さえない決算を受けてアップル株が上昇した理由とは?Apple’s Quarter Wasn’t Very Good.The 3 Reasons Investors Still Loved It.ただし投資家の懸念の解消には時間
アップルの決算から幾つかの傾向が読み取れる
ウォール街で行われているのは予想を巡るゲームだ。先週のアップル<AAPL>の2024年1~3月期決算の発表はそのことを端的に表している。売上高が前年同期比4%減となるなど、客観的にみても業績はかなり悪かった。ところが、決算発表を受けてアップルの株価は7%上昇した。発表された決算の内容が懸念されていたほどには悪くなかったためだ。とはいえ、アップルの将来について投資家が抱いている多くの疑問が解決するまでにはさらに時間がかかる可能性が高い。
今回の決算発表からは、売上高成長率を信頼できるものになかなかできずにいるアップルを形作っている幾つかの流れを読み取ることできる。以下、その中から三つの(控えめではあるが)楽観的傾向と二つの(かなり)悲観的傾向について説明する。
中国の販売実績はサプライズ
中国本土に台湾および香港を加えた「大中華圏」におけるアップルの売上高は、ウォール街が懸念していたほど悪くなかった。
1~3月期に入ってからというもの、アップルが中国国内での市場シェアを同国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)などに奪われているという見方が弱気派の間で広がっていた。市場シェア喪失は事実かもしれない。だが、最高経営責任者(CEO)のティム・クック氏が5月2日の決算説明会で中国でのiPhone(アイフォーン)の販売台数が1~3月期に前年同期比で増加したと述べたことは、弱気派にとってサプライズだった。大中華圏における売上高は前年同期比8%減で、理想的とは言えないものの、23年10~12月期の同13%減よりはましだった。
アップルもAIのトレンドに乗れるか?
アップルは生成AI(人工知能)ソフトウエアの分野で他の大手ハイテク企業に後れを取っている。クック氏はこれまではAIの開発計画について曖昧な発言を繰り返してきたが、今回の決算説明会では次のようなより具体的なコメントを発表した。「AIには世の中を変革する力があり、将来性があるとわれわれは信じている。そして当社には、ハードウエアとソフトウエアおよびサービスをシームレスに統合する独自の能力、業界をリードするニューラルエンジン(機械学習モデルを実行する機能)を備えた画期的な半導体、プライバシーへの揺るぎない注力など、この新しい時代の中で自らを差別化する優位性があると考えている」。
クック氏はアナリストからの質問には応じなかったが、6月に開催されるアップル・ワールドワイド・デベロッパーズ・カンファレンス(WWDC)でAI関連ソフトウエアが大きな注目点になるとの期待が高まっている。
潤沢な手元現金を自社株買いに充当
アップルは今回の決算発表で、過去最大規模となる1100億ドルの自社株買いプログラムを新たに発表した。1~3月期に実行した自社株買い額は237億ドルと過去3番目に大きく、過去6四半期の中では最も大きかった。1~3月期末時点のネットキャッシュは580億ドル。アップルは引き続き、最終的にはキャッシュフローの収支を均衡させると約束している。
ハードウエアの不振をサービスがカバー
1~3月期の製品売上高は前年同期比で10%近く減少した。これにはiPhone(アイフォーン)の11%減、iPad(アイパッド)の17%減、そして「ウェアラブル、ホーム、およびアクセサリー」カテゴリの10%減が含まれる。Mac(マック)の売上高は新しいラップトップPCの発売に支えられ、前年同期比4%増と相対的に堅調だった。
製品売上高の減少はサービス売上高が14%成長したことによって相殺された。2024年度上半期の売上高に占めるサービスの割合は22.3%で、前年同期の19.7%から上昇しており、通期のサービス売上高は1000億ドル近くに達する見通しだ。
業績見通しに関するコメントはあいまい
アップルは新型コロナウイルス感染症の世界的大流行を受けて詳細な業績ガイダンスの提供を停止し、まだ再開していない。その代わり、最高財務責任者(CFO)のルカ・マエストリ氏が決算説明会で将来の見通しに関する簡単なヒントを提供している。
マエストリ氏は4~6月期の売上高成長率が(コンセンサス予想並みの)1桁前半となり、サービス部門の成長率は約13%だった上半期と同等になる見通しだと述べた。また、メモリー半導体価格の上昇と為替レートの逆風のせいで粗利益率が前四半期比でやや低下する可能性があると警告した。しかし、iPhoneの売上高見通しには言及しなかった。このガイダンスはiPhoneの売上高が1桁半ばの減少となることを示唆しているのではないかとあるアナリストが質問したところ、マエストリ氏は何も答えなかった。
今後の支援材料の業績への貢献は不透明
アマゾン・ドット・コム<AMZN>、マイクロソフト<MSFT>、アルファベット<GOOGL>、メタ<FB>(旧フェイスブック)の1~3月期の売上高成長率がいずれも2桁台だったことは、これら4社がAIとクラウドコンピューティングに巨額の投資をしていることと無関係ではない。アップルが2桁台の成長ペースを取り戻せば、その時価総額は現在の約 2兆8000億ドルから4兆~5兆ドルへ大きく増える可能性がある。
その支援材料の登場が近づいているのは確かだ。5月7日には新型iPadを発売し、6月10日のWWDCでAI戦略を発表する。さらに今秋にはiPhone 16を発売する。だが、残念ながら、売上高成長がいつになればより持続的になるのかは不透明なままだ。
原文:By Eric J. Savitz
(Source: Dow Jones)
翻訳:エグゼトラスト株式会社
この記事は「バロンズ・ダイジェスト」で公開されている無料記事を転載したものです。