アークナイツ二次創作【ミヅキサイドストーリー】まとめ④
イーサンとミヅキの初任務……、とは言っても大したことはない。龍門でペンギン急便のメンバーと品物を交換するだけの簡単なものだ。
ちらほらと見かける復旧の進んでいない街並み。疲れ切った者や目を輝かせている者、労働者を扇動する者たち。
「――――一応、龍門はなんとかなってるみたいだなー」
ホテルへと向かう道中、イーサンが手遊びをしながらミヅキへと呟いた。
「そうみたいだね。でも、龍門の出来事から半年くらい経つのに、まだ完全には戻らないんだね……」
「仕方ねぇさ。ドクターやリーダー、他のオペレーターたちが総出でようやく片付いたような件だからよー」
レユニオン…………。
ファウストにメフィスト、フロストノヴァ、タルラ……。
多くの者を、誰しもが失った。
多くの物を、誰しもが失った。
それぞれの意思が、想いが、幾重にも重なり、龍門最大とも言える出来事が起きてから、すでに半年ほどが経過している……。
「死んだってなんにもならねーのによ、なんでそこまで頑張るかねー」
「そうだね……。あぁ、僕も手伝えたら良かったんだけどな。そうしたらドクターももっと……」
「ん? ドクターがどうかしたか?」
「ううん、なんでもないよ」
笑顔で返事をするミヅキに対して、イーサンは横目にミヅキの顔を見つめた。
純白のような微笑み、そこに何か含みがありそうな……。
「…………そうか。――――――ほら、ここが待機するホテルらしいぜ」
「ここで待機? ロドスの施設の方が綺麗だね」
「まぁ、少し休憩するには丁度いいくたびれ具合じゃないか?」
「そう言われてみるとそうかもね」
「おう。さぁー、時間までのんびりしようぜー」
イーサンは特にミヅキの内情を探ることはしなかった。
誰にでも個人の事情というものがある。
レユニオンからロドスに移ったイーサンはどちらのメンバーも見てきた。だからこそ、ミヅキの時折り見られる異質な雰囲気を感じ取り、傍観することに徹しているのかもしれない。
――――――時刻16:30。 イーサンとミヅキは近くのホテルの一室で待機していた。 ペンギン急便との受け取りは19:00。待ち合わせの場所までの時間を考えても余裕がある。 ベッドに寝ころぶイーサンと、部屋の隅々を念入りに見回すミヅキ。
「なにかあったかー?」「うーん、どうだろう? 怪しいものは特にないかな」 一通り見たあと、特になにも無かったらしく、ミヅキはもう一つのベッドへと腰を下ろした。
「はぁ~……念のために早めに来たけどよ、時間まで暇だよなー」「うん、思ったより早く着いちゃったもんね。それに汗かいちゃったな……」「そうなんだよなー、なんかやる、こ……と――――――っておい!」「うん? なに?」
イーサンが慌てた様子でミヅキの動きを止めようと声をあげる。 ミヅキはすでに上着を脱いでおり、両手を交差させて服の裾を掴んでいた。 色白で細く、か弱そうな胴体、腹部がイーサンの目に映る。「な……な……!」「どうしたの?」 中性的な顔、華奢な身体つきには、「同性である」とは言い難いものがあり……。
「『なに?』じゃねぇ! こんな所で脱ぎ始めるなよ!」「……? 男同士だから別にいいでしょ? それに、シャワーを浴びたいんだ」「うっ…………まぁ、男同士だしシャワー浴びたいならいいけどよ……あっちで着替えりゃいいだろ……」「よいしょっ……っしょ……」 ミヅキがイーサンを気にせずに脱ぎ続け、イーサンはたまらずミヅキが居る方向とは逆側に寝返りをうった。
