連載 | BASE ART CAMP interview vol.4 【林薫】
《BASE ART CAMPを通して目指したいこと》
BASE ART CAMPはBASEのメインプログラムとして2022年に開講予定のビジネスパーソン向けの実践型ワークショッププログラムです。京都にゆかりのあるアート、演劇、映画、音楽といった多様なジャンルのプロのアーティストが講師となり約半年間のプログラムをおこないます。創造の原点に触れるような実践的なワークショップを中心に、アーティストの思考や制作プロセスから人生を生き抜くための術と知恵を学びます。
BASE ART CAMPではアートとしての音楽を学ぶ門戸も開かれています。今回お話をうかがうのは「CLUB METRO」を運営する林薫さん。日本最古のクラブとして、京都のみならず世界の音楽シーン・アートシーンに欠かせない「CLUB METRO」。どういった講座を企画しているのか、今回の講座を通して、受講者に伝えたい音楽の魅力についてお話をお聞きしました。
日本最古のクラブは「何をやってもいい自由な場所」
ー:通称メトロ、といえば京都の人にはよく知られた場所ですが、林さんの自己紹介を含めて、改めて「CLUB METRO」とはどんな場所でしょうか。
CLUB METROは、京都で31年以上の歴史がある、おそらく日本で最古と言われているクラブです。私はそこのプロデュースをしております、林薫と申します。CLUB METROは、いわゆるナイトクラブ・ダンスクラブといわれるような場所ですけど、当初から「オルタナティブスペース」であることを大事にしてきました。なんでもできる場所、なにをやってもいい場所こそ、クラブである……みたいな考えを持って、そういう場所を目指してやってきました。
ー:ダンスミュージックだけではなく、バンドのライブ、京都市内の大学生のイベントなど、開催されるイベントの範囲は多岐に渡りますよね。
そうですね。オルタナティブスペースなので、ダンスミュージックはもちろんですが、実験的なライブだったり、インスタレーションだったり、映画の上映会、舞踊のパフォーマンスとか……。また、CLUB METROは「ダイヤモンド・ナイト」という、LGBTQカルチャー、性の多様性を表現したイベントを創業当時から31年間続けています。
あとは京都市とも連携して、京都で開催される国際的な写真祭「KYOTOGRAPHIE」や「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」などでもCLUB METROで連携イベントを開催しています。
自分の手を動かしてアートを生み出す過程が発想を生む
ー:BASE ART CAMPで、CLUB METROはどんな役割を担っていますか。
もともとCLUB METROでは「メトロ大学」という夜のカルチャースクールというか、アートスクールのようなものをやってきたんですけども。BASE ART CAMPでは「メトロ大學」でやってきた講義内容とは違うものを展開できればいいなと思っています。
まずは実践編の音楽コースで、CLUB METROの場所を会場として使っていただくほか、登頂編の音楽コースでは、自らの手を動かして、音楽を生み出してもらう。その過程からアートとは何かを発想していただくというような内容の講座を考えています。そのなかで、「音楽の場では誰もが創造者だ」という事も実感して欲しくてですね。
ー:音楽の場では誰もが創造者……といいますと?
長年こういうクラブを運営していて思うんですけど、音楽の現場って、アーティストが一方的に発信するというものではなくて。その場にいるフロアのひとりひとりが、音楽やパフォーマンスに共振してはじめて全体が豊かに動き出すような場所だと思うんです。そういう意味では、ステージにいる人だけが表現者・アーティストではなく、フロアにいる方々も表現者なんです。ステージと客席に境目はなくてですね。その場にいる全員が感性を豊かにする創造者であると思っています。
ー:なるほど……!ライブの一体感を想像したら、まさにそうですね。
なので、こういうCLUB METROという音楽の場所から、人類にとって最も根源的な芸術とも言える「音楽」というものに主体的に関わってほしいですね。思考を巡らせて、参加者の皆さんそれぞれの音楽表現というものを見つけてみようというのが、登頂編音楽コースで皆さんに届けたい内容になっています。
アーティストの目線からも音楽について学んでいく
ー:音楽コースでは講師として、現場で活躍されているアーティストの方もお招きするとうかがっています。
ええ、そうですね。音楽家の小松千倫さんと武田真彦さんという、ふたりのアーティストを招聘しています。おふたりはですね、DJやトラックメーカーとして、音楽の現場で長年活躍されていたんですけど、実験的な音づくりをかねてよりされてきたんです。とくに特徴的なのはおふたりとも、現代美術の分野でも活躍されているということ。サウンドインスタレーション作品の発表だとか、一般的な音楽の枠組みを超えて、幅広く活躍されているんです。
今回はおふたりから、発想の根源だったり、音に対するアプローチだったりを教えていただきます。アートとしての音楽を学ぶのに最適な人材だと思っていますね。実践編では、CLUB METROメトロをメイン会場に、音楽をというものへの思考を深めるワークショップをおこないます。音と環境・音と空間など、音というメディアを介して生まれるものは何か。そして皆さんのなかに生まれる音楽表現というものを見つけていっていただききたいと思っています。
ー:すごく素敵な学びの場になりそうです!登頂編のほうはいかがですか?
