最も良い値を記録した。一方で最も悪い値を記録したのはNOMAL-DROP型(平均的なフォーシームの横変化で沈む軌道)となっている。また球速は速いほうがボールゾーンでのスイングを誘発しやすいようだ。
Whiff%(空振り/スイング)
スイングを試みた打者から空振りを奪った率を示すWhiff%は横変化はGLOVE>NOMAL>ARM、縦変化はRISE>NOMAL>DROP、球速は速い順に高くなる傾向にある。特に空振りしやすい要素を2つ併せ持つGLOVE-RISE型は非常に高いWhiff%を記録している。一方でARM-RISEは互いの性質で相殺し合ったのか数値は高くなっていない。
PutAway%(2ストライクからの奪三振率)
2ストライクからの三振奪取率を示すPutAway%はGLOVE-RISE、NOMAL-RISEといったRISE型のボールで大きく優位になっている。また球速は同じ変化タイプのなかでは速ければ速いほど値が高くなる傾向になっている。基本的にWhiff%と連動しているようだ。
打球速度
打球速度は基本的にRISE型のボールの方が低くなりやすい傾向にあり、DROP型は打球速度が速くなりやすいようだ。
まとめ
・横変化はGLOVE>NOMAL>DROPの順でどの指標も優位になりやすい。
・縦変化はRISE>NOMAL>DROPの順でどの指標も優位になりやすい。
・変化量で影響が大きいのは横変化より縦変化。
・同じ変化タイプなら球速が速いほうが投手優位な結果になりやすい。
右投手対左打者or左投手対右打者の場合
RV/100(100球あたりの得点価値)
RISE系ボールが優秀なのは右/右、左/左と同じだが異なる点としてARM-RISEが最も優秀な組み合わせとなっている。これはRV/100が投手優位にならなかった右/右、左/左のARM-RISEとは対照的な結果だ。通常、打者は自信の利き手と反対側の利き手の打者を苦手とする傾向にある。だがARM-RISE型のフォーシームを投げる選手についてはそれは当てはまらないのかもしれない。
その他、GLOVE-DROP(グラブ側に変化しながら沈む)の価値も右/右、左/左のときより投手にとっての価値が高くなっている。いわゆるまっスラ型の投手は利き手の反対側の打者との対戦を有利にしやすいと言えそうだ。なお、GLOVE以外のDROP系は相変わらず投手不利なままだ。
対戦相手の利き手が投手の利き手と異なる場合はとにかくRISE系のフォーシームを投げたいところだ。
なお球速はこちらでも同じ変化タイプなら速ければ速いほど投手優位になることは変わらない。
O-Swing%(ボールゾーンスイング率)
O-Swing%はGLOVE-RISEが飛び抜けて高くなっている。
Whiff%(空振り/スイング)
Whiff%はARM-RISE型(平均より利き手側に変化しながら浮き上がる)のフォーシームが飛び抜けて高くなっている。これは右/右、左/左のARM-RISE型とは対照的な結果だ。ARM-RISEのRV/100が投手優位になったのはWhiff%の影響が大きそうだ。
DROP型はこちらでも低い値となっている。沈むフォーシームで空振りを奪うのは難しそうだ。
また同じ変化タイプなら球速は速ければ速いほど空振りを奪いやすい傾向にある。
PutAway%
PutAway%はWhiff%と連動する形となっておりARM-RISEとNOMAL-RISEが高い値となっている。そのためDROP系は基本的に低くなっている。
打球速度
打球総速度は縦変化はRISE>NOMAL>DROP、横変化はGLOVE>NOMAL>ARMの順で投手優位(打球速度が遅く)になっている。影響としては縦変化のが大きそうだ。
まとめ
・右/右、左/左と異なり横変化はWhiff%やPutAway%ではARMのがむしろ優位になる場合がある。ただし打球速度はGLOVEのが優位。
・縦変化はRISE>NOMAL>DROPの順でどの指標も優位になりやすい。
・変化量で影響が大きいのは横変化より縦変化。
・同じ変化タイプなら球速が速いほうが投手優位な結果になりやすい。
投打の左右を問わず打たれにくい組み合わせ
投打の左右を問わず打たれにくい組み合わせは150km/h以上の速度でGLOVE-RISE、もしくはNOMAL-RISEする組み合わせだ。これらの組み合わせはO-Swing%、Whiff%、打球速度、PutAway%、RV/100がいずれも平均より良い値となっている。少年野球などでシュートしないノビのあるフォーシームを理想とする風潮があるが実際に数字で見てもこれらのフォーシームは万能のようだ。
指標網羅表(右投vs右打/左投vs左打)
PV/100(100球あたりのPitch Value)は、環境中立的なvalueを採用している。打球については打球種類(フライ/ゴロ/ライナー/ポップアップ)の平均的な得点価値を用いている。値は高いほど失点を防いでいることを意味する。
基本的に150km/h以上出てRISEしてる速球が多くの指標で優位となっている。特にGLOVE-RISEは全般的な指標が良い。ARM-RISEはサンプルが少ないため数字の取り扱いに注意が必要だ。
DROP系は基本的に価値が低い。
指標網羅表(右投vs左打/左投vs右打)
基本的に150km/h以上のRISE系がPitch Value(球種にとっての価値)が高い。特にARM-RISE系はあらゆる指標で優れている。
ここでもDROP系は価値が低い。
今回の分析についてはMLB2017-2021のデータを使用した。
データはBaseball Savantから取得したものを使用している。
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