アークナイツ二次創作【ミヅキサイドストーリー】まとめ②
ロドスの事務所、一室。
今日はミヅキが初めて任務へ参加するためのミーティングが開かれる。
席に座るドクターの隣では、アーミヤが書類に目を通し、向かいの席ではミヅキとイーサンが肩を並べていた。
「よぉ、おめー新人か?」
「うん、僕はミヅキって言うんだ。君は?」
「俺の名前はイーサン、よろしくなー」
「よろしくね」
言葉を交わす二人。
イーサンは挨拶を交わしながらも、自然と片手でヨーヨーをいじっていた。
「ずっと気になってたんだけど、それはヨーヨー?」
「おっ、おめー知ってんのか?」
「うん、昔に教えてくれた人が居てね、ヨーヨーだけじゃなくてコマとかも知ってるよ!」
ミヅキが微笑みながら言った内容に、いつも気だるげなイーサンの目が開く。
「……へぇ~、おめぇとは仲良くできそうだな、兄弟」
「兄弟? 兄弟っていうのは同じ母親から……」
「――――――こほん」
「「……」」
アーミヤの咳払いに気付いた二人が会話をやめる。
「では、時間になりましたので、ミーティングを始めます」
アーミヤのきっちりと挨拶とともに、今回の作戦任務を説明していく。
今回はミヅキの初任務ということもあり、比較的簡単な任務となる。
内容は龍門市街の建物にて、ペンギン急便との荷物の受け渡し。ただそれだけ。
「――――――夜の九時にペンギン急便のテキサスさん達がここの建物に居ます。そこで荷物を受け取り、こちらからの荷物を渡してください」
「うん、わかったよ」
ミヅキからの返事。その隣ではずっとヨーヨーが宙を舞い続ける。
「おいおいドクタ~、俺におつかいしてこいって言うのかよ? そんなのこいつ一人でも十分だろ? 可愛い顔してても、結構やるタイプだぜ?」
「……」
ミヅキの能力について、イーサンにはまだ話したことはない。むしろ、ここで会うのが初めてだった。だがしかし……いや、やはりと言うべきか。
イーサンには既にミヅキの実力が理解できているらしい。
「……」
ドクターが口を開く前に、
「イーサン」
とアーミヤが回答する。
「隠密行動が長けているあなたに、ミヅキさんの任務遂行のためのスキルを身につけさせてほしいんです」
「あぁ? 俺は目立ちたがりだぜ? それにこんなおつかい程度に隠密行動なんて必要ないだろ?」
「人目につく場所を探せるということは、逆に人目につかない場所を感知、察知できるということではないでしょうか?」
…………。
「はぁ~……アーミヤちゃんは分かってないねぇ~、俺がそんな出来る奴に見えるかぁ?」
「それは、私だけじゃなくて、ドクターが保証してくれていますから」
「……ふーん、ドクターねぇ…………」
イーサンのジトっとした目がアーミヤからドクターの方へと視線を移す。
真面目なアーミヤとふざけているような、遊んでいるような態度のイーサン。この二人が話し合うと、大抵の場合は時間だけが無駄に過ぎてしまう。
「……アーミヤ」
「ドクター? どうしましたか?」
「……」
ドクターがまっすぐイーサンの顔を見つめ、両者がともに顔を見合わせる。
「……イーサン、ミヅキのことを頼めるか?」
ドクターはただイエスかノーかだけの質問を口にした。
「…………」
静かな部屋の中でヨーヨーが宙を舞う。
「どうだろうか……?」
「…………」
――――――パシッ……。
遊び続けていたイーサンの手に、ヨーヨーが握られた。
「へいへい、分かったよ。ドクターの頼みとあっちゃ断れねぇしな」
もとより断る気もないという言葉を、イーサンは口にしない。
だが、それを口にしないことも、ドクターには理解の範疇のようだった。ドクターは動じずにイーサンとの会話を続ける。
「ありがとう。ミヅキのことをよろしく頼むよ」
「あいよ。その代わり、今度マッターホルンの飯食わせてくれよな」
