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流星観測システム「MeteorBroadcaster(メテオブロードキャスター)」の事例から、バスキュールらしさについて考えてみた

突然ですが、みなさんは流れ星を見たことはありますか?  
バスキュールでは、独自に開発したリアルタイム流星観測システムを用いて、日本上空に現れた流れ星をみなさんにお届けするプロジェクト「MeteorBroadcaster(メテオブロードキャスター)」を2016年より展開しています。
「メテオブロードキャスター」では、誰もが知る言い伝えである「星に願いを込める」体験を、都会のイルミネーションや、テレビ番組、ライブ中継、受験生の応援キャンペーン、プラネタリウムなどさまざまな形で提供してきました。
今回は、宇宙や天体への憧れ、個人の好奇心を起点とするプロジェクトの生み出し方、データをエンターテインメント体験に昇華するアプローチ、さまざまな協力者を巻き込む共創プロセスなど、バスキュールのカルチャーやメソッドが凝縮した「メテオブロードキャスター」を通して、バスキュールらしさについて改めて考えてみました。
(本記事は、バスキュールのポッドキャスト「メテオブロードキャスターってなんだ? 前・後編」 の収録内容を再構成したものです。)


エンジニア個人の探求がプロジェクトの起点に

「メテオブロードキャスター」が生まれた背景には、高校時代から流星を追い続けてきた一人の「流星研究家」の思いがあります。
現在、バスキュールでテクニカルディレクターとして働く武田誠也は、高校時代に地元・静岡を離れ、福島にある全寮制の高校に通っていました。
本人曰く、「星を見ることくらいしか楽しみがなかった」という環境のもと、自然科学への関心を強めていった武田は天文部を立ち上げ、電波を利用した流星電波観測の研究・実践を始めました。

その後バスキュールに入社した彼は、あらゆるモノをネットワークに接続する技術「IoT」が注目され始めた2015年頃から、日本全域をカバーする流星観測インフラを構築し、流れ星のデータをエンターテインメント体験に昇華することを構想し始めました。

当時は、2000年代にFlashを駆使したクリエイティブでWeb/インタラクティブ業界を席巻し、その後日本テレビと共に設立したジョイントベンチャー「HAROiD」を通して、インタラクティブな体験づくりをテレビへと拡張してきたバスキュールが、実空間におけるアプローチを模索していた時期でもありました。

そして、東京・日本橋の冬のイベントをプロデュースする機会が得られた際に、流星と連動した世界初のイルミネーション・アート・プロジェクト「願いの森」を企画・開発し、これが「メテオブロードキャスター」としての最初のプロジェクトになりました。

MeteorBroadcaster
流れ星を見つけた時のときめきを多くの人と共有するために開発された、リアルタイム流星観測システム。

プロジェクトづくりにおけるバスキュールらしさ①
個人的な動機からスタートする

バスキュールのプロジェクトは、スタッフの個人的な動機から生まれたものが少なくない。高校時代から流星を追い続けてきた武田の思いに端を発する「メテオブロードキャスター」は、世の中のトレンドやユーザーニーズ以上に、個人の内面にある興味・関心を大切にするバスキュールのカルチャーの賜物なのかもしれない。

プロジェクトづくりにおけるバスキュールらしさ②
インターネット時代の「年中行事」をつくる

Mixiクリスマス」や「LINE七夕プロジェクト」など、バスキュールではかねてから、多くの人がリアルタイムで体験を共有できるインターネット上における年中行事や新たな習慣づくりに取り組んできた。地球の公転と連動している流星群の観測もまさに毎年同じ時期に体験できる「年中行事」。当時注目されつつあった「IoT」技術を活用することによって、リアルな場におけるバスキュールらしい体験づくりが実現できた。

自前で構築した流星観測システム

都会の明るい夜空ではなかなか見つけることが難しい流れ星ですが、電波を利用した流星電波観測という方法を使うと、肉眼では見えない小さな流星も捉えることができます。
「メテオブロードキャスター」では、日本各地の天文台や教育機関などの協力のもと、全国各地に流星観測局を設置し、日本列島を網羅できる流星観測網を構築。各観測局のデータをクラウド上で解析し、日本上空に出現した流れ星を24時間リアルタイムでお知らせしています。

テクニカルディレクターの武田

技術開発におけるバスキュールらしさ①
独自のインフラ構築とコンテンツフォーマットの開発

「メテオブロードキャスター」では、自分たちが扱いたいデータを取得するために独自のインフラを構築した。バスキュールでは、持続性・応用性が高い技術インフラやコンテンツフォーマットを開発することで、特定の施策にとどまらない多様な体験をつくることを目指している。

技術開発におけるバスキュールらしさ②
まずはつくってみるR&Dカルチャー

バスキュールの根底には、R&Dやプロトタイピングの文化がある。仮に依頼主がいなくとも、自分たちが面白いと感じているもの、多くの人たちの人生をより豊かにするもの、将来的な価値になると信じたものをまずはつくってみる。先んじてショーケースをつくり、パートナーとなり得る企業や団体にその意義や可能性を示すことでプロジェクトが発展するケースは少なくない。

データを活用したストーリーのある体験づくり

日本橋で実施した「願いの森」では、光の「スケール」ではなく、光が持つ「ストーリー」を楽しむという新たなイルミネーション体験を提供しました。
会場となった日本橋・福徳の森は、当時できたばかりの屋外空間。「森」とは言うもののまだ若木が多い状態で、スケール面では都内の有名イルミネーションスポットとは勝負になりませんでした。

