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連載 | BASE ART CAMP interview vol.2【佃七緒】

《BASE ART CAMPを通して目指したいこと》

BASE ART CAMPはBASEのメインプログラムとして2022年に開講予定のビジネスパーソン向けの実践型ワークショッププログラムです。京都にゆかりのあるアート、演劇、映画、音楽といった多様なジャンルのプロのアーティストが講師となり約半年間のプログラムをおこないます。創造の原点に触れるような実践的なワークショップを中心に、アーティストの思考や制作プロセスから人生を生き抜くための術と知恵を学びます。

今回は、美術家の佃七緒さん。順応編ではプログラムのファシリテーターをつとめるほか、登頂編では美術の講師も担当します。「自分自身も学びながら導きたい」という佃さんは、まさにBASE ART CAMPの受講者にとっての頼れる並走者。プログラムづくりの意図や、受講生にどんな学びを得て欲しいか、お話をお聞きしました。

共に講座で学びながら学びを促す講座の並走者として

ー:佃さんは順応編のワークショップではファシリテーターとして、また後半となる登頂編では美術のプログラムの担当もされていますね。意気込みとしてはどうですか?

順応編では各回ごとに作家の方を講師としてお招きしてのワークショップがメインになるんですけども、私も皆さんと一緒に一緒に受けつつ、コミュニケーションをとりながら進めていくという間をつなぐ存在としてサポートできたらいいなと思っています。

ー:プログラムの内容は、主催者の矢津さんと一緒に決めていったんですよね。プログラムづくりのなかで意識していたことはなんですか?

順応編で参加していただく講師の方々と、これまでにどんな作品をつくられてきたかなども含めてお話をさせていただいて、その内容をプログラムには落とし込んでいます。これまでにお子さん向けのワークショップはしてきたけど社会人向けには開催したことがない方もいて。普段やっていらっしゃる内容を、社会人向けにどう変更すると面白く学んでもらえるかなどもお話をしながらつくっていきました。

考え方や身体の動かし方など、テクニックよりも自分の内面との対話をうながすワークショップ


ー:ワークショップでは、どんなことを学んで欲しいと思っていますか。

ものづくりのワークショップ……例えばですが、竹でカゴをみんなで編もうみたいな講座があったりすると、講師からどんな順序で編むのがいいかという技法を学ぶ場合が多いと思うんですけど、BASE ART CAMPのワークショップではいうのはどちらかというと技法の習得は重要視していません。

順応編では、作家をされている講師の方々が、普段どんなものの見方をしているかや、考え方、身体の動かし方を通して、どうやって作品の制作に繋げておられるかを参考に、テクニックではなくてところでヒントを得るような時間になったらいいなと思っています。

登頂編に関しては、私自身の講座の内容はあんまりまだ固まってないんですけど……(笑)。受講者それぞれがパーソナルな部分に立ち返って作品をつくってもらえるような講座を開きたいなとは矢津さんとお話ししています。最終的に展覧会のようなもの、他者の意見も聞きつつ自分の内面をさらけ出して言語化するようなこともやっていきたいですね。


ー:実際に何を考え、どう意識して身体や筆を動かしているのか、作家の制作における上流部分が知れるなあと思いました。すごくおもしろそうです。

ワークショップを通じて、自分では使ったことのない感覚や身体を使ってみてほしいですね。それを自分がどう感じているかも問いかけてみて欲しいです。「あ、このやり方は結構自分ハマるな〜」とか「ちょっとやっぱ向いてないな」とか。各々がどういう風に感じたかも皆さんでお話しする時間を取れたらいいですね。もちろん、個人的にじっくり考えていただく時間もつくる予定ですが。


「なんとなく」な状態でも美術のドアを叩いてみて欲しい


ー:登頂編では、どんな人に美術のカテゴリに進んできて欲しいと思いますか?

美術に関しては、はっきりとつくりたいものが決まっていなくても大丈夫です。音楽や舞台パフォーマンスに関しては、絶対にそこに進みたくて選ぶ人が比較的多いのかなと予想しているんですが、美術はもうちょっとふんわりした状態での選択もアリかなと。

物理的なものをなにかつくってみたいという関心はあるけれどはっきりジャンルが分からない人。なんなら、形あるものにしたいかどうかも決まっていないけど美術のカテゴリの方にちょっと見てみたい風景がある人。お話ししながら、どんな形にしていけるかを一緒に考えられたらいいかなと思っています。

ー:なんとなくな状態でもそっちに進んでいくことで、新しい発見がありそうですね。

「難しいことだ」って行き詰まることが本当に辛いというのは、私自身がものをつくる立場としても感じていて。作品を観る時も、難しくて理解できないというタイミングが、特に現代アートの分野では多いとは思うんですけれど。諸処の大元になっている、つくる時の欲求っていうのは、じつは皆さんが普段何気なく体感してることのひとつだったりします。なんとなくがきっかけで、最終的にこんなに違うものが形として出てくるのか!っていう体験を、いろんな講師の方とお会いしながら体感していただけたら、すごく嬉しいなと思っています。

ー:佃さんはものすごく美術の分野に人が入っていくことに対して門戸が広いというか。「なんとなくでもいい」と言い切れる懐の深さがありますね。

私自身が美術の作家になろうと思ったことはなくて、流れ流れてそうなってるという経験があるので(笑)。


好きな人たちと同じ言語で話すために作品づくりがあった


ー:佃さんはどういう経緯で美術の道に?

