どんなお題でも語る#6「会長の家出」
放課後、生徒会室に入ると珍しく会長の姿がない。
代わりに一枚の書き置きが。
『家出します』
・・・そういうのは家でやってくれ。
とはいえ心配だ。
でもまあ会長のことだから大丈夫だとは思うけど、もしものことがあったら・・・
警察?とりあえず先生に?
うーん。
ドアが開いた。
『おはよー』
会長、普通に来た。
「いやいや、おはよーじゃないですよ」
『・・・こんにちは?』
「いや、そういうんじゃなくて・・・」
僕は書き置きの方に目をやる。
『あー、見つけちゃった?』
いや、入ってすぐの長机のど真ん中に置いてあったし。
『ほら、私って優等生じゃない?』
自分で言うのもどうかと思うがコレは事実だ。
『生徒にも先生にも信頼されてるし』
自分で言うのもどうかと思うがコレも事実だ。
『やたら頼みごとされるわけ。生徒会長なんて響きは良いけど、生徒と教師との板挟みで、やってることは中間管理職よ。』
確かに会長への相談は多い。
それでも、全て完璧にこなしてしまう会長を、僕は尊敬していた。
ただ、おもむろに窓際へ歩き出し、遠い目で外を見つめるとかいうヒロイン演出はいただけない。
『・・・流石に疲れちゃったの。』
『だから何もかもリセットしたくて。』
僕は会長の苦悩を何も知らなかった。
普段は
「キャラメルコーンのピーナッツはキャラメルコーンになれなかった不発弾だと思っていた」
とか、
「ルマンドを粉々にせず配送する業者にはノーベル平和賞を与えていい」
とか、
訳のわからないことを言いながらも飄々と仕事をこなすから気付けなかった。
常に期待に応えなければというプレッシャーに晒されている彼女が、疲れない筈がない。
会長、僕は・・・
「だから行ってきたの。お寺」
寺?
『いやー日々の喧騒から離れるだけでこんなに心がスッキリするなんて!』
『嬉しくておみくじ2回引いちゃったよ、同じ番号だったけど。』
よく振ってから引かないと。いや、そもそも2回引いちゃダメだ!
まあそれは置いておいて、
「家出したんじゃないんですか?」
『え、私?なんで?』
「だって書き置きが・・・これ、会長の字ですよね。」
『うん。だから書いたよ?”出家します”って。』
!?
改めて書き置きを見る。
・・・ホントだ。
“出家します”とデカデカ書いてある。
(なんならルビも振ってある)
疲れていたのは僕なのかもしれない。
『お賽銭奮発して100円入れちゃったから今日のバームロールはお預けだけど、いやー良い気分だよ。』
『君もどう?出家。スッキリするよー!』
やっぱり会長も疲れている。
さっきから聞く限り、どう考えても会長のは”出家”ではなく、ただの”お参り”だ。
「あの」
「キツかったらお寺じゃなくてまず僕に言ってください。頼りなく見えるかもしれませんけど、絶対に支えますから!」
「あと、お寺行くなら僕も誘ってください!あんな人気のないところ、何かあったらどうするんですか!」
突然語気が強くなった僕に面食らった会長は咄嗟に視線を逸らし、遠い目で外を見つめる。
『うん・・・ありがと。』
わぁ〜煩悩がいっぱい!
そうだ、出家しよう。
#6「会長の家出」完