そこで、「流れ星に願いを3回唱えると願いが叶う」という誰もが知る伝承に紐づけ、流星のデータと連動する光にストーリーを持たせ、イルミネーションをエモーショナルな体験に昇華させました。
自然現象と連動した世界初のイルミネーション体験は多くのメディアでも紹介され、結果的に他の有名イルミネーションに負けない人気スポットに。多くの人たちが日本橋を訪れるきっかけになりました。

会場に設置された「願いディスプレイ」が流星の感知を知らせた瞬間には、多くの来場者が高層ビルが立ち並ぶ日本橋の夜空を見上げるという現象も。
明るい東京の夜空の下でも流れ星の存在に思いを馳せられることに加え、来場者のスマホから「願いディスプレイ」に投稿されたさまざまな「願い」を通して、各自が大切にしているものや社会全体の気分が共有される。
そこには、無数のLED電球が常時点灯しているきらびやかなイルミネーションにはない、豊かな体験がありました。

願いの森
「メテオブロードキャスター」が流星を検知した瞬間にイルミネーションが輝き、SNSや特設サイト経由で「願いディスプレイ」に集まったユーザーの願いが天に届けられる。

体験づくりにおけるバスキュールらしさ①
体験の新たな意味をつくる

「願いの森」では、「流れ星を見たい」「星に願いを届けたい」という誰もが持つ憧れや願いにアプローチする体験を設計することで、LED電球の数などスケールで圧倒する従来のイルミネーションにはない新たな体験の意味を創り出した。このようにバスキュールでは、これまでにない新しいモノサシをつくるような体験づくりにチャレンジし続けている。

体験づくりにおけるバスキュールらしさ②
みんなが主役の体験をデザインする

インターネット文化が根底にあるバスキュールのものづくりは、「民主化」がキーワードになっている。参加者の願いがあって初めて完成する「願いの森」のように、つくり手/受け手といった垣根やヒエラルキーがない「みんなが主役になれる体験」として提供していくことを目指している。

体験づくりにおけるバスキュールらしさ③
データから新たな体験価値を生み出す「データテインメント」

一般的なデータ活用は効率化や最適化、利便性を追求するが、バスキュールでは、クリエイティブとテクノロジーの力でデータから新たな体験価値を生み出す「データテインメント」を標榜している。流れ星のデータそのものにストーリーや情緒的な価値を持たせた「メテオブロードキャスター」 は、バスキュールの「データテインメント」を代表するプロジェクトのひとつ。

多くの協力者を巻き込む共創プロジェクトに

1年目は、テクニカルディレクター・武田の自宅や実家の屋上、高校時代の恩師の家の屋上の3ヶ所に設置されたアンテナで関東上空の流星データを観測していた「メテオブロードキャスター」ですが、2年目以降は観測網を全国に拡げていきます。
スペースや電力の確保など設置条件が限られる中、武田の地道な普及活動によって、全国各地の天文台や大学、中高一貫校の天文部などとの連携が実現。研究や教育、展示コンテンツなどアンテナを設置する側のメリットや価値を創出することによって、共創プロジェクトとして発展させることができました。

宮城県古川黎明中学校高等学校の自然科学部に所属する天文部の学生

2017年に行ったネスレ「キットカット」とのコラボレーションプロジェクト「ホシガケ」では、頑張る受験生の願いを流れ星に届けるスマートフォンのサービスを開発。観測網を拡げたことによって、全国の受験生やそのご家族、先生方などに利用され、合格祈願はもちろん、合格後の後日談や感謝のコメントなども多く書き込まれました。
現在、全国7ヶ所にネットワークが拡がっている「メテオブロードキャスター」は、より幅広い層に向け、流れ星を見つけた時のときめきやワクワク感、天体への憧れやロマンを共有する多様な体験を提供し続けています。

ホシガケ
地域(受験校の所在地)を選択し、デジタル絵馬に願いを書くと、同じエリアの上空で流星が検知された際に、ユーザーのスマホに演出付きの通知が送られる。

プロジェクト促進におけるバスキュールらしさ①
ヴィジョンを掲げ、共創プロジェクトに発展させる

バスキュールのプロジェクトにはさまざまなステークホルダーを巻き込んでいく共創型のアプローチが多い。宇宙や天文への憧れやワクワク感、探究心などピュアな欲求から生まれた「メテオブロードキャスター」のように、利益などの数値に換算できない信念やヴィジョンに共感してくれるパートナーとのコラボレーションを大切にしている。

プロジェクト促進におけるバスキュールらしさ②
メンバーのライフワークになるプロジェクトを育む

武田が高校時代に抱いた宇宙や天文への憧れが、バスキュールという環境と出合うことによってカタチとなった「メテオブロードキャスター」。その後彼は宇宙ライブエンターテインメントプロジェクト「KIBO宇宙放送局」にもテックリードとして携わるなど、ライフワークとして、宇宙や天文学の豊かさ・奥深さを伝える体験づくりに取り組み続けている。このようにバスキュールでは、スタッフ一人ひとりのライフワークや生きがいにつながるプロジェクトを育むことを大切にしている。

「メテオブロードキャスター」は、「KIBO宇宙放送局」など後に続く宇宙エンターテインメント事業の礎になると同時に、バスキュール独自のアプローチ「データテインメント」のポテンシャルを確信する機会になりました。
通常は感知することが難しいさまざまなデータをテクノロジーの力で集め、エンターテインメント体験に変換することで、まだ気づいていなかった現実世界の豊かさを届ける。
先行きが見えず、何かと不安がつきまとう時代だからこそ、眼の前にある些細なあれこれに一喜一憂するだけではなく、この素敵な世界に目を向けてほしい。
本来誰もが享受できるはずなのに、まだ気づけていない世界の面白さやワクワク感を提供していくことこそがいま求められているデザインだと信じ、バスキュールはさまざまなプロジェクトに取り組んでいます。

[編集協力]原田優輝(Qonversations)


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