かさかさ……ごそごそ……。 脱ぎ終えたミヅキは丁寧に衣服をたたんでベッドの上に置いていく。「イーサンも汗かいてない? シャワー浴びなくていいの?」「俺は大丈夫だ……ってか、俺のことは気にしないでくれ……(そして、お前はもうちょっと気にしてくれ……)」「うん? よく分かんないけど、んじゃ、シャワー浴びてくるね」 ――――ガチャ。「はぁぁ……あれで男かよ……生き物ってのは不思議だわ……」「――――――ふんふふーん♪」 部屋に設置されている風呂場からはミヅキのハミングが聞こえてくる。 視界の制限がなくなったため、イーサンは仰向けになり天井を見上げた。「………………」 あの見た目で男……。男なんだよな……? ロドスの医療メンバーにも中性的な奴が居るし……。「……容姿端麗に美男美女。その上、差別されている鉱石病患者たちを救ってるとか……ロドスはヒーローにでもなるつもりかねぇ……」 ――――ま、俺は美味い飯が食えるならなんでもいいんだけどよ。「ん、ロドス……ロドス…………あ」 イーサンが思い出したかのように口を開けて固まる。「ドクターからのメモ見てなかったぜ。どれどれ……」 暇つぶしの玩具を見つけたかのように、ポケットに手を入れてメモを取り出す。「えーっと、なになに……」 イーサンは開いたメモに書かれた文字を目で追っていく。
[――――イーサンへ、龍門はあの一件から半年ほどが経過している。なにが起こるかは誰にも想像がつかない。不慮の災難に見舞われた場合は、できる限りミヅキの能力を使用せずに対処してほしい。何かあればホシグマ、近衛局を頼ってくれ] 不慮の災難時、ミヅキの能力の使用を制限……何かあれば鬼の姉御に……ねぇ……。「そこまで言われると逆に気になるじゃねぇか」 イーサンが立ち上がり、ミヅキが置いていった衣服の前に移動する。「俺の感じた違和感は間違ってなかったってことでいいんだよな……」
部屋にはシャワーの流れる音だけが微かに響いている。 今、イーサンはどういった人物と一緒に過ごしているのかを考えていた。「…………つっても、ロドスなんて変わった奴らの集まりみてぇなもんだし、そこに若いのが増えただけだろ~」
気の抜けた声とともに思考する気持ちを吐き出していく。 これは自分が考えることではない。 この問題はドクターやケルシー、アーミヤが抱えるべきもの。 ――――ただの小物にはちと荷が重すぎる。面倒なことは上の連中に任せるぜ。
「……ってことで、のんびりすっかぁー」
ガチャ。
「ふわぁー、さっぱりしたー」「……」「ん?」
ミヅキは水も滴る良い――――――男だった……。
その言葉の最後の性別は確かに合っていることを、イーサンはその目で知る。
「…………」「イーサンどうしたの?」「おめぇはもうちっと自覚した方がいいぜ……」「うん?」 イーサンの想いも空しく、ミヅキはなにも気にせず目の前で着替えを始めるのだった。
――――ミヅキとイーサンがホテルに到着した頃、龍門近衛局ではケヴィンが近衛局へと辿り着いていた。
……コンコン。
「誰だ」
「ホシグマさん、リューシです。今お時間よろしいでしょうか」
ケヴィンを連れてきた近衛局員が、ホシグマの部屋を訪れていた。
「ああ、話は聞いている。入っていいぞ」
「失礼します」
開かれた扉の向こうには事務室があり、来客用の椅子に机が置かれていた。
ホシグマはその奥にあるデスクに腰掛けている。
「ご苦労だったな、リューシ。それで、話に聞いていた証人はそいつか?」
ケヴィンを見た瞬間、ホシグマが目を細めた。
感染者、少し薄汚れた衣服……どこかで見かけた容姿に、即座に記憶を辿っていく。
「……確か、お前はロドスのイーサンと話をしていたな」
「俺のこと覚えていたのか……?」
「ロドスに関係する人物は念のために確認している。身元も含めてな」
ケヴィンがホシグマから顔をそらす。
「そうか……」
「リューシ、下がっていい。警備に戻ってくれ」
「ですが、まだ彼が危険である可能性が……」
証人とはいえ、近衛局の上長であるホシグマと二人きりにするというのは認められない。
路地裏での一部始終を目の当たりにしている以上は……。
「彼は……危害を加える可能性があります……。自分もこの場に残ります」
「危害ね……」
リューシは戸惑いをホシグマへと伝えるが、ホシグマの表情は特に変わることはなかった。
「問題ない。仮に暴れたとして私が勝てないとでも思っているのか?」
「いえ、そのようなことは……」
「心配せずに戻るといい。ありがとう、リューシ」
