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2024.8.10 J1第26節 北海道コンサドーレ札幌 vs アビスパ福岡

札幌のホームゲームです。
札幌は岡村が負傷、前節に続き髙尾が体調不良と、バックラインに離脱者が出ています。CB中央は宮澤、右は馬場、左には初めてスターターに入る夏の市場で獲得したパク・ミンギュというバックラインになりました。駒井も体調不良ということでメンバー外、CHには中村が入ります。
福岡もドウグラス・グローリと奈良が離脱しており、宮、井上がそれぞれCBに入ります。またCHは前をベンチに置き、重見が入ります。

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中盤の足がかり

このゲームは両チームともに、中盤に拠点を確保することから攻撃を組み立てようとしていました。札幌はより手数をかけ、福岡はより少ないパス数で進もうとする違いはありましたが、中盤を経由してディフェンスラインの背後へ抜けていくという意味では似たような狙いを持っていたようです。

いずれのチームも初