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亀の子ちゃん   

一時期、友人2人から、私は亀の子ちゃんと呼ばれていた。
その友人達とは、会員制のホテルのスパに誘いあって行く間柄だ。
つまり、裸の付き合いと言う事になる。

 30歳くらいだった頃からの気の置けないママ友だ。
1人はスレンダーで肌は浅黒く、キュートでお洒落なA子。
爪のケアは無論、アンダーヘアのお手入れにも余念がない。
V字型の永久脱毛を寸分の狂いなく見事に施していた。
最初見た時、その斬新なデザインに目が点になった。

 B子は大柄だが贅肉が無く均整がとれている。
永久脱毛はしてなかったが、アンダーヘアのカットは自分でしていると言っていた。
自然な感じで好感が持てた。

 私は、その類へのお手入れには無頓着で生まれてこの方、一度も自分でハサミを入れた事もなかった。
下着からはみ出す毛があっても、その方がセクシーだと真剣に思っていた。

 ここ5~6年、疎遠にしていた友人のC子と最近仲良くランチを共にしている。
そのC子に、25歳の頃の初々しいフルヌードの写真を見せたら腹を抱えてゲラゲラ笑い出し、私のアンダーヘアの多さに驚きの声を上げたのだ。
こういう場合、憤慨してもいいのかも知れないが
私はどんなに笑われても、ちっとも嫌な気分にはならなかった。
C子に馬鹿にされた風にも感じなかった。
元来、根が優しいC子は私を侮辱するような人間では無いからだ。
単純に自分の下の毛が猫っ毛で薄いので、私の剛毛かつ、多毛な陰部に度肝を抜かれ、一過性のショック状態に陥入り1分ほど笑いが止まらない状態になっただけだった。

 私は紛れもなく髪の毛も陰毛も多毛剛毛だが、自分の生まれながらのナチュラルヘアに、これっぽっちの僻(ひが)みも無ければ、恥ずかしさなんか微塵もなかった。
C子とは、今までA子やB子の様な裸の付き合いはした事が無かった。
ショック状態から脱するまでに時間がかかったとしても無理はない。

 その友人C子は、悪気など無く知的で正直だ。
私の下の毛の多さに、つい大笑いしてしまった後、素に戻ったC子は何と無くバツが悪いと感じたのか?
ひと息ついた後、彼女なりの労(ねぎら)いの言葉を放った。

「立派で、健康そうな毛をしているわね!」
「私の毛は猫っ毛でちょっとしか生えてないのよぉ〜」

 C子は、私から送られたフルヌードの写メを老眼鏡を再度掛け直し、下の毛をズームアップして見つめながら言った。
彼女の顔はまだニヤけていたが、携帯をPRADAのバックに戻し、冷静を装い私の方を向いた。
その「立派な」「健康そうな」と言う褒め言葉はC子らしいし、その品性を重視した着眼点は5段階評価の4に値すると感心した。

 今まで性的交渉をしてきた異性から、私の陰部の毛の多さや硬さを指摘された事は幸いにも無かった。
そのおかげでか?
コンプレックスを感じることが無かったのかも知れない。

「しかし、もしも!」
「もしもだ」

 大好きで仕方ない男性が私の剛毛多毛に不快感を持ち、性的興奮の障害になったことが過去に1回でもあれば、私の陰毛ナチュラルポリシーは砂上の楼閣の如く無惨にも砕け散った可能性は無きにしも非(あら)ずだ。

「あっ!」

 そう言えば、結婚を考えた男性から20歳の時「パ○パンにしてくれ!」
と、頼まれた事があった。
その男性曰く、ペニスが私の剛毛に絡まり毛切れをしてしまったらしい。
それは、彼なりの都合の良い言い訳だとなんとなく感じたが、彼の切なる願いを承(うけたまわ)った経験が一度だけあった。

 陰毛がまだ生えていない少女への憧れをひた隠し、彼は毛切れをこれ幸いにして初潮を迎えてもない少女を彷彿するパ○パンの姿を渇望し、私に潤んだ瞳で跪(ひざまず)いて請うたのだ。
割れ目がクッキリ見える状態で性交をしたかったのだと、かなり後になって気づいた。
ロリータコンプレックスという性癖を持つ男性陣が、かなりの確率で存在することを、彼と別れて、2、3年程経って雑誌で知った。

 経験も浅く、そんな要望をされたのは初めてだった私は、好きな男性からの欲求に応えたかったのも無論あったが、ツルツルにしてやったらどんな感触なのか?
結構、興味があったので敢えて断らなかった。
その18歳も年上だった彼に陰部の毛をおおよそ90パーセント、カミソリで剃毛された。
その直後に性交した時、彼は異様に興奮していたのを覚えている。
しかし、1週間も経たない内に剃毛した場所から芝生の新芽が発芽するように毛が生え始めてきた。
そしたら、思いがけない事態に襲われたのだ。
なんと!
猛烈な痒みに悩まされる事となった。
夜眠る際も、朝起きても、昼、友人とランチしていても痒くて、痒くて堪(たまら)なくなった。
掻きすぎて赤く腫れ、血が滲んでしまった。

「2度とアソコを剃る事はしません」
と、その時、私は胸に十字を切り誓った。

 彼にも、その事を告げたら理解してくれた。
ホッとひと安心をした。
「まだ、パ○パンがいい」などと、頼まれでもしたら「堪ったもんじゃ〜無かった」からだ。
正直、再度頼まれたら別れていたと思う。
結局、その事が原因では無かったが2年でその年上の男性とは別れた。