「っ……了解しました。無礼をお許しください」
「気にするな。当然の判断だ」
「ハッ!」
ホシグマへと敬礼したリューシがケヴィンと交差する。
「……頑張れよ」
「……?」
すれ違いざまに呟いたリューシの言葉。
リューシはホシグマの態度を見て、ケヴィンが何かを企んでいるという思惑は拭えたようだった。
「おぉ……! またあの路地裏に来てくれればいつでもサイダーをご馳走するぜ」
「フッ……考えておく」
リューシが部屋をあとにする。
「さぁ、どうぞかけてくれ」
「いやいや、椅子が汚れちまうだろ」
「汚れたら掃除すればいいだけさ、あの生活は疲れるだろう」
「はぁ、龍門の局員ってのはキザな奴が多いなぁ……そっちの方が疲れるぜ……」
「まぁ、仕事だからな」
「へっ……じゃありがたく座らせてもらうぜ」
誘導され椅子に座るケヴィン。
ホシグマはゆっくりと足を進める。
ケヴィンと向かい合うようにして椅子に座ると
「では、詳しく聞かせてもらおうか」
と、これまでの経緯を訊ねるのだった。
――――龍門市街。
――――時刻16:45。
崩れた家々の瓦礫が集められた場所には人の姿は見られない。
人を見かけたとしても、彼らは感染者であり、金目の物を探しているだけ……。
そこに一人、ただ立ち尽くす者がいる。周囲には生き残ったレユニオンたちが数名……。
近衛局員から逃げ延びたロストノアの姿がそこにはあった。
「……おい、ロストノア」
「……なんだ」
「”なんだ”じゃねぇ。いつになったら動くんだよ!」
「もう少しだ」
「「「…………」」」
数人のレユニオンが顔を見合わせる。
「いつまで待てばいい?」
「あと少しだ」
「……なぁ、俺たちはもうこれ以上は付き合えないぞ。メフィストやファウスト、それにフロストノ――――んぐっ……!」
一人のレユニオンが「フロストノヴァ」の名前を口にしかけた瞬間、ロストノアは男の首元を鷲掴みに力を込めた。
「やめろ……その名前を言うな……」
「は……離せっ……!」
突き放されたレユニオンの兵士がよろめきながらむせ返る。
「ゴホッゴホッ……なら……ならどうするってんだ! 俺たちにはもう何もないんだぞ! 幹部が消えて残った俺たちはどうしようもないんだ! ロストノア、お前が俺たちを集めたってのに、何がしたいんだ!」
「……分かっている。――――――だから、終幕にするんだ」
言い捨てたロストノアが掴んでいた手を放す。
ロストノアの諦めたような言い方にレユニオンたちは困惑していた。
「っ…………? 終幕ってなんだ?」
「……」
「終幕って……どういう意味なんだよ!」
「そのままの意味だ。レユニオンの残党はこれで終わる。もうこの龍門にレユニオンは存在しなくなる。名実ともに」
ロストノアの紅い瞳が掴んでいた男を見つめる。その眼にはもう夢や希望の光は見られない。ただ、全てを諦めた者の目が、虚ろとして存在しているだけだった。
「お前、俺たちを殺すつもりか!」
「……いや、お前たちは俺のことを近衛局に突き出せばいい。そうすれば多少は生きやすい道が選べるだろう。最後にお前たちからスノーデビル隊の話を聞くことができて良かった」
「「「…………」」」
ロストノアの考えに周囲が沈黙する。
「バカが!」
「――――――ッ!」
先ほどまで掴まれていたレユニオンがロストノアに拳を振りかざす。
「なにを……」
「てめぇな……そうやって全員死んでいったんだ! 最後の最後で放り出して『はい、さよなら』ってか⁉ 舐めるんじゃねぇぞ!!」
「……龍門に居場所を作るなら、こうするのが一番だ。ケヴィンという元レユニオンも、今は龍門の路地裏でサイダーを売っている。仕事なら探せばいくらでも見つかるということだ」
ケヴィンの前で燃え滾っていたロストノアの闘志はすっかり消失していた。
窮地を救ってくれたパトリオットはもう居ない。情を抱いた相手は死に絶えた。
なにも残っていない世界でなにをしろというのか。
