走性はどのように達成できるか?
動くエージェントはどのようにしたら走性を達成できるか?
つまり、どのようにしたら行きたい場所に行けるのか?
走性は生物が生きていく上でかなり適応的な要素であることは間違いない。
まず、環境中で走性を引き起こす手掛かりとなる物質や波の勾配をエージェント内において感知できるかで場合分けできる。
エージェント内で勾配を感知できる場合、勾配を上る方向に動けば物質の濃度の高い領域に到達できるため、「真の」走性を達成できる。
エージェント内で勾配を感知できない場合、どちらの方向が物質濃度が高いかを特定の領域の特定の時点で判断することができないため、自身が動くことで生じる物質濃度変化を利用し、走性を行うこととなる。
エージェントが多細胞生物など一定の大きさがあり複数の感覚細胞を持つ場合、一般に「真の」走性が可能になる。
例えば、ヒトは左右の耳に入る情報の違いから音刺激がどこから来ているのかを推定することができ、これは音源定位として知られている。
エージェントが単細胞生物などで小さく、濃度の感知を一点でしかできない場合、一般に動きにより生じる濃度変化の情報を用いた走性を行うこととなる。
例えば、大腸菌の化学走性機構としてはbiased random walkがよく知られており、これは大腸菌はランダムに方向転換と前進を繰り返すが、負の濃度変化を感じた時に方向転換確率を上げることで、結果的に濃度勾配の高い方向へ向かう可能性が高まる。
しかし、「真の」走性を達成できるかを決めるのは勾配を感知できるかどうかであるため、多細胞生物であっても濃度の感知が1点でしかできない場合、走性に自身の動きで得た濃度変化の情報を使う必要がある。
例えば、多細胞生物である線虫は塩濃度の勾配を上る化学走性を示すが、基本的に頭部の感覚繊毛がある一点でしか塩濃度を感知できないため、「真の」塩走性を達成することができない。
線虫はpirouette mechanismとweathervane mechanismという2つの機構を用いて塩走性を行うことが知られており、pirouette mechanismではbiased random walkのように塩濃度が下がる方向に進むときにピルエットを行う確率が上がる。
weathervane mechanismでは振動して動く際に濃度勾配を計算して濃度の高い方向へターンしていく。
これらは、それぞれ異なる神経回路機構を用いて実装されていることが示唆されている。