 A子とB子は、C子とは違った。
付き合い方も濃厚で、C子との友人期間に比べA子やB子が、実質長かった。
言いたいことを何でも言い合える仲で、遠慮などお互いしなかった。
その2人と誰もいないサウナに入った時、辛辣にB子が私に言い放った。

「アンタ、少しは下の毛の手入れぐらいしたら?」
「ボーボーじゃん」
「亀の子タワシみたいよ!」とニヤニヤしながら、強烈なひと言。

A子もその発言に頷き、トドメの一言を私に放った。

「亀の子タワシ!」
「まさにその通り」
「ホンマやわぁ〜」

 手を2回も打ち、私のアンダーヘアを見ながらA子独特の笑い方「クックック」と、奄美大島か何処か、南方の孤島にでも生息する貴重な鳥の鳴き声みたいな変わった笑い声を出した。

 そんな2人の嘲笑や皮肉めいた例え方を聞いても、私は別段、何にも感じなかった。
一緒になって笑っていた。
確かに、ボーボーだし手入れなどしていない。
亀の子タワシだと言われても致し方ない。
俯瞰して自分のアソコをジッと見つめたら、彼女たちの表現は的を得ていたし絶妙にユニークだと思えた。

「彼女達は間違っていない」

 寧ろ、彼女達也のエチケット、嗜み?
に私が反しているのだから、そのくらい辛辣な発言をするのは当然の権利のように思えた。
それと、彼女達也の優しさだとも受け取れた。

「何故なら、友人である私が周りのスパに来る方々から影で笑われるのを心配してくれたのではないか?」

その様にも受け取れたからだ。

 だからと言って、私はアンダーヘアをX型や星型にしたりする気にはならなかった。
私には私のポリシーがあったのだ。
と、いうのも一つ大きな、非常に大きなそのポリシーを支えてくれる存在があったからだ。

 それは、結婚10年目を迎える主人だ。
何を隠そう!
私が25歳
彼が65歳
大正9年生まれと、昭和35年生まれである。
彼は、結婚3回目。
私は、初婚だった。
5年の恋愛期間を経て、私たちは結婚した。
現在、私は35歳
主人は75歳

 主人は女性のアソコの毛や脇毛など、全く気にしない時代に生まれ、青春を健やかに過ごしてきた人間だった。
その背景から、私が大正時代の女性達同様、ナチュラルであることを彼は抵抗など持つ筈がなく、寧ろ懐かしみ喜んでいたのだった。

 私が爪を伸ばしたことは、過去に1回だけあった。
その時、主人はその可愛らしい爪を見ても褒めもせず攻めもせず何ら関心を寄せなかった。
何ヶ月間か、爪のお手入れをしてみたが、やはり生活していく上で不自由さが鼻につきやめた。
深爪が私には性に合っていた。
そんなこんなの理由から、結局、ズボラな私は時代遅れの女のまま、アソコも脇も、爪の手入れなど、する必要などなかった訳だ。

 強いて、本音を暴露するならばチン毛がどんなんだろうが構わないと思っている。
脇毛が無かろうが雑草の様だろうが、それも自由にすればいい。
その人それぞれの色気の尺度に沿って生きればいいのだ。

 外見を重視するのが悪いと言っている訳では無い。
多分、大方の人々は多毛剛毛より、柔らかな毛質や程よく靡(なび)く陰毛に憧れを抱くだろう。
そのくらいは私も理解出来る。
しかし、生まれ持った毛質だけに限らず、スタイルにしろ顔の造作にしろ自分にしか無い個性として自信を持って堂々と生きていたい。

 自分に合った美意識をチョイスしながら、コンプレックス無く生きる事も、それは、それで素晴らしいと思う。

「男心を唆(そそ)る本当の色気とは?」
「愛する男に、私の何処に惚れて貰いたいのか?」
「自分が求める美しさとは?」

 私の場合、その手入れも何もされていないボーボーな陰部の毛や、ボーボーな脇毛、デコレーションしていない深爪にこそ、その謎を解く鍵が隠されている気がする。

「秘部であるからこそ、リアリズムを求めるのではないか?」
「愛する男にしか見せない部分であるが故、素の姿を曝け出してもらいたいのではなかろうか」

 私が男だとしたら、やはり、そのリアリティにゾクゾク感じまくってしまうと思う。

「惚れた女性のありのままの姿を、男達は結局求めるのでは無かろうか?」
色々悩んではみたが、結局、その考えに行き着いてしまう。

あれほど一世を風靡したテレビが、今や衰退しつつある。

 最近YouTubeがテレビを凌駕し始めている。
それは、素人臭さや素朴さや真実を皆んなが求め始めている証拠ではないだろうか?

 人間の欲求や既成概念は時代と共に変わる。
もしかしたら、真実にも飽きる時代が訪れるやも知れないが、一寸先の未来なんか誰も予測なんかできゃしない。

 サウナに、月に何回も一緒に行く仲間達、A子やB子は私に陰毛の話を、最近しなくなった。
しかし、アルコールが入るとA子やB子はおちゃらけて"あのユニークな言葉"  を時として発する。
酔っ払って気分良くカラオケを歌っている私に向かって親しみを込めて声を張り上げる。

「いいぞ!」
「ヨッ!」
「その調子!」
「亀の子ちゃん!」

私は、こんな風に親しみを込めて呼んでくれる友人達が大好きだ。



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