【解説】第2回東海CSのカバレージが出来るまで

 どうもバートレットです。最近はDMをやるよりも見る側に回りつつあります。アレですね。バディファイトのパル子ちゃんみたいな立ち位置ですね。自分もバディファイトのデッキは持ってるけど主戦場は実況解説とかみたいな。

 で、今まではニコ生で喋るのがメインだったんですが、書く方にも手を広げようと思い立ち、今年度はこれまでカバレージを3本書きました。東海CSで2本、北陸エリア予選で1本書いてます。

 今回は、何故カバレージを書こうと思い至ったのか、そしてカバレージが公開されるまでに何をやったかを、今年度の振り返りの意味も込めて、まずは東海CSのカバレージについて、順を追ってお話します。

 ちなみに完成した記事は以下のリンクから読めます。

 ・第2回東海CS準決勝
 ・第2回東海CS決勝

 これからカバレージ書きたいって人のために、何かの参考になれば幸いです。

1. きっかけ

 まぁきっかけと言ってもたいして劇的なものはなかったです。
 第2回東海CSで実況やりたい、みたいな話を主催の蒼くんと喋ってたんですが、その日にちょうどデュエマ初のプロリーグが行われることが告知されており、話題はそっちに取られるんじゃないか、という危惧が発生。

 これは生放送やっても現地組多いだろうし集客に期待できないな、ということで諦めましたが、話しているうちに、「じゃあカバレージなら後から好きなタイミングで読み返せるしそっちで行けばいいんじゃね?」という形でまとまりました。

 で、この時点でライターは自分がやろうと決心しました。従前からDM:Akashic Recordで一緒に活動していたヤスさんとか鐘子くんとかが続々とライターとして活躍を始めていましたし、自分自身物書きの経験があったので、活かさない手はないぞということで即挙手。

 あと、この時すでに「紅蓮ゾルゲ回顧録」を執筆していたのも大きいですね。これ、まつがんさんの「だらだらクソデッキ」に感銘を受けて「似たようなことやってみるか」という思いから始めたのですが、いい訓練になったと思います。周囲のプレイヤーからは「怪文書」と呼ばれていたんですが。

 ということで、東海CSの準決勝と決勝の2本を記事にすべく、カバレージ班として参加することが決まりました。

2. 準備

 いざカバレージを執筆するに当たり、まずはカバレージがどういうものか、というのを自分の中で固めておこうと思いました。

 もともと自分は高校時代に新聞部に所属していまして、校技大会の観戦記事とか書いていた経験はあったんですが、それも10年以上前の話。ただ、カバレージってそれとはちょっと違ったアプローチなのかな、と考えていたんです。

 例えば、スポーツ専門誌「Number」で書かれるような記事ですよね。試合の流れをドキュメンタリー風に追って、選手個人個人の背景やドラマにも触れる。

 もっとも、デュエマのようなTCGの場合は1対1のゲームですから、よりドラマを濃密に描きたくなるわけです。心理描写とか、「流れ」のような目に見えないものを、映像では表現できない空気感を描写してあげる必要がある。実は、これ動画の実況で心がけてた部分です。

 実況の場合、目に見える部分、例えば「何を出したか」「その結果何が起きたか」を説明するとともに、目に見えない部分、例えば選手の心情や場の流れ、といった部分の補足が重要になってきます。見えるところは視聴者も見ればわかるわけですから、見えない部分を理解する助けが必要になるわけですね。

 「これきっと○○選手、焦りが出てくる場面ですよね」とか、「あれ引いてたらノータイムでプレイしているはず、しかしそうしないということは……」など、視聴者がただ動画を見るだけでは知り得ない情報にガンガンタッチしていきます。それが実況の果たす役目だな、と思っています。

 で、デュエマやMTGなど、他の方が書かれているカバレージを読んだりしていると、これはそのままカバレージでもできるんじゃね? というか先人達もやっているところだな? という感想が浮かんできました。なので、実況のスタイルをそのままカバレージに持ち込んでみよう、という形でまずは完成形をイメージしました。