……いや、すべき事などなにもない。なにもしない事が全員の平和なのだろう。だが、怨嗟によって高められた意志は捨てられない。捨てようがない。
死ぬまで苦しむのなら、死期はなるべく早い方が楽になれる……。あの時の再現だ……。
「ロストノア、お前はなにがしたいんだよ」
「…………」
「幹部の連中はみんなそうだった。何かを抱えて生きて、俺たちの為に尽力して死んだ……」
「……」
「復讐するってんなら手伝ってやるから言えよ。『俺についてこい』ってよ」
「……これは俺の問題だ。お前たちには――――」
「なら、俺たちの問題でもあるよな」
会話をしていたレユニオンとは別の者が口を挟み、ロストノアが困惑する。
「……?」
「だってよ、このままじゃ死んでいった仲間たちに面目ねぇだろ?」
「だが……」
「ごちゃごちゃうるせぇ! お前が好き勝手するなら俺たちだって好き勝手するってんだ!」
「…………」
ロストノアが一人ひとりの顔を見れば、彼らは無言で肯定の意思を示していく。
もはや彼らにも居場所はない。
生きている意味も、生きていく理由も、先のことを考えることももう必要ない。
死ねなかった過去に自分の身を預けるのみ。
「すまない……」
「謝られても迷惑だ。だろ、みんな?」
「「「おう!!」」」
少ないながらも団結している最中、そよ風とともに、
「――――茶番はもういいか?」
と聞こえた声に全員が振り向く。
フードとマスクにより目元だけしか見えない華奢な人物に、レユニオンたちが少しばかり動揺している。
「お前、まさかクラウンスレイヤーか?」
「…………」
レユニオンの一人が声をかけるが、現れた人物は振り向くこともなくロストノアへと近寄った。
「情報を持ってきた。お前が欲しがっていたロドスの情報だ」
「助かる」
「ここにロドスのメンバーが宿をとっている。ここからもさほど遠くはない。どうやら他の奴らと落ち合うみたいだ」
「そうか……」
息を吸う。
夕刻の少し冷えた空気が肺へと流れ込む。
フロストノヴァ……エレーナの最後に立ち会っていれば、間に合っていれば、俺はこんなにも後悔せずに居られたのだろうか。
いや、考えたところで彼女が戻ってくることはない。
「では……潰すならまとめて潰そうか」
「いや、ロドスを侮ってはいけない。各個撃破が最善策だ。なんなら宿ごと爆破したっていい。奴らの戦力については私が一番知っている」
「彼らはそんなにも強いのか?」
隣に立つクラウンスレイヤーに横目で問いかける。
「見ての通りだ」
龍門の一部は甚大な被害を受け、レユニオンは壊滅。ロドスはと言えば……――――――
「クラウンスレイヤー、君の言う通りにしよう」
「賢明な判断だ」
ロストノアの足が動き出す。
「行こう」
「「「おおおぉ!!!」」」
十人にも満たないレユニオンたちが、ロストノアの声に反応して声を上げる。
死ぬことを奥底で切望する者の歩みを止めるなど、誰が許そうか。
死ぬことを理解している者の歩みを拒むなど、誰が出来ようか。
死に行く様を見送るはクラウンスレイヤーのみ。
「…………さらばだ」
――――――時刻17:55。
ドクターはアーミヤの部屋を訪ねていた。
「今日の作業はなんとか終わりましたね!」
「ああ、いつもありがとう、アーミヤ」
「いえ、これも私の務めですので。あっ、すぐに飲み物を用意しますね」
仕事終わりのアーミヤの微笑みにドクターも少しだけ気分が和らぐ。
テーブルに置かれた飲み物とともに、ドクターとアーミヤが椅子へと腰かけた。
「イーサンとミヅキさんは大丈夫ですかね……」
「……なにも起きないことを願うばかりだよ」
「そうですね……龍門が落ち着いたと言っても、まだ油断できる状況かどうか判断ができませんし……」
そう。龍門にはまだ塞がりきっていない傷が残っている。その部分を抉るような人物が現れないとは言い切れない。
――――――ザザッ。
「「……」」
無線の音に二人が目を合わせる。
「……あ、あー。もしもーし、聞こえますかい?」
無線越しに聞こえてきたのは、なんとも気だるげな、それでいて流暢な男の声。
