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壁に貼られたバナナと、暗号資産で稼ぐソフトウエア企業の高値更新A Banana on a Wall And MicroStrategy Soars. What Can Go Wrong?ストラテジストは市場の過熱ぶりに警鐘

バナナを銀色のダクトテープで壁に貼り付けたアート作品が先週、620万ドルで落札されたことが話題になった。買い手は暗号資産(仮想通貨)のオペレーターで、ビットコインが10万ドルの大台に迫る中、大金が転がり込んでいると考えて間違いないだろう。

これが非合理的な熱狂の極みであるなら、ソフトウエア会社でビットコインの大口保有者でもあるマイクロストラテジー<MSTR>は再びそれを最大限に利用した。名目上はソフトウエア企業だが、ビットコインを着実に蓄積してきたことが名声と富の主な源であり、株価は2年強で16倍に上昇した。マイクロストラテジーはその株式を元手にさらにビットコインを購入しているが、そこで巧妙な金融工学を駆使している。

マイクロストラテジーは先週、利回り0%の5年物転換社債30億ドルを発行した。転換価格は672ドルと、価格決定当時の株価を約55%上回っている。これを分解すると、マイクロストラテジーは価格の高い(つまり利回りの低い)債券を売り、それに高値の普通株式を買うための高値のコールオプションを付与し、得られた資金をビットコインに投資し、そのモメンタムを受けてビットコインの価格は上昇し続ける。お見事な手法だ。

それに比べれば、予想株価予想収益率(PER)が22倍のS&P500指数は法外な高さには見えない。BCAリサーチでチーフ・ストラテジストを務めるピーター・ベレジン氏によると、このPERは2015~2019年の平均を31%上回る。なお、当時の10年物米国債利回りは概ね2~3%台であり、現在のベンチマーク利回り4.4%と比較してリスク資産にとってのハードルははるかに低かった。


Courtesy Sotheby's

過去の株価急落前と重なる市場環境

ソシエテ・ジェネラルのアルバート・エドワーズ氏によると、現在のようなPERが高い環境では、利回りの急上昇は問題を引き起こす可能性がある。エドワーズ氏は顧客向けリポートで(自身が恒常的な弱気派であることを認めつつ)、「これは伸びきった輪ゴムがついに切れるようなケースで、1987年の株式暴落が良い例だ」と書いている。当時、30年物米国債の利回りが10%に達し、それが1987年10月19日のブラックマンデーと呼ばれるダウ工業株30種平均(NYダウ)の1日で22.6%という暴落につながった。

エドワーズ氏は、2018年にも株価は当初、債券利回りの上昇をはねのけていたと指摘する。当時、PERは債券利回りの上昇にもかかわらず上昇を続けたが、やがて限界を迎えた。S&P500指数は2018年12月24日に急落し、弱気相場と認定される直近の高値からの20%下落にあと一歩のところまで迫った。

エドワーズ氏は「高い企業利益は高いPERを正当化すると言われているが、期待値は今や1株当たり利益(EPS)の現実のはるか先を行っている。しかし、私がこの業界にいた42年間で目撃したあらゆるバブル現象と同様、投資家の過熱ぶりを説明づける一見もっともらしく説得力のあるストーリーが常に存在する」と述べる。

そのストーリーを提供するのが人工知能(AI)の可能性だ。特に米半導体大手のエヌビディア<NVDA>は、世界で最も価値の高い企業となり、英国株式市場全体の価値を上回っている。

第2次トランプ政権に向けた期待と警戒感

米大統領選挙後、多くの市場ストラテジストが 「トランプ・プット 」に言及するようになった。1期目のトランプ政権は、株式市場のパフォーマンスを成功の指標として喧伝した。強気派は次期政権の政策によって株価上昇が続くことを期待している(バイデン大統領の場合、国民が株価よりも食料品や家賃の高騰に注目する中、市場の最高値更新を宣伝しなかったと思われる)。

マッコーリーでグローバル・ストラテジストを務めるビクター・シュベツ氏とカイル・リュウ氏は、顧客向けリポートで「資本市場は間違いなく、破壊的あるいは不合理な政策に対する最強のガードレールだ。リスクプレミアや住宅ローン金利が大幅に上昇したり、米国株が大幅に下落したりすれば、米政権は急いで退却する可能性が高い。移民を巡るロビイングの力や商業・企業利益についても同様である」と書いている。

ソシエテ・ジェネラルのエドワーズ氏は、バリュエーションが上昇している理由として、豊富な流動性を指摘している。これは株式に限らずクレジットにも言えることで、スプレッド(リスクフリーの国債に対して社債に上乗せされる利回り)は過去最低水準にあるし、暗号資産や壁に貼られた果物のような「アート」に高値が付くのもその兆候だ。

BCAのベレジン氏によると、BCAの顧客はこのトレンドが自分たちの味方だと主張している。シティグループの元最高経営責任者(CEO)チャック・プリンス氏が、「音楽が流れている限り、立ち上がって踊るしかない」と言ったのは、金融危機が起こる直前の2007年のことだった。べレジン氏は、「その後どうなったかは言うまでもない」と言う。

原文:By Randall W. Forsyth
(Source: Dow Jones)
翻訳:エグゼトラスト株式会社

この記事は「バロンズ・ダイジェスト」で公開されている無料記事を転載したものです。