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米スポーツビジネス、想像を超える急成長The Sports Business Is Growing Faster-and Attracting More Money-Than Anyone Imagined新たな資本参入で巨額の資金集まる

大きな変化の時を迎えているスポーツビジネス

社会活動には、それぞれ独自のカレンダーがある。ビジネス界、政界、エンターテインメント界においては、それぞれ決算発表、選挙、アカデミー賞が重要なイベントだ。もちろん、スポーツ界にも決まったカレンダーがある。ウィンタースポーツがシーズンオフとなり、「3月の狂乱(マーチ・マッドネス)」と呼ばれる全米が熱狂する全米大学男子バスケットボールトーナメントが4月8日に終わり、春の訪れを告げるゴルフの祭典、マスターズが4月11日に開幕した。

スポーツビジネスはこの春、極めて大きな変化の時を迎えている。デジタル化、スポーツ賭博の拡大、大学スポーツ選手のNIL(Name-Images-Likeness:学生アスリートが自身の肖像権を使ってスポンサー契約を結ぶこと)市場の広がり、グローバル化、そして女子スポーツの台頭が、猛烈なスピードでスポーツビジネスに変革をもたらしている。4月初旬にサウスカロライナ州のキアワ・アイランドで行われたグローバル・スポーツ・リーダー・カンファレンスでもこれらが議論の中心だった。ジェイ・ペンスキー氏のスポーツ・メディア、スポルティコと共に、このイベントをプロデュースする投資会社ブルーイン・キャピタルの最高経営責任者(CEO)ジョージ・パイン氏は「これらすべての変化はスポーツをこれまで以上に面白くしている。スポーツビジネスは過小評価されているカテゴリーだ。今後さらに魅力を増せば、政府系投資ファンドやプライベート・エクイティなど、新たな資本が参入してくるはずだ」と話す。

スポーツイベント、放映権、賭博、グッズ、アパレルを含めると1兆ドル規模になるスポーツビジネスにおける数々の数字は、目を見張るものがある。フォーブス誌によれば、世界で最も価値のある50のスポーツチームの合計価値は現在2560億ドルで、1年前より15%超増加している。アポロ・グローバル・マネジメントの共同設立者、ジョシュ・ハリス氏は、ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)のワシントン・コマンダースをスポーツチーム買収額としては史上最高値の60億ドルで買収した。このトップ50チームのうち、NFLのチームは30を占める。NFLの上位チームの平均価値は51億ドルであり、過去5年間で倍増した。この上昇率はS&P500指数を上回る。

アスリートも利益を享受しており、スポルティコによれば、引退した選手を含めて、上位50人で生涯収入合計355億ドルを手にしている。50人の出身国は17カ国にわたるが、32人は米国人だ。マイケル・ジョーダン氏が最も稼ぎ、生涯収入は37億5000万ドルだが、その大部分はナイキとのシューズ契約によるものだ。

今年で3回目を迎えたキアワ・アイランドでのカンファレンスには、4大スポーツリーグのコミッショナーに加え、その他のプロスポーツや大学スポーツの責任者、そして数多くのスポーツのチーム、さらには著名なチームオーナー、TVスポーツのトップエグゼクティブなど、スポーツ界のそうそうたる面々が一堂に会する。

このカンファレンスのプログラムはスポーツに関するものだけではない。元米大統領(ジョージ・W・ブッシュ氏、バラク・オバマ氏)、大統領選挙立候補者、中央銀行や米軍の高官、フォーチュン100の最高経営責任者(ベライゾンのハンス・べストバーグCEO、バンク・オブ・アメリカのブライアン・モイニハンCEO)、著名な市場関係者(アリアンツの最高経済顧問のモハメド・エラリアン氏、アーク・インベストメント・マネジメントのキャシー・ウッド氏)、科学者、医師などによるパネルディスカッションや講演などのイベントが行われる。

