おじいちゃんの掌
「そのお弁当袋、かわいいね」
職場の先輩に言われて、
「おじいちゃんが作ってくれたんです!」
と答える私。
「え!おばあちゃんじゃなくて?!
おじいちゃんが裁縫するの?!」と
毎回驚かれるが、
私のおじいちゃんはモノづくりが得意だ。
自分の身の回りのモノや生活を思い返すと、
おじいちゃんの手作りに囲まれて過ごしていることに気がつく。
みんなが集まれる場をつくりたい、おじいちゃんの想いから生まれた「焼肉まっちゃん」
入口には、「まっちゃん」と書いてある赤い提灯、中に入ると壁には「完全予約制」と書いてある木彫りのプレート、真ん中の七輪を囲むように、コの字型に椅子が並べられているこの場所は、おじいちゃんの手作り焼肉小屋だ。
焼肉まっちゃんでは、家族や親せき、仲のいいご近所さんも呼んで、みんなで焼肉を食べる「焼肉会」は我が家の恒例行事となった。
焼肉まっちゃんの料理も最高で、庭の畑で育てた採れたての野菜を炭火で焼くと野菜の甘みが増して最高だし、おばあちゃんの握ったまんまる塩むすびは、あっという間に完売。
ちょうどいいしょっぱさで、焼いて食べたり、あまった焼肉のタレで食べたり、誰が1番おいしく食べれるかおにぎり選手権をやったり、好きな食べ方で、みんな楽しんだ。(そのまんまが一番おいしい)
「みんなで集まれる場を作りたい。みんなに喜んでもらいたい。」
焼肉小屋をつくった想いを教えてもらった。
完全予約制の木彫りプレートや、
まっちゃんの提灯、焼肉屋さんごっこをしてるようなユニークなアイデアは、みんなが楽しんでくれるようにというじいちゃんの想いを形として表していると感じた。
私が生まれる前には既につくられていた焼肉小屋は、じいちゃんのみんなとの思い出をつくりたいという想いでつくられていて、
実際にその想いが叶っている場になっていることを知ってから、焼肉まっちゃんで食べる焼肉は、みんなと過ごすその時間をかみしめるから、高級焼肉よりもおいしくて、幸せな気持ちになる。
いつも見守って助けてくれる「フクロウのお守り」
看護師、保健師の国家試験と
就職試験を控えていた大学4年生の夏
おじいちゃんから手紙が届いた。
封筒には手紙とおじいちゃんの手作りフクロウの木彫りが入っていた。
ふたつに折られた便箋を開くと、「受験のお守りをお願いされましたが、今時間が少なく、乾燥しませんので昨年作ったフクロウを送りますので、これはじいちゃんが一番気に入っているフクロウですので、しのを守ってくれると信じています。」と書いてあった。
手紙を読み、フクロウを手にとる。
小さいころに見た、モノづくりをしているときの、黙々と作業に取り組むじいちゃんの後ろ姿を思い出し、胸がぐっと熱くなった。国家試験のときはポケットに入れて、きっと大丈夫、と何度も唱えた。社会人になってからも、初めてのプレゼンや教育の講師をするときも。
無事に成功させたいと祈るときはいつだって、おじいちゃんのフクロウをお守りに持ち歩いていた。緊張や不安な気持ちのとき、フクロウを手で握りしめて大丈夫とつぶやくおまじない。小さなフクロウに込められた大きな愛に、何度も何度も勇気付けられた。
たなごころで伝える想い
人の手でつくられたものには、
強く惹きつけられる何かがある。
手作りのごはんや、手書きのお手紙だってそう。どうして手作りのものは、こんなにも嬉しいんだろう。想いが伝わってくるんだろう。
手作りでモノをたくさんつくってきた、おじいちゃんに話を聞いてみた。
「たなごころ、という言葉があるように、手は心を伝えるものだ。込められた想いがカタチとして現されているから相手に伝わって喜んでもらえるんじゃないかな。」と話をしてくれた。
