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焼肉小屋で育てた遊び心
北海道の祖父母の家は、実家から歩いて1〜2分。
小学校に入学する頃、住んでいたマンションから祖父母の家の近くに家を買い引っ越してきた。
両親は共働きのため夜が遅いこともあり、学校が終わると児童会館へ行くか、まっすぐ祖父母の家に帰り夕食を食べお風呂も入って寝る支度をする生活を送っていた。
家族で焼肉を食べるときは、独自の風習があった。
「完全予約制の焼肉小屋に集合」だ。
祖父が炭で火を起こし、みんなで食べる席の準備をする。お肉や海鮮は各家族が用意する。
祖母が塩むすびを1人2個は食べれるように、炊きたてほかほかの状態で握って用意してくれる。
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あつあつが食べたくて、つまみ食いように小さいサイズもこっそり握ってもらう。
冬は雪が積もっているので焼肉小屋は休業。
夏〜秋にかけて焼肉小屋はオープンする。
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家族みんなで集まり、網を囲みながら
あーだこーだいいながらお腹いっぱいに食べる時間がとても幸せだ。
2023年9月。今年で祖母は77歳。
喜寿のお祝いをするために
今年は3家族全員集まれるようにと母からお願いされた。
祖母にお祝いの食事のリクエストについて聞いた。
「外へは行かずにゆっくりと、みんなで焼肉小屋に集まりたい」
物心がついた頃から焼肉小屋で親戚一同集まるのは定番だった。
大人になり、この小屋がどうやって出来たのか気になり祖父母に聞いてみた。
焼肉小屋は今から25年前に祖父が自分で建てた。
大工の一家に三男として生まれた祖父は、大工仕事をよく手伝って手先が器用だ。
手芸も得意で給食袋や鍵盤ハーモニカの袋、ブックカバーやお弁当袋など何でも手作りでつくってくれた。
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木彫りのフクロウをつくるのも得意だ。
焼肉小屋は祖母が友人と庭でBBQをしたときに
毛虫が落ちてきたのが嫌だったことと、
藤の花をみんなで見たいという願いを叶えるために祖父がつくったという。
そこから焼肉小屋には親戚や友人が集まるようになった。
昔の記憶を思い出すと、運動会の終わったあとに家族や親戚一同が、焼肉小屋に集合し打ち上げをした楽しい思い出がある。
焼肉小屋ができたとき、娘からのプレゼントとして母が「焼肉まっちゃん」と書かれた赤提灯をプレゼントした。
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すると祖父は木彫りで看板を3つ、つくった。
「完全予約制」「準備中」「営業中」
家族・親戚しか使わないのに「完全予約制」。
夜になったら赤提灯を点灯し営業のサイン。
家族全員で自分たちの焼肉小屋を楽しむ遊び心がいいなと思った。
祖父は空間で遊ぶのが上手だ。
今回の帰省中にも、なにやら作業していた。
机を組み立てて、カセットテープを置いていた。
なにをしているのか聞くと、『別荘をつくるんだ』とニカッと笑う。
週1回町内会のメンバーでカラオケの練習をしている。その場で歌えるように、カラオケ練習部屋のようだ。
祖父の遊び心に乗っかろうと、
新聞紙で文字を切って看板をプレゼントした。
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いろんな広告の記事を切り貼りしてるので
祖父母は面白がってくれた。
祖母は料理が上手で、家族全員が祖母の手料理が大好きだ。
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母と叔母、私と妹と甥っ子の5人分、各世代の学生時代にお弁当をつくってくれている。「弁当を作り続けて50年の人生。つくる喜び、食べてもらう喜び。」と話していた。
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喜寿のお祝いでは、塩むすび以外に、石焼きミートスパゲティを網に乗せてつくってくれた。みんな大喜びだった。
みんな成人し、昔より集まる機会が難しかったが
祖母の喜寿のお祝いで久々に家族全員が集まることができた。
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焼肉小屋から部屋の中に戻り、それぞれ祖母にプレゼントを渡した。とても嬉しそうだった。
中秋の名月。
東京の空は曇りで思ったように月が見えなかった。
帰り道、改札を出ると、祖父母からLINEが届いた。
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別荘と呼ぶあの部屋から、
2人でお月見を楽しんでいると思うと笑みが溢れた。
別荘から見える月を、東京からも一緒に楽しもうと
コンビニへ団子を買いに向かった。
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