ハミングバードクラブ
まだ寒さが残る春のある晴れた日。
まだ冬の気配が残る春のある晴れた日。
わたしたちはようやく遺跡を見つけた。
ぼくたちはようやく遺跡を見つけた。
遺跡に気がついたのはアキだった。
遺跡に気がついたのはぼくだった。それはあまりにも原型がなかったから、ぼくたちはそれを『遺跡』と呼ぶことにした。
『遺跡』と名付けたのはわたしだった。だってそれはあまりにも原型がなかったから。
遺跡と名付けたのはマキだった。
わたしたちの前にあったのは、そこにあるはずだったものの幽霊だった。
ぼくたちの前にあったのは、かつては納屋だったものの残骸だった。
納屋だったものの石の土台が背の高い草に埋もれていた。草が揺れたのは風かもしれないし、小動物かもしれない。
納屋だったものの石段だったものが雑草のあいだから少し顔を出していた。石段のその先はどこにもなかった。
「愛してるよ」とアキはわたしに言った。
「愛してるよ」とぼくはマキに言った。
遺跡にはなにもなかった。
遺跡にはなにもなかった。遺跡そのものも含めて。
アキは、そのとき遺跡にいた二人を『ハミングバードクラブ』と呼んだ。
ぼくは、そのとき遺跡にいたぼくたちを『ハミングバードクラブ』と呼ぶことにした。
それがどういう意味なのかはアキにしかわからない。
それがどういう意味なのかはぼくにもわからない。
アキにもわからないのかもしれない。だってアキはときどきおかしなことを言うから。「納屋を見に行こう」とか。
意味なんてない。だってぼくはときどきおかしなことを言うから。「納屋を見に行こう」とか。「愛してる」とか。
「ようこそハミングバードクラブへ」
「なにそれ?」
「アキが言ったんだよ」
「ぼくはマキに愛してるって言ったんだよ」
アキはわたしを愛していた。
ぼくはマキを愛していた。
わたしは、アキを————
マキは、ぼくを————
愛しているかもしれない。
愛してくれればいいのに。