春の高校バレーの過密日程について考える
4年に1度の祭典FIFAワールドカップカタール大会も、メッシ率いるアルゼンチンの優勝で幕を閉じました。中東の気候も考慮して、異例の12月開催且つ過密日程となったことも話題になりました。特にヨーロッパの選手達はシーズン中ということもあり、疲労が濃く見えた選手もいたと思います。
今年も終わりを迎えようとしていますが、年末年始には育成年代の集大成ともなる大会が各競技で開幕します。サッカー、ラグビー、バスケットボール、バレーボール等々。育成年代の集大成ということもあり、感動的なシーンに多くの人がその勇姿に勇気づけられていると思います。
感動的なシーンの裏では、ノックアウト方式のトーナメント特有の短期間決戦による、過密日程の疲労等が心配される声も少なくはありません。
その中でも5日間で優勝チームを決める、異常とも見れる全日本高校バレーボール高等学校選手権大会、通常春の高校バレー(以下 春高)の過密日程について本記事では考えていきます。
育成年代の各競技大会日程
本記事で取り上げる大会に関しては、その競技のみで開催される大会を取り上げており、インターハイ/国体等は取り上げないことにします。
・各競技大会日程(大会名は通称)
近年甲子園において過密日程や、一人のエースで投げ抜くことが問題視されて記憶に新しいですが、その対策として準々決勝、準決勝、決勝の前日には休養日が設けられ、球数制限等も導入されています。
休養日についてはWC、春の高校バレーが設けられてないですが、WCは1回戦を2日間に分けて行うためチームによっては休養日という形になります。
春高の過密日程の異常性
他競技と比較をしても春高は過密日程ということが言えますが、その過密日程がどれ程異常なのか問題点を上げていきます。
①大会3日目のダブルヘッダー
大会3日目に3回戦が行われるが、その後ダブルヘッダーとして準々決勝が行われ、1日最大に6セットも戦います。私もバレーボールをやっておりましたが、練習試合などは大体6セット戦いますがヘロヘロになります。
更に、練習試合とは違ってメンバー交代を積極的に行うことも少ないため、主力メンバーの疲労度は計り知れないです。
②24時間もないインターバル
1回戦第1試合開始が9:15となり、2回戦第1試合開始は9:30となっております。どう考えても24時間もインターバルが無く、リカバリーができません。3日目(3回戦/準々決勝)→4日目(準決勝)に関しては約24時間で3試合を戦うことになり、準決勝は5セットマッチ3セット先取となるため、最大で11セット戦うチームが出てきます。
過密日程によって起きる問題
リカバリーに当てる時間も満足に無く、体が出来上がっていない育成年代において、最も考えられるリスクは怪我です。バレーボールは絶対的なエースがいるチームは、そのエースにボールが集まります。セッターも点に一番近い選手を選ぶわけで戦略としては当然となります。その中でもバレーボールにおいては恵まれた体ではないものの、高い身体能力を持つ選手には特に怪我のリスクが高まります。
記憶に新しい選手としては水町選手(182cm 鎮西高校→現 早稲田大学)や、桝本選手(181cm 鎮西高校)のような選手です。4試合以上勝ち抜き1試合で100本以上のスパイクを打ち、試合に負けて泣きじゃくるシーンが視聴者の胸を打ち話題になりますが、美談で片付けていい問題ではないと思います。勿論昨年優勝の日本航空や、高橋藍を擁して優勝をした東山高校、キセキの世代の星城高校等、バランスの良いチームを作るのが理想ですが、それは今後の課題として後述させていただきます。
前衛・後衛にかかわらず、助走に入りチームのために跳び、腕を振る。サーブでは強烈なジャンプサーブを叩き込み、相手エースを止めるためにブロックでも活躍をする。更には、レシーブの中心となることも多く、肩、膝、足首等様々な箇所に異常が出てしまうのは言うまでもありません。
特に前述の選手は180センチ前半台とバレーボール選手としては小柄で、フルジャンプで自分よりも10センチ以上高い選手と対峙しています。
当然バレーボール以外の競技でも同様のリスクは抱えています。WC等も理想を言うと休養日を設ける必要性はあるし、高校野球においてもまだまだ過密日程であると考えております。「この大会で競技人生を終えてもいい」という感情で取り組む選手がいることは否定しませんが、我々大人がその選択肢を狭めてしまうことには、強く警鐘を鳴らす必要があると感じています。テレビ中継や学校行事都合、選手/家族の旅費等、様々な事情があるのは理解しますが、選手の人生ファーストで考えていければと思います。
今後の春高のあり方
今後の春高のあり方としては、最低限3月開催であった時のような7日間開催に戻すべきです。※春の高校バレーは2011年から1月開催となっております。ただ、それも最低限の対応だと考えております。理想は3回戦以降は1日ずつ休養日があるべきだと思います。
またバレーボールの育成のあり方も考えていくべきです。育成年代では体に恵まれなくても、チーム力で勝ち抜く方法はいくらでもあります。前述したような高校はそれぞれ違う特徴/戦術で春の高校バレーを勝ち抜きました。圧倒的なトータルディフェンスで勝ち抜いた日本航空、大黒柱の高橋に加えて高速コンビバレーの東山、スタメン全員が世代トップレベルの星城高校。
決して鎮西高校の畑野監督を否定しているわけではありません(2010年のチームは総合力の高い素晴らしいチームでした)
部活動である以上その競技につぎ込む予算は限られてしまいますが、高校生であれども選手ファーストで人生を考えられるように、このようなことを発信していければと思います。また、前述したような部活動特有の課題や、各競技において「神格化/聖地化」されている大会の課題についても今後書いていければと思います。