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AI搭載はスマホとPCの売り上げ増加につながっていないAI Isn’t Going to Sell iPhones and Pixels-Not Yet.GPU需要は引き続き旺盛、企業でのAI活用も活発化

スマホ、PC需要底上げの楽観論は後退

今年初め、ハイテク業界の経営幹部は、新世代の人工知能(AI)機能を搭載したスマートフォンとPCは苦戦している消費者カテゴリに新たな需要を呼び起こすことができると確信していた。だがそれは、楽観的過ぎる見方だったようだ。最新のエビデンスは、消費者のAIシフトが依然としてゆっくりとしたペースで進んでいることを示している。

アルファベット<GOOGL>傘下のグーグルは8月14日、スマートフォンPixel(ピクセル)の最新ラインアップを発表した。テキストから画像を生成したり、写真を微調整したりするAI機能を搭載したのが特徴だ。だが、どのモデルも、1000ドルの対価を支払うよう消費者を説得するだけの魅力があるようには見えない。

アップル<AAPL>は今年6月に開催した開発者会議で、今年下半期に展開する生成AIシステムApple Intelligence(アップル・インテリジェンス)にテキストを要約したりエモジ(絵文字)を作成したりするなどの機能を搭載すると発表した。だが、Apple IntelligenceがiPhone(アイフォーン)のスーパーサイクルに拍車をかける可能性は低い。

PC業界の見通しはスマートフォン業界よりも悪いかもしれない。当初は、処理能力に対する要求が厳しいAIアプリケーションを実行するために特殊な半導体を組み込んだAI対応PCに大きな期待が集まっていたが、目先のPC需要に対する楽観的な見方は後退しつつある。

既にPC業界にとって2024年は厳しい年となっている。調査会社IDCによると、1~3月期の世界のPC出荷台数は前年同期比2%増、4~6月期は同3%増にとどまった。しかも、2024年下半期は勢いが鈍化する可能性があるようだ。今月初め、インテル<INTC>はウォール街の予想を大幅に下回るガイダンスを発表し、経済見通しが予想よりも軟調なためだと説明した。


Jaque Silva/SOPA Images/LightRocket via Getty Images

PC向け新型半導体のイノベーションに疑問符

恐らく最も失望的なのは、ハードウエアメーカーがAIで誇大な宣伝をうたっているにもかかわらず、新しいPC向け半導体がイノベーションを後押ししていないことだ。米半導体大手のアドバンスト・マイクロ・デバイシズ<AMD>は今年8月、自社の最新の半導体アーキテクチャーZen 5に基づくRyzen 9000プロセッサを発売した。この新型半導体に対しては、性能向上の度合いが最小限にとどまっていると指摘するようにまちまちの製品レビューが寄せられている。例えば、欧州ゲーム情報サイトのユーロゲーマーは世代交代の必要性そのものに疑問を呈し、「価格対性能比はわれわれがRyzenに期待していた水準をはるかに下回っている」と酷評した。

PCの強気派がAMDの新型半導体によってPCの大規模な買い替えサイクルが引き起こされると期待していたとすると、失望する可能性は高い。

AMDの需要は倍増

スマートフォンやPCではAIはまだ搭載が上向いていないが、ハイテク企業とクラウドサービスプロバイダーによるAIインフラ投資は増え続けている。そして、そうした企業が受ける恩恵も増大している。

データセンターでは、AIアプリケーションの処理に特化した画像処理半導体(GPU)への需要が供給を上回っている。AMDの最高経営責任者(CEO)であるリサ・スー氏は先月、AI向けGPUの売上高が2024年に45億ドルを超える見通しだと述べた。昨年末時点での予想は20億ドルだった。スー氏は、製造委託先によるAMDへの生産割当量が増えたにもかかわらず、AI向けGPUのサプライチェーンの逼迫(ひっぱく)した状況は2025年まで続くと付け加えた。

GPU最大手である米半導体大手エヌビディア<NVDA>は8月28日に第2四半期決算を報告する。データセンター向けGPUの需要についてはその時点でより多くのことが明らかにされるだろう。

企業によるAI活用が急速に浸透

一方で企業は、顧客サービスやマーケティングから社内のITサポートの向上に至るまで、さまざまな領域で有用なAIアプリケーションを見いだしつつある。

小売り大手ウォルマート<WMT>のCEOであるダグ・マクミロン氏は8月15日の決算説明会で、ウォルマートが製品カタログに含まれる8億5000万点を超えるデータの品質を高めるために生成AIを活用していると述べた。マクミロン氏によると、生成AIを使わなければ100倍の従業員が必要な作業量だという。ウォルマートはウェブサイト検索とアプリのチャットボットを改善するためにもAIモデルを活用している。

マクミロン氏はその背景について、「当社は、顧客と会員および従業員の体験をより良いものにするための生成AIの具体的な活用方法を見いだしつつある。AIの使用事例は多岐にわたり、当社の事業のほぼすべての部分に影響を与える。今後もAIと生成AIのアプリケーションを全世界で試験運用し、展開していく」と説明した。ウォルマートの取り組みは、AIがいかに急速に経済全体に広がっているかを示している。

筆者はこの1年間、圧倒的な勝ち組になるのはAIデータセンターの構築に関与する企業、つまりエヌビディアだと主張してきた一方で、PCとスマートフォンを手掛ける企業に関してはより慎重な見方をするよう勧めてきた。現時点では、勝者と敗者のコントラストはかつてないほど鮮明になっている。

原文 By Tae Kim
(Source: Dow Jones)
翻訳 エグゼトラスト株式会社

この記事は「バロンズ・ダイジェスト」で公開されている無料記事を転載したものです。