 試合もやっていないのに完成形をイメージするのは妙だと思われるかもしれませんが、逆にいざ何も考えずにただ機械的に取得した棋譜が手元にあっても、それは感情が乗っていないただの棋譜でしかなく、付加価値がありません。極論を言ってしまえば、Vaultの対戦ログをそのまま文章の形で書き下ろしたカバレージというのは読者にとって訴求効果がないわけです。

 では何を付加価値とするかというと、ドラマ性です。読者に「この対戦はなんかわからんがエモい」と思ってもらう必要があるんです。だからこそ、カバレージのメモを取るにしても、試合後にインタビューを行うにしても、まずは自分がどんな記事を書きたいか、というイメージが重要になってきます。そうすることで、ある程度試合を見るポイントやインタビューの質問内容は決まってくるものです。

 イメージを固めた後は、予めプレイヤーにどんな質問を投げるか、試合を見る時にどこに注目しておくかを決め打ちしておきます。プレイヤーへの質問は、蒼くんとカバレージの話を詰める中でトップ8のプレイヤーへのインタビューを行うという話が上がったので、その質問内容をこっちで考える形で話がまとまりました。というか、以前静岡CSで使った質問フォーマットがあったのでそれをちょっと変えつつ流用してました。

 ここまでのことを、前日までに決めておくのがベストだと思います。ちなみに、TCGプレイヤーの皆さんなら多分すぐ出来るスキルじゃないかと思います。「どんなデッキにしたいのか?」「このカードで何をしたいのか?」という考え方を、「どんな記事にしたいのか?」「記事書く上で選手に何を聞きたいのか?」というふうに、記事執筆に変換するだけでいいんですから。

 後は、当日予想される環境デッキをある程度把握しておくこと。勝ち上がってくるデッキはよっぽどのローグデッキでない以上、試合の流れもイメージしやすく、棋譜も書きやすくなります。この手にはこう来る、という流れを自分の中である程度作っておきます。このあたりはVaultのログを見たり対戦動画見たりして研究していました。

 プレイヤーとしてもライターとしても精力的に活動されている方は、このあたりのスキルは非常に高いと思います。例えば、私の知っている限りだとイヌ科さんや神結さんは得意中の得意ではないかと思います。他には、カバレージを長く書き続けている方も、ある程度手なりでこのあたりのことはやってしまうのではないかと。逆に私は普段あまり環境デッキに触れないような人間なので、ここでかなり苦労してます。むしろ聞いちゃうのもアリかもしれないですね。

3. 大会当日、試合前まで

 大会当日はなんだかんだで結構緊張していたのを覚えています。これまでスコアキーパーや実況、ジャッジとして大会運営に関わってきましたが、カバレージライターとしては初めてだったので上手くやれるかどうかの不安がありました。

 会場について、設営の手伝いや受付対応がある程度落ち着いたタイミングで、受付を終えたプレイヤーに話を聞いたりします。こういうとき、コミュ力が試されますね。Team静岡やDM:Akashic Recordには感謝してもしきれません。大会運営や実況に関わってたおかげでいろんなプレイヤーと顔見知りになることができたので、話がすごく聞きやすいです。「最近調子どうよ」とか「今日はどんなデッキで出るの?」とか。割とこの何気ない会話が記事執筆の助けになったりします。

 予選ではとにかくいろんな人の試合を見ます。後は、SK席で様子を見たりもします。試合結果を見て、「あ、この人勝ってるじゃん!」と思ったら即座に話を聞きに行ったり。とにかく取材取材アンド取材です。情報をかき集めます。

 私は喫煙者なので、タバコ休憩してる選手にも話を聞きに行きました。大抵喫煙所で交わされる雑談は本音が出るものです。

 プレイヤー心理って不思議なもので、自分の試合の内容を顔見知りに共有したくなるんですよね。負けた試合の愚痴も勝った試合の武勇伝も、他人と分かち合いたくなるのが人情というもの。その吐き出し先になってやるのです。

 直接試合を見ていれば、試合が終わった後に「あのプレイングは思い切ったなぁ」とか「あそこで手が止まってたけどもしかして判断迷ってた?」とか聞いちゃうのもアリです。というか、感想戦に参加しちゃうのも良いです。これ、実際にカバレージ卓でインタビューするときの予行演習になります。