「たなごころ」について調べてみたら
「たなごころ」とは「てのひら」のこと。
手の心(てのこころ)の読み方が変化した
言葉が「たなごころ」
手の中心の意。漢字で書くと「掌」。
掌で握る米、掌で握るペンで書く手紙、
掌で握る彫刻刀でつくる木彫り
掌から心が伝わっているんだなと思った。
つくることで気づく、込められた想い
昨年の夏、おじいちゃんに木彫りを一緒にやりたいとお願いした。
おじいちゃんとの時間を大切にしたい想いと、その想いをつなぎたいという気持ちから。
木彫りの木を、選ぶところから教わり、木の硬さや太さ、どれにしようか悩んだ。
おじいちゃんが木彫りのときに使う木材は、針葉樹という分類で、寒いと硬く、暖かいとやわらかい。だから、木がやわらかい時期に木彫りをするほうが、怪我もしにくいよ。そんな話を聞いて、折れた木の枝も生き物なんだ!とワクワクした。
木の皮のザラザラ感、匂いをかぐことで感じる落ち着く木の香り、蚊取り線香のにおい、遠くから聞こえる近所の子どもの遊ぶ声が、心地よかった。
すいすい簡単にやってるように見えたのに、木の皮を削るのは思っていたよりもずっと難しくて、指をナイフで切っちゃうんじゃないかと少し怖かった。たまにやわらかいところがあって、硬いところと同じ力加減では削りすぎてしまう。力加減を調整しながら慎重に削っていった。集中して気づいたらあっという間に4時間くらいたっていた。
ただのまっすぐな木だったはずが、すこしずつ削っていくうちにフクロウの形になり、木の中に自分の想いが刷り込まれているような感覚だった。
今までたくさんの愛情を注いでくれた感謝の気持ちや、まだまだ元気でいてほしい願い、これからも一緒に楽しいことをしたいという希望、喜んだ顔がみたい、おじいちゃんへの想いをフクロウに込めた。
最後にマジックペンで目をかきこむときは、
その木に新しい命をふきこむような気持ちになり、嬉しいような緊張するような今まで感じたことのない気持ちだった。
おじいちゃんがつくった、明るいオレンジ色のかわいいコロンとしたフクロウ。
私がつくった浅黒くて、
バランスの悪いフクロウ。
完成した2つを見比べたらあまりの差に、おじいちゃんとおばあちゃんと3人一緒に笑って和んだ。
「しのにお守りでフクロウを作ったとき、こんな大したものじゃないと思ってたのに、大事に持ち歩いてくれて、受験の時も、会社のプレゼンのときもお守りとして持ち歩いてる話を聞いて、嬉しかった。そんなに喜んでくれる、力になれるなら、つくって応援しようと思ったからだよ。喜んでもらえるのが嬉しくて、喜んだ顔が見たくてつくってるよ。」
喜んだ顔が見たい、私も同じ気持ちでフクロウをつくっていたことに感動した。
知らなかったおじいちゃんの想いを聞きながら、黙々と2人でつくった時間はかけがえのない想いがいっぱいつまったフクロウになった。
おじいちゃんのずっと描いていた夢
今年の7月15日、おじいちゃんの74歳の誕生日。おじいちゃんに電話をして、ふとおじいちゃんの夢について聞いてみた。
「生まれた育った以上、自分の力で、家族を持って楽しい人生を送ること。」
おじいちゃんの夢、叶ってるよ。楽しい人生の一部に、同じ家族として過ごせたことがとっても幸せだよ。
誰かを想う気持ちの温かさを、教えてくれてありがとう。
守り神の象徴のフクロウは、おじいちゃんが家族を守りたいという優しい愛情をカタチで表したものだったんだなと思ったよ。
これからもずっと大切にしていくね、
いつもありがとう。
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