私は京都市芸術大学の出身なんですが、その前は一般大学の文学部で学んでいました。就活など、卒業後を考えないといけなくなった時に、ちょっとまだ自分に何ができるのかが見えてないなと思って。もともと美術方面への関心はあったので、とりあえず一回、芸大を受験してみてもいいかと思って。本当に軽い気持ちで芸術方面へ進んだというのがそもそもで。

ー:軽い気持ちで京都市芸術大学へしっかり進学できるというのがすごいですね。

いやあ、文学部でしっかり文学に対して勉強していたかというと、本当にあの……遊び呆けていた学生でした(笑)。


ー:そのまま、美術家になったのはなにかきっかけがあったんでしょうか。

京都市芸術大学を卒業する頃に、南米のコロンビアに制作に行ったことがありまして。その時はじめて外国で製作するということをやってみたんですけど、そこには同じぐらいの年代のアーティストがたくさんいらっしゃって。毎日わいわい話したり飲んだりしながら制作をして、すごく実り多い時間でした。この人達と5年10年後、次に会った時に同じ言葉で、同じ立ち位置で話ができたらいいなっていうのをすごく思って。そうするためにはもう、作品を作り続けるしかなかった……みたいな。それで、今まだ美術の分野で過ごしてますね。

ー:佃さんにとって好きな人たちと繋がるための言語が美術家になることだったんですね。すごい話を聞かせていただいているなあと思います。

美術を学んだことをきっかけに他の感性も磨かれていく

ー:文学部で学んでいたことと芸大で学んでいたことは関係性が生まれたりしているんでしょうか?

思い返すと、ずっと「本を読めるようになりたい」と思っている文学部時代でした。自分がどんな本を読めばいいのかわからないというか、興味があることはいっぱいあるし、たくさんの本を読みたい気持ちはあるものの、膨大な書物のなかから自分が読みたいものをうまく取捨選択できなかった。なかなか「読める人」になれないなあ、なんでやろなぁ……と思っていたのが、自分でものをつくるようになった途端にいろんなものに関心が向くようになってきた。読みたい本を自らつかんでいけるように、ものすごく変わったんですよね。

やっぱり自分で何かを作ろうとした時にこそ、周りの環境や、毎日見ている場所との関わり方がすごく変化するなと思っていて。私は美術の勉強を通じて、ものの構造を見るようになったんです。例えば「あの家具どうやってできてんねやろ」とか「あの椅子見たことない構造で立ってるけどどうなってるのかな」とか。そういう小さな事に目を向けられるようになったのは、あの頃に求めていた、色んなものに関心を持って自分から本をつかんでいきたいっていう気持ちに繋がっている。文革部にいた時よりも、美術を経由した方が本を読めたっていうのはすごく嬉しい経験ですね。

ー:なるほど。美術を学ぶ、自分でものをつくるという経験が、他の事柄へのアクセスをスムーズにするというか。解像度を上げるというか。美術が、美術以外の感性も磨いてくれるんですね。BASE ART CAMPは社会人向けの講座なので、仕事や私生活のアップデートに繋げられる人も多そうです。


「徒歩25分」を楽しめる京都の街はものづくりのヒントに溢れている

ー:最後に、BASE ART CAMPのような学びの場が京都で開催されることについてはどう思いますか?

私、大阪出身で大阪育ち、現在も大阪に住んでいるんですけど、「Googleマップ」で目的地を調べて徒歩25分って出たら、大阪だとちょっと嫌やなって思うんですよ。遠いなって。でも、京都では徒歩25分でも「あ、歩るこ!」ってすごく軽く思えるんですよね。何が違うかってというと、街を歩いている時に京都は見るものが多い。ただただお家が並んでる風景でも、そのお家が建った年代の違いが見てすぐわかりますし、お店の入れ替わりを追いながら道を進むのも面白いですし。街にいる人々も地域によって本当に様子が変わるので、それを広すぎず狭すぎず、ちょうどいい空間で味わうことができるのが京都かなと思いますね。

ー:確かに、街を歩いているだけでものづくりのヒントになることは多そう。受講者のみなさんにはぜひ、行き帰り時間がある時にでも歩いてみてほしいですね。ありがとうございました。


インタビュー動画


▼プロフィール

佃七緒 
美術作家、工芸家

美術作家、工芸家・1986年大阪生まれ。2015年京都市立芸術大学大学院美術研究科(陶磁器)修了。国内外のレジデンスプログラムに参加し、日々の生活の中の道具や家具、営みの様子などから、ドローイングや陶・木などを用いた立体・空間制作を行う。近年の主な展覧会に「翻訳するディスタンシング」[企画者](HAPS/京都/2021)、飛鳥アートヴィレッジ展覧会「回遊 round trip」(飛鳥坐神社/奈良/2019)、「ONCE LAUDED OBJECTS」(Tributary Projects/キャンベラ/2019)等。


BASE ART CAMP interview vol.2に関わったメンバー

主催:一般社団法人BASE
イラストレーション:土屋未久
ライティング:ヒラヤマヤスコ(おかん)
音楽:武田真彦
映像撮影・編集:三輪恵大
写真撮影・編集:井上みなみ

《 一般社団法人BASEとは?》

京都の現代芸術の創造発信拠点として活動する5つの民間団体と京都信用金庫の協働で立ち上げた団体です。コロナ禍を機としてアーティストの制作活動のみならず、京都の文化を担ってきた民間の小劇場、ミニシアター、ライブハウス、ギャラリーなど芸術拠点の経済的脆弱性が顕在化し、今なお危機的状況にあるといえます。そのような状況を打破するために、THEATRE E9 KYOTO、出町座、CLUB METRO、DELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space、kumagusukuの民間の5拠点がこれまでにない社会全体で芸術活動をサポートしていくための仕組みづくりのために立ち上がりました。

◆BASE ART CAMP について詳しく知りたい方はこちら


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