しかし、本当のビジネスの話し合いは、これらのイベントが終わった後に、ランチをしながら、あるいは熟成したバーボンを飲みながら行われる。キアワ・アイランドのビーチや、ゴルフコースで行われることもある。このような場でビジネスの提携や投資の合意がなされ、NFLチームの売却などの大型買収の話も成立する。


GREGORY SHAMUS/GETTY IMAGES

スポーツ賭博の光と影

スポーツ界の変化は数多くある。まずスポーツ賭博を例に取ろう。シティグループのスポーツアドバイザリーチームによると、スポーツ賭博セクター(ドラフト・キングス<DKNG>、スポーツベッティングサイトのファンデュエルを所有するフラッター・エンターテインメント<FLUT>、チャーチル・ダウンズ<CHDN>、エンテイン<ENT.英国>)の株価は過去12カ月で25%上昇した。中でも、時価総額390億ドルのドラフト・キングスは、上場しているスポーツ関連企業の中で最も時価総額が大きな企業の一つである。

スポーツ賭博セクターの株価上昇には理由がある。米国ゲーミング協会によれば、2023年に米国人がスポーツに賭けた金額は、前年比27.5%増の1198億4000万ドルとなり、過去最高を記録した。もちろん、スポーツ賭博に落とし穴がないわけではない。本誌の以前の記事にあるように、複数の事象が同時に起こることに賭ける「パーレイベッティング」の勝率は低い。また、全米大学体育協会(NCAA)は、試合の結果ではなく特定の選手のゲーム中のプレイに賭ける「プロップベット」を禁止する取り組みをしている。全米バスケットボール協会(NBA)は、不正があったとして選手を調査している。さらに、米大リーグ、ロサンゼルス・ドジャースのスーパースター、大谷翔平選手の前通訳が、違法なスポーツ賭博の胴元への借金返済のために巨額な金を盗んだとして告発されている。

女子スポーツの台頭

次に、女子スポーツに関してだが、デロイトは「2024年の女子スポーツの収益は12億8000万ドルに達し、2021年に実施した前回分析に比べて少なくとも300%増加する」と予測している。この急増は、ケイトリン・クラーク効果によるものだ。スポーツ専門局ESPNによれば、アイオワ州のバスケットボールのスター選手、クラーク氏の人気のおかげでNCAA女子決勝戦の視聴者数は1890万人となり、1480万人だった男子決勝戦の視聴者数を初めて上回った。この数字は2019年以降、大学、プロを問わずバスケットボールの試合で最多の視聴者数だ。クラーク選手はNILの予想年間価値リストで、アメリカンフットボールのアーチ・マニング選手や男子バスケットボールのブロニー・ジェームズ選手と並ぶ4位の340万ドルを記録した。

クラーク選手は、インディアナ・フィーバーにドラフト指名される見込みだ。チームは5月18日にニューヨーク・リバティとのホーム開幕戦に臨む。ニューヨーク・リバティのオーナーで、中国IT大手、アリババ・グループ・ホールディングス<BABA>の会長、そして男子プロバスケットボールのブルックリン・ネッツのオーナーでもあるジョー・ツァイ氏は、試合のチケット売り上げは「絶好調」だと筆者に語った。

クラーク効果だけではない。ネブラスカ大学で昨年8月に開催された女子バレーボールの試合は9万2003人を動員し、女子スポーツイベントとしては過去最大の観客数を記録した。ココ・ガウフ選手が女子テニスを盛り上げ、女子ホッケーのプロリーグが新設され、米女子プロバスケットボール(WNBA)と女子ワールドカップサッカーは記録的な観客を集めている。

一方、全米女子サッカーリーグ(NWSL)のチームに対する評価はうなぎ登りだ。数年前は500万ドルにすぎなかったが、サンディエゴ・ウェーブFC創設オーナーのロン・バークル氏は3月、同クラブを1億1300万ドルで売却すると発表した。また、オンライン掲示板レディット<RDDT>の創設者アレクシス・オハニアン氏らが共同所有するロサンゼルスのエンジェル・シティーFCには、1億8000万ドルの値がつく可能性がある。