「ん……この声は、もしかしてリーさんですか?」
「おぉ、アーミヤ嬢。これまたご無沙汰で、元気にしてますかい?」
「はいっ! 元気ですよ!」
「はっはっは、そりゃ良かった」
「急に無線で連絡だなんて、どうされたんですか?」
「いやぁねぇ、ちとドクターに伝えておこうかと」
「ドクターに?」
「……」
「ええ、アーミヤさんもどうぞそのまま。別にあの時みたいに世界が揺らぐほどのことではないので、楽にしてくださいよ」
「あの時……?」
アーミヤが「あの時みたいに」という言葉に反応したものの、リーはドクターへの言伝を話していく。
「ドクターはもうお気付きかもしれませんがねぇ。龍門にレユニオンらしき人影が現れまして。後をつけてみたらなんとクラウンスレイヤーと数名のレユニオンが居るじゃないですか」
「クラウンスレイヤー!?」
リーの口にした人物の名にアーミヤが驚く。
「まぁまぁ、落ち着きなすってアーミヤ嬢。そこにもう一人、見慣れない男が居ましてね。数人のレユニオンと共に男は立ち去り、クラウンスレイヤーはその場に留まった、というわけです」
「ドクター、どういうことでしょう……レユニオンはもう壊滅したはずですし……姿を見せなかったクラウンスレイヤーが出てくるなんて……」
レユニオンの残党とそれを率いる男……。クラウンスレイヤーがその場に留まったというのも考慮すべきだが……。
彼に連絡をしておいた方が得策か……。
「っ…………」
「ドクター?」
「……少しだけ待ってくれるか?」
「はい、大丈夫です」
「どうぞ、お気になさらず」
ドクターは小型の端末で誰かと通話をし始めた。
「ああ、思っていた通りに……想定内だといいが…………。そう、イーサンとミヅキを頼む…………君ばかりすまないな…………。いや、誰一人として欠けることは避けたい。そこには君も含まれている…………ああ、では……」
通話を終えたドクターが肩を少しだけ落とす。
「ドクター、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「ドクター、どなたとお話していたんですか?」
「Sharpだ」
「Sharpさんですか?」
「ああ、彼には一週間ほど前から龍門での警備を頼んでいた」
「Sharpさんが居てくれるなら安心ですね! ……でも、念のために龍門に居る他のオペレーターたちも調べてみます!」
「ああ、頼むよ」
「はい!」
イーサンとミヅキを信用していないわけではない。ただ、不測の事態、予期せぬ出来事が起きた場合の対処、手段が多いに越したことはない。
「Sharpさんと言えばロドスの中でもエリート中のエリートさんじゃないですかぁ、それで私まで動く必要があったんですかい?」
「オペレーターやその周囲の者たちを頼りにしている。誰も欠けてほしくないからこそ、万全を期したい。リーも含めてね」
「……」
ドクターの返しにリーが沈黙する。
アーミヤは龍門に居る他のオペレーターたちの所在を確認し始めていた。
「ほんと、あなたはズルいですねぇ……。まぁ、そういう所も嫌いじゃありませんが……。それで、次の手は考えているんですかい」
「あの二人で対処できるなら、それで構わない。君やSharpは最後の手段になるだろう……」
「ほうほう。して、その二人に対処できない場合は?」
「敵勢力の無力化をお願いする」
「おぉっとっと、私に戦えって言うんですかい。うちは健全な探偵事務所だって言ってるでしょうに」
「能ある鷹は爪を隠すとも言う」
「はぁ、頭が良ければもう少しマシな生き方をしてたかもしれませんねぇ……」
無線の向こうからリーのため息が漏れてくる。
「と、愚痴はこれくらいにして。……さぁて、ではちっとばかし野暮用があるんで失礼しますよ、ドクター。また連絡します。アーミヤさんにもよろしく、と」
「ああ、伝えておく。リー、二人のことをよろしく頼む」
「フフッ、なんのことだかさっぱりですねぇ」
無線での会話が終わり、アーミヤが誰かに連絡をしている声だけが聞こえる。