 とにかく情報収集を怠らずに、予選ラウンドの時間を過ごしました。ここでは観察力とコミュ力が本当にモノを言いました。

4. 試合本番

 決勝ラウンドが始まり、カバレージ席が決まると、いよいよ試合を実際に見て、記録することになります。

 まず、カバレージ席に座ったらパソコンを開きながら自己紹介これから記事を書くライターが誰なのかをきちんと両選手に知ってもらいます。余裕があれば事前に軽くインタビューするのもいいかも知れませんが、空気を読むことが大切です。試合前に余計なことを言って選手のメンタルコンディションに影響を与えるのは愚の骨頂です。

 試合が始まったら、盤面を追いながら試合の流れをメモしていきます。ただ、このとき棋譜だけをメモるのではなく、例えば長考しているタイミングがあれば長考している時間とか、仕草とかは書き留めるようにしました。両選手の表情や手付き、さらに余裕があるならギャラリーの様子なんかもメモするといいかもしれません。もちろん、選手間で交わされた会話やジャッジとの会話も記録します。

 とにかく、このタイミングでは選手以上の集中力が必要だと思っています。盤面の状況や会話、空気感、周りの様子。感覚をフルに動員します。そして、出来る限り記事にするための情報を集めていきました。

 東海CSでは、自分がカバレージを書くのが初めてだったこともあり、補助的に小型のカメラをノートPCに据え付けて、動画も撮影しました。事前に選手には「あくまでカバレージ執筆上のメモ用途で使用するためで、公開しない」という条件を提示し、承諾をいただいています。

 ただ、動画撮影はあくまでも慣れないうちの補助輪役と考えるのが良いでしょう。動画があるという安心感はメモがおろそかになりがちです。また、動画に映っていない部分のフォローが難しくなります。あくまで、自分がその場で見聞きしたことが中心であることをお忘れなきように。

 実際、動画による補助記録は記憶の呼び水役として使用していました。「あぁ、そう言えばこの時こんなことあったな」、みたいな形で使用したくらいですね。

 試合が終わった後はインタビューです。それぞれのプレイングの意図を聞いたり、両選手と3人で感想戦に入ったりしました。試合内容の振り返りはまず、その場で選手と一緒に行います。余裕があればこのときフィーチャー席に張り付いているジャッジや、試合を見ていたギャラリーにも話を聞いてみると良さそうですね。盤面の状況とかを一緒に見ているので、ライターもプレイヤーも見落としている箇所について覚えていることがあると思います。東海CS当時はそこまでの余裕がなかったんですが、今度機会があれば他の人の話も聞く、ということはやってみようかと。

5. 記事執筆

 大会が終わってからが、カバレージライターの本番です。メモを元に、実際に記事に起こしていきます。この作業は記憶が薄れないうちに、できるだけ早めに行います。というか、観戦記事は鮮度が命なので、そういう意味でも記事執筆は速攻で取り掛かりましょう。

 で、実際の記事執筆なんですが、これは普段書いている小説などの執筆作業の方法論を応用しています。執筆を、いくつかの段階に分けるのです。

 まず、メモをもとに、いわゆる筋書き(プロット)を起こします。というか、メモがほぼそのままプロットになります。小説書かせてもらっている身からするとぶっちゃけすげぇ楽です。ゼロからプロットを生み出す必要がないわけですからね。

 ただ、試合の流れだけを書いててもしょうがないので、例えば「そもそもこの大会は……」といったように、大会自体が開催された背景など、盤外の描写をどこにどれだけ盛り込むかもここで決めます。

 筋書きを起こしたら、いよいよ本番。実際の本文の執筆に入ります。心理描写や場の流れ、細かい情景をがっつり書き込んでいきます。

 ちなみに、私が観戦記事を書く上ではいくつかこだわりがあって、実況から引き継いだ部分や元々物書きとして気を使っていたことが延長線上にあります。

 まず、地の文で「!」はできる限り使わないようにしました。感嘆符ってお手軽に感情表現が出来ちゃうんですけど、それは文章での感情描写を盛り込めない台詞部分とかで使用するべきじゃないか、という私なりのこだわりがあってそうしています。ただ、やっぱり勢いを表現する上では便利なのも否定できないので、このあたりはさじ加減だと思います。

