pERAを用いたオフスピードボール評価
球速や変化量で細かく分割してボールの動きを評価することは難しい。そもそもサンプルの数が小さくなってしまうからだ。そこで少ないサンプルサイズでも価値が安定しやすいpERAを使って速球を評価する。
オフスピードボールとは
ここでいうオフスピードボールとは、チェンジアップやスプリットのような回転数を減らすことによってボールを変化させる球種を指す。
pERAとは
pERAとはJeff Zimmermanがfangraphsで発表した球種のグレードを評価するための指標だ。
詳しくはリンク先を見てもらいたいがここではざっくりと説明する。投手は、打たれた打球が安打になるかどうかについて、統計的に見るとほとんど関与できない。投手が関与できるのは、投手と打者との間で完結する三振を取ること、四球を出さないこと、長打を避けるためにゴロを打たせること、とされている。そこで守備から独立した投球(DIPS)の概念を取り入れた指標として、ゴロ率と三振・四球率を基に算出した疑似防御率、GBkwERAと呼ばれる指標が作られた。このGBkwERAを基に球種のグレードを評価する指標として、三振の部分の係数をSwStr%(空振り/投球)に2をかけたもので代用したのがpERAだ。
ちなみに、この指標の面白いところはゴロ率の低さもピークを過ぎると弱いポップフライを期待できるとして投手にとって良い価値を生むという性質を考慮しているところだ。そのため、速球などでポップフライを打たせている投手が過小評価される問題もクリアされている。
pERAは投手の責任範囲であり、かつ少ないサンプルサイズで安定する空振り率とゴロ率を基に構成されている。そのため、少ないサンプルでも比較的安定しやすい。
このpERAを用いることでオフスピードボールを球速別・変化量別で評価する。
算出方法
球速を5km/h刻み、変化量を縦横7.5cm(約ボール1個分)で刻み、各グループのpERAを算出する。なお、スケールをわかりやすくするため2017-2021年のオフスピードボールのpERAを割り100をかけた。こうすることで100をリーグ平均値として低いほど失点リスクが低く、高いほど失点リスクが高いという感覚で見られるようにしている。
なお、今回はボールの絶対的な速度・動きではなく、各投手の速球との差に基づいて算出している。これはオフスピードボールは速球との差によって効果を発揮する可能性を考慮したためだ。
例えばオーバースロー(下記の表でアームアングル60-90)は、平均的に見るとオフスピードボールの縦方向の変化が大きい(ライズしている)。だが、RV/100(100球あたりの得点価値)で見ると失点リスクの低い優秀な球種となっている。一般的にオーバースローの投手は速球のボールの上向きの変化が大きいため、差が強調されて効果的になったという仮説を立てた。
アメリカの野球研究機関のドライブラインでもシンカー(ツーシームを含む沈む速球)を多投すると、オフスピードボールに影響を与えかねない可能性を指摘している。
算出結果
算出結果を見ると何より重要なのは縦方向の変化量の差であることがわかる。特に速球と比べてボールを22.5cm(約ボール3個分)沈めれば大きな失点抑止を期待できる。
速球との球速差が小さく縦方向の動きが小さい、いわゆるストレートと見分けがつかないオフスピードボールが理想という意見がある。しかし、データ上では球速差が小さくかつ変化の小さなオフスピードボールは失点しやすい傾向にある。そのような投手は制球などで補っている可能性はあるが、基本的にオフスピードボールは沈めたほうが良さそうだ。