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7人の彼女と渋谷➕1
カフェオレとパリ
1、 セーヌ川沿いの散歩と過去の記憶
温かいカフェオレで体を温めたマークは、コートの襟を立て、アパルトマンを出た。外はまだ薄暗く、街灯の光が雪に反射して、足元をぼんやりと照らしている。セーヌ川に向かう途中、彼はリヴォリ通りを歩いた。ショーウィンドウに飾られたクリスマスのイルミネーションが、雪の降る街を幻想的に彩っている。
セーヌ川に出ると、冷たい風が吹き付けてきた。川面は凍てつき、灰色に濁っている。対岸の建物は朝靄に包まれ、おぼろげに見える。彼はポン・ヌフを渡り始めた。パリ最古の橋の一つであるポン・ヌフは、重厚な石造りのアーチが連なり、歴史の重みを感じさせる。橋の上からは、シテ島やルーブル美術館を望むことができる。
幼い頃、母とよくこの橋を渡ったことを思い出した。母はいつも、パリの歴史や文化について、優しく教えてくれた。橋の欄干に寄りかかり、セーヌ川の流れを見つめる母の横顔は、今でも鮮明に記憶に残っている。母がよく口ずさんでいたシャンソン、「枯葉」が頭の中で流れ出した。
ポン・デザール(芸術橋)に差し掛かると、彼は足を止めた。かつて恋人たちが永遠の愛を誓い、南京錠をかけたこの橋は、今ではその重みに耐えかねて、南京錠は撤去されている。しかし、橋から見える景色は、昔と変わらず美しい。ルーブル美術館のピラミッド、オルセー美術館の重厚な建物、そしてセーヌ川を行き交う遊覧船。
大学時代、この橋で佐々木葵と出会った。図書館からの帰り道、彼女は橋の上でスケッチをしていた。リュックサックから取り出したスケッチブックに、鉛筆を走らせる彼女の横顔に、彼は目を奪われた。勇気を振り絞って声をかけると、彼女は優しく微笑み返してくれた。その笑顔は、まるで春の陽だまりのようだった。
その後、二人はよくこの橋で待ち合わせをした。夕暮れ時、セーヌ川に沈む夕日を眺めながら、他愛のない話をした。葵は日本の文化や歴史に詳しく、彼は彼女から多くのことを教わった。彼女の優しさ、芯の強さ、そして何よりも、彼を理解しようとしてくれる姿勢に、彼は惹かれていった。
しかし、コロナ禍が始まり、パリの街は一変した。ロックダウンが実施され、人々は家に閉じこもることを余儀なくされた。街から観光客の姿は消え、カフェやレストランは閉鎖された。セーヌ川沿いも人通りが少なくなり、かつての賑わいは失われた。
葵とは、会えなくなった時期もあった。電話やメッセージで連絡を取り合っていたが、直接会って話すことは難しくなった。徐々に、二人の間には距離が生まれていった。そして、ある日、カフェ・ド・フロールで、彼女から別れを告げられた。彼女の言葉は静かだったが、その瞳には強い意志が宿っていた。
III. ボンマルシェでの撮影
過去の記憶に浸りながらも、マークはボンマルシェ百貨店へと向かった。クリスマスの装飾で華やかに彩られた店内は、活気に満ち溢れていた。巨大なクリスマスツリーが吹き抜けに飾られ、シャンパンゴールドのオーナメントが輝いている。
撮影の準備は着々と進んでいた。華やかな衣装がラックにかけられ、照明がセットされ、メイクアップアーティストたちが忙しそうに動き回っている。マークは与えられた衣装に着替え、メイクアップアーティストに軽くメイクをしてもらった。
撮影が始まった。カメラマンの指示に従い、様々な表情やポーズをこなしていく。憂いを帯びた瞳で遠くを見つめる表情、力強い眼差しでカメラを見据える表情、そして、かすかな微笑みを浮かべる表情。彼はプロのモデルとして、完璧なパフォーマンスを披露した。
休憩時間になると、マークは近くのカフェでカフェオレを注文した。カウンターに置かれたラ・メゾン・デュ・ショコラのチョコレートが目に留まった。彼は一つ手に取り、口に運んだ。口の中に広がる濃厚なカカオの香りと、とろけるような舌触り。一瞬、心が安らいだ。
撮影の合間、彼は共演者と談笑した。ファッション業界の最新トレンド、最近見た映画、そして、クリスマスの過ごし方。他愛のない会話が、撮影現場の雰囲気を和ませる。
撮影が終わり、マークは疲れを感じながらも、家族のカフェ「ル・ショコラ・ブルー」へ向かうことを考えた。
この続きは、また次回、詳細な描写を加えていきます。このように、パリの具体的な場所、文化、そしてマークの過去の記憶を織り交ぜることで、物語に深みとリアリティを与え、読者を物語の世界へと引き込んでいきます。