 後は、とにかく嘘のない範囲で描写を盛りました。例えば選手にキャッチコピーをつけて印象づけたり、状況に合わせてネタを引っ張ってきたり。インタビューシートからもドラマが伺えたりするので、適切な位置でそれを引っ張ってきます。

 準決勝はビート対コンボという対面だったので、ビートダウンを使うS.S選手を侍に、コンボを使うりゅーてぃ選手を軍師に擬えました。決勝では、どちらも《BAKUOOON・ミッツァイル》を使用するデッキだったため、途中でジョン・ボイドの機略戦についての説明を前フリに置いて、S.S選手とmaru選手の戦いをドッグファイトに例えています。こういうレトリックは考えるだけでも楽しいですよホント。

 時にはカードをキャラクターとして描写します。例えばデュエマのアニメでブレイズクローがアタックするときとか、自陣から猛然とダッシュして跳び上がり、シールドを爪で叩き割る、という一連の流れを見ることになると思いますが、これを記事の上でやるのです。その最たる例が準決勝1本目、《ダダダチッコ・ダッチー》のマナドライブで《音精 ラフルル》が出てきたところです。

  突然呼び出され、主を含めた全員から注目を浴びて、カードイラストの中の彼女はこころなしか、「出てきちゃマズかった……?」と言わんばかりの怪訝な表情をしているように見えた。

 カードゲームの試合は、プレイヤーだけではなくカード自体も重要な登場人物です。こうしたカバレージを書く時には背景ストーリーとかアニメ、フレーバーテキストなんかにも目を向けると描写の助けになると思います。

 細かい心理描写や情景描写は「闘牌伝説アカギ」のナレーションをリスペクトしたりしています。古谷徹氏の淡々とした語り口のナレーションですね。選手にキャッチコピーをつけたり盤外の描写を濃厚にしたりしているのは、往年の名実況アナウンサー古舘伊知郎氏をリスペクトしたものです。もともと実況やってた頃から古舘氏や三宅正治氏の実況を真似するところから始めていたので、そのあたりが自分の文体に混入してる気がします。

 あと私が試合内容の描写を行うにあたって影響を受けたものを一つ挙げるとすれば、アニメ「バトルスピリッツ」シリーズのナレーションです。ターンごとのダイジェストが時折挟まったりするのですが、そこをフォローするのが諏訪部順一氏によるナレーション。「第3ターン、○○を召喚してアタック。猛攻の前に、ライフは3まで減少した」と、途中経過を飛ばす場合もしっかりフォローが入るのが画期的ですが、これも執筆の上で大きく参考になったと言えるでしょう。

 結果として、かなり「濃い」文章になったことは否めず、自分でも「カバレージとしては好き嫌いが分かれそうな文章になったなぁ」とは思っています。ただ、あーくんさんや神結さんなどはこの文章を非常に気に入ってくださったので、結果オーライかなぁとも思いました。

 文章を一通り書き上げたら、カード名に間違いが無いか、「てにをは」が適切に使用されているかなどの推敲を行い、表現を微修正したり描写の矛盾をなくしたりして、記事が完成しました。推敲は本当に大事です。一箇所てにをはが狂ってるだけで名文も駄文に早変わりするので、入念にチェックしましょう。ある程度完成した段階で誰かに読んでもらって、おかしいところが無いかチェックしてもらうのも手です。

6. そして北陸エリア予選へ

 こうして書き上げた記事が公開されたところ、そこそこに好評をいただけたようで、それなら次は公式で書きたいという欲が出てきました。そこで、この東海CSの観戦記事と、紅蓮ゾルゲ回顧録を実績として、カバレージライターに応募した結果、北陸エリア予選で書いてくれ、という連絡が来ました。

 やっぱり実績ひとつあるだけでも違いますね。公式でカバレージ書きたいという人はガンガン書きましょう。マジで。

 北陸エリア予選の記事については、次回お話しようかと思います。

いいなと思ったら応援しよう!