厄介なプロスポーツチームへの投資

だが、一般投資家によるスポーツへの投資は厄介だ。マディソン・スクエア・ガーデン・スポーツ<MSGS>は、NBAのニューヨーク・ニックスとナショナル・ホッケー・リーグ(NHL)のニューヨーク・レンジャーズを保有している。フォーブスは、ニックスの価値を61億ドル、レンジャーズの価値を22億ドルと見積もっている。では、なぜMSGSの市場価値は44億ドルなのか。この53%の差は、「(オーナーのジェームズ・)ドーラン・ディスカウント」によるものだと言われている。ドーラン氏は優れた経営者ではないと考えられているとともに、チームを売却することや株式の一部を手放すことすら嫌がっているからだ。

MSGSは、ジョン・マローン氏のリバティ・メディアが保有する大リーグのアトランタ・ブレーブスとともに、株式を上場しているプロスポーツチームの一つである。米プロスポーツチームで株式を上場しているのは、この二つしかない。ブレーブスは6年連続で地区優勝し(2021年にはワールドシリーズも制した)、今シーズンも首位に立っているが、昨年7月にリバティ・メディアから50.15ドルでスピンオフしたアトランタ・ブレーブス・ホールディングス<BATRK>の株価は、直近で39ドルとなっている。

上場株式にはあまり動きがないが、プライベート・エクイティ・グループのアークトス・スポーツ・パートナーズは、大リーグのボストン・レッドソックスやNBAのゴールデンステート・ウォリアーズ、NHLのニュージャージー・デビルズなど数十のチームに直接・間接的に出資する二つのファンドで70億ドルを調達した。プライベート・エクイティによる加盟チームへの投資を禁止しているのはNFLだけである。

アークトスの共同設立者で共同経営パートナーのイアン・チャールズ氏は、「北米のスポーツクラブは、リーグの構造や事業の耐久性と予測可能性からユニークな存在だ。歴史的に見て北米のクラブの株式は、他の株式や未公開株と同程度のパフォーマンスを示している。レバレッジがかなり低い割にボラティリティーは非常に低く、相関性はない」と語る。

忘れてはならないのがデジタルストリーミングだ。デジタルメディアは、スポーツのグローバル化にも拍車をかけている。NBAのフィラデルフィア76ersのスター選手でリーグMVPのジョエル・エンビード選手(カメルーン出身)は、YouTubeを見てスリーポイントシュートの打ち方を学んだ。イングランド・プレミアリーグの米国での人気上昇や、逆に英国やドイツでのアメリカンフットボールの人気上昇は、ビデオクリップが大西洋を越えて簡単に再生できるようになったことに後押しされている。

「スポーツは世界最高のコンテンツ」

ロサンゼルス・ドジャースの元オーナーで、現在はフランスを代表するサッカーチーム、オリンピック・マルセイユのオーナーのフランク・マコート氏は、「私たちは、世界のさまざまな地域でどのように市場を開拓するかを理解し始めたばかりである。これらスポーツの象徴的なビッグブランドを保有することで学んだのは、今や世界中の視聴者を無限に獲得できるということだ」と述べた。

CBSスポーツのショーン・マクマナス会長は、「スポーツは世界最高のコンテンツであり、人々が集まって互いを応援し合ったり、互いを敵視したりするための世界最高の集積メカニズムだ。世界で今起こっていることから目をそらすことができる」と指摘する。

私たちの生活には現在、多くの不調和や分裂がある。そのため、ライブの、心臓が止まるような試合の価値がますます高くなっているのは非常に理にかなっている。そこには勝つのが確実な賭けのようなトレンドがある。

原文 By Andy Serwer
(Source: Dow Jones)
翻訳 エグゼトラスト株式会社

この記事は「バロンズ・ダイジェスト」で公開されている無料記事を転載したものです。