コマツさんはBASE ART CAMPの登頂編にも登場していただきます。「サウンドクロッキー」と題し、受講者の皆さんには京都の町の音を収集してフィールドレコーディングを体験していただく予定です。音がかたどられる街の風景について語り合うというような場づくりは、私もおもしろそうだなと思っています。
音楽というメディアを通じた学びはビジネスにも活かされる
ー:BASE ART CAMPは、ビジネスパーソンも対象になっていまして。大人になって音楽を学ぶことはビジネスの場においてどんな影響があると思いますか?
どういうゴールになるか詳細はまだ見えていませんが、皆さんといろいろディスカッションを重ねながら音楽そのものにアプローチしていきたいなと思っています。「音楽を学ぶ」ということに関していえば、今回、私個人としては音をつくるとか、演奏するスキルを身につけてほしいという訳ではないんです。
今回のBASE ART CAMPを主催している一般社団法人BASEは、アーティストの創作活動に関する芸術拠点を守っていくための基金として、京都にある6つの民間の芸術拠点と金融機関である京都信用金庫によって設立された団体だというのは、すでに聞き及んでいる人も多いと思いますが、運営側もまたアーティストであるということが一般社団法人BASEの特徴じゃないかなと思っています。
ー:と言いますと?
一般社団法人BASEの理事長をつとめる京都信用金庫の榊田さんもですね、若い頃に音楽活動に没頭されていたんです。シンセサイザーの多重録音で楽曲をつくっていたらしくて。その時のものづくりへの姿勢や、学びの原体験というものが、現在の経営哲学にもすごく大きな影響を及ぼしているということをお話をされてましたね。
ビジネスパーソンにも向けたアート塾であるBASE ART CAMPですが、この音楽コースでは、音楽というメディアを通して発想力を鍛えていただくこと。それによってビジネスマインドにも大きな刺激を受けていただけるんじゃないかなと考えていますね。
いろんなジャンルのアートの現場がコンパクトな京都の街に点在していて、代表的な各拠点が手を取り合うことで一般社団法人BASEおよびBASE ART CAMPは生まれました。交流が盛んになって、それが混ざり合ってお互いを刺激しあうだけではなく、6社が連携して芸術学校にまで昇華したっていうのは、すごく京都らしいなあと思います。
音を出せるようにならなきゃ!とか、曲をつくれるようにならなきゃ!とか気負わなくていいので、京都という街ではなければ生まれなかったあろう学びの場へ、ぜひ幅広い目線を好奇心旺盛に持って、たくさんの人にきていただきたいですね。
▼インタビュー動画
▼プロフィール
《 一般社団法人BASEとは?》
京都の現代芸術の創造発信拠点として活動する5つの民間団体と京都信用金庫の協働で立ち上げた団体です。コロナ禍を機としてアーティストの制作活動のみならず、京都の文化を担ってきた民間の小劇場、ミニシアター、ライブハウス、ギャラリーなど芸術拠点の経済的脆弱性が顕在化し、今なお危機的状況にあるといえます。そのような状況を打破するために、THEATRE E9 KYOTO、出町座、CLUB METRO、DELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space、kumagusukuの民間の5拠点がこれまでにない社会全体で芸術活動をサポートしていくための仕組みづくりのために立ち上がりました。
◆BASE ART CAMP について詳しく知りたい方はこちら
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