「ああ、伝えておく」
「オッケー。――――んじゃ、たまには後輩の面倒でも見てやるかねー」
しかたなくという雰囲気のイーサンだが、これもまた場の空気を和ませるためのもの。彼はそもそも後輩だけでなく、ロドスの色々なオペレーターたちと仲良くしている。
今回、イーサンを選んだのはそういった一面を持つ彼の性格を考慮してのことだ――――――
「(……はぁ)」
アーミヤが誰にも聞かれないように、小さなため息をもらし、
「では、二人に日時などの詳細を今から説明します――――――」
数十分後―――――
「…………質問など、不明な点がなければ、以上でミーティングを終わります。お疲れ様でした」
「ふぃ~、終わった終わったぁ~」
イーサンが気だるそうに立ち上がり、その場で身体を伸ばす。
ミヅキは隣で座ったまま、配られた資料を丁寧に見つめていた。
「んじゃな兄弟、また任務でなぁ~」
「あ、うん! よろしくね!」
「へいへ~い」
出ていくイーサンをミヅキが手を振りながら見送る。
「ではドクター、ミヅキさん、私もお先に失礼しますねっ」
「ああ、ありがとうアーミヤ」
「うん!」
アーミヤは次の作業があるらしく、ドクターとミヅキに挨拶をすると書類を束ねて急ぎ足で出ていった。
「「…………」」
会議室にはドクターとミヅキだけが残された。
――――――――ロドス艦内廊下。
「――――イーサン、待ってください!」
「んぁ?」
ミーティングを終えたイーサンの後ろを走り寄るアーミヤ。
「ん、なんか言い忘れたか? ああ、なるほど。マッターホルンの飯が食いたいのか」
「違いますよ……」
「すまねーが、リーダーのお願いでもそれだけは譲れないぜ? あいつの飯はうめぇからなー」
「だから違いますって……」
アーミヤがため息をはく。
「そんなに根詰めなくてもさ、気楽にいこうぜ」
イーサンは後頭部に両手を当てながら、のらりくらりとしていた。
「イーサン、これを」
「ん?」
「ドクターからです」
アーミヤがイーサンへと、メモの書かれた紙を渡す。
「そうかい」
イーサンは確認することもなく、ドクターからのメモをポケットへと突っ込んだ。
――――あの場では言えないことがある。アーミヤに託してそれを自分に渡した。内容はあの新入りのことについて……ってな感じかねぇ。
「……ふーん、リーダーもなんか大変そうだな」
「分かっているなら、もう少し協力的になってもらえると助かります」
「俺って結構、協力的じゃないか? ほら、話しやすいしさ。なんならアーミヤちゃんの悩みも聞いてやるぜ?」
「もう……。普段の会話ならいいですけど、ああいう場で冗談を言うのはやめてくださいね」
「アーミヤちゃんは硬いねぇ」
イーサンが一歩、足を前へと進める。
片手では、いつの間にかヨーヨーが上に下にと自由自在に飛び回っていた。
「あの、ドクターからのメモは見ないんですか?」
「あー、あとで確認するよ。それより飯だ飯。腹減ってんだ」
「そうですか」
歩くイーサンのあとを、アーミヤは見送る。
「……イーサン、ミヅキさんのこと、よろしくお願いします」
「あいあい。まぁ、そんなに期待はしなさんな」
アーミヤの言葉に振り返ることもせず、イーサンは歩いていく。
アーミヤは小柄なイーサンの背中を見つめ一礼をした。
「「…………」」
次にアーミヤが見上げた時には、イーサンの姿は周囲の空間へと溶け込み、その姿を目に映すことはできなかった。
「――――もちろん、ドクターだけじゃなくてリーダーの言うこともちゃんと聞くさ」
――――――――ロドス艦内、会議室。
アーミヤとイーサンが出ていったあと、ドクターとミヅキは向かい合ったまま動かなかった。
気まずさなどは無い。ここは戦場ではなく、ただ「無の空間」が広がっているだけ。気を張ることもない。
「ねぇ、ドクター?」
「……?」
「隣に座って少しだけお話してもいい?」
「ああ、構わない」
「えへへ、ありがと」
ミヅキは曇りのない、純粋な笑みを見せて立ち上がる。
――――コツ……コツ……。
静かな部屋には足音だけが小さく響く。
「よいしょ……」
「……」
先ほどまでアーミヤが座っていた席へと、ミヅキが腰を下ろす。
「「…………」」
ミヅキは両手を太ももの下に置いて少しの間、机をじっと見つめていた。
「ねぇ、ドクター。聞いてもいい?」
「……?」
「どうして彼と僕なの?」
「……」
それはアーミヤが説明してくれた通り。
イーサンのオペレーターとしての能力をミヅキにも習ってほしいから。それに加えて、イーサンはミヅキのことを気に入ってくれた。
たとえそういう結果になっていなくとも、彼はミヅキを気にかけてくれる。
「うーん……それは分かったんだけどね……」
俯くミヅキの表情は、あまり見せることのない薄暗い雰囲気を纏っていた。
その姿から、ガラス細工のような、繊細で脆く崩れそうな弱々しいものをドクターは感じた。
「……」
「……?」
「そのね、ドクターは一緒じゃないの?」
「今回は君とイーサンでの任務だ。私は同行しない」
「でも、僕はドクターの配下でしょ? そしたら、ドクターが来てくれないとどうすればいいのか分からないよ?」
「…………」
これは不安を感じている……? 彼が?
頼れるものができた途端、生き物とは緊張の糸が切れやすくなる。
これは、長い間、独りで生きてきた分の甘えなのか。ミヅキという青年も例外ではないということなのだろうか。
「……イーサンは面倒見もいい。彼を頼れば大丈夫だ」
「でも、彼は僕より弱い。それはドクターも理解してるんでしょ?」
「……」
純真無垢な冷たい言葉。
確かに、単純な戦闘能力での強弱を見るだけならば、ミヅキに軍配が上がるだろう。
ただ――――――
「……ミヅキ」
「なに?」
「生き物の強さとは、本当の強さとはなにか。君が今まで目にしてきたはずだ」
「うん。たくさん見てきたよ」
「なら、イーサンの強さはなんだと思う?」
「ん? それは隠密じゃないの?」
能力の評価だけなら、その答えが正しい。
だが、本当にそれだけならば代わりのオペレーターはいくらでも居るだろう。
「イーサンは君が思っているよりも強い。だから安心していい」
「ドクター、ごめん……」
「……?」
「彼を下に見たりとかそういうんじゃないんだ……」
「……?」
俯いていたミヅキが顔を上げる。
薄い桃色の瞳がまっすぐにドクターの顔を見つめ続けた。
「ドクターは……ドクターは僕の前から消えたりしない?」
――――ああ、そうか。
「大丈夫、消えたりしない」
「そっか……」
ミヅキにとって、新しく手に入れたもの。新しい居場所。それが壊れてしまうかもしれないという不安。
私だけでなく、ロドスという場所自体が彼の大切なものになれば、ケルシーの危惧している問題も解消できるかもしれない。
「うん。そうだよね……ドクターなら大丈夫だよね……」
「君とイーサンが戻ってくるのを、ここで待っている」
「うん、絶対だよ」
子どものような笑み。
彼が壊れてしまわないように。彼が自分の道を歩めるように。
そして、他のオペレーターたちのためにも、私はまだ死ねない。死ぬことは許されない。
「さぁ、そろそろ行こうか」
「ねぇ、ドクター。最後に一つだけお願いをしてもいい?」
「……?」
「ちょっとだけ……、少しだけもたれてもいい?」
「ああ、構わないよ」
「えへへ、ありがと」
ドクターの傍に椅子を近づける。
ミヅキは被っていた帽子を手に取り、そっと頭を寄せた。
「うん……やっぱり安心する……」
「それは良かった」
この程度で彼の安心を得られるのなら安いものだ。
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