チョコストーリーはギリギリに
僕は仏教徒だ。
正直なところ自分のことを仏教徒だと意識する瞬間なんてないが、あえて言おう。
僕は仏教徒だ。
お盆には家族でお墓をピカピカにするし、
大晦日の紅白歌合戦は欠かしたことはない。
僕は仏教徒なのだ。
2月半ばになると毎年周囲が騒がしくなる。
分かるよ。
まだ節分の余韻が残ってるんだよね。
でもここは学校だから、浮つく気持ちをグッと抑えて勉学に励もうね。
皆の雰囲気に飲まれまいと、朝から
「僕は仏教徒だ」
「僕は仏教徒だ」
と仏仏繰り返してなんとか放課後を迎えた。
いつもはあっという間にいなくなるのに、皆なぜか教室に残っている。
ざわ…ざわ… ざわ…ざわ…
ざわ…ざわ… ざわ…ざわ…
このままだと僕まで朱に交わってしまう。
早くオアシスに行こう・・・
生徒会室に入ると、会長が何やら呟きながら書類と格闘していた。
『私は仏教徒だ』
『私は仏教徒だ』
仏仏仲間だ。
「会長もでしたか。みんな節分の余韻が残りすぎですよね」
『私は仏教徒だ』
『私は仏教徒だ』
『私は仏教徒だ』
おや、会長は己の中の鬼と戦っていらっしゃる。
勿論書類は1ミリも進んでいない。
それどころか書類横のノートに描かれた空也上人立像(くうやしょうにんりつぞう)の陰影がぐんぐん濃くなっていく。
『あー駄目だ。ごめん、帰る!!』
『これ全部承認しといて!』
「は、はぁ・・・。」
会長は節分後夜祭開催の陳情書を私に押し付け、仏仏しながら帰っていった。
書類仕事を終えると、
僕は何となくカバンの中、机の中に忘れ物がないか確認してから、
何となく教室に戻りロッカーの中を確認し、
何となく学校新聞の隅を確認し、
何となく下駄箱を覗いてから帰路につく。
小腹が減ったので途中でオカカおにぎりを買って食べた。
コンビニを出ると、ChocoZAPが目に入った。
最近体重増えたなぁ。食べといてなんだけど、僕も運動しようかな・・・
野球?いやいや、今から団体競技は難しいか。
そういえば、昔マリーンズにいた外国人監督は誰だったっけ。
そんなことをとろとろ考えながら帰宅した。
部屋で勉強しても、どうも手につかない。
こういうときはゆっくり風呂に入って寝るに限る。
湯煎から上がると、もう23時を回っていた。
寝るか・・・
ベッドに横になる。
なんだか今日は疲れたなぁ。
会長も仏教徒だったけど、大丈夫だろうか。
節分明けは辛いですね、会長。
・・
・・・
・・・・
(♪暴れん坊将軍のテーマ)
!!!!
枕元のスマホに飛びつく。
会長から電話だ。
『少し外に出られる?』
「御意。」
夜の公園。
夜の公園?
夜の公園!
ベンチで待っていると、四角い箱を持った会長が現れた。
『ふぅ、間に合った』
「どうしたんですか!?こんな夜中に…」
『いやさ、渡したいものがあって』
(ガサゴソ)
『はい、義理。』
え?コレって・・・
異教徒のアレ?
「開けてもいいですか?」
『もちろん!』
「ん?なんですかコレは」
僕がオカモチの仕切りを外すと、
口からてるてる坊主みたいなものがいっぱい出ている土色のおじさんが出てきた。
『空也上人立像。仏の心が分からないと作れないと思って精神統一してたんだけど、突然悟りが開けたから急いで家で作ったよ。』
『こんな遅くにゴメンね、次の日までこの形が持つか分からなかったから君にすぐ見せたくて。』
「生徒会室の仏仏は精神統一だったんですか…」
「でも、なんでこんな色してるんですか?」
『だって、そう見えないかもしれないけど…ギリ、チョコだからね。』
「チョコ・・・?」
2月14日、23時59分。
会長に呼び出された僕は、おじさんの口から出たてるてる坊主を折って一緒に食べた。
うん、間違いない。
僕は仏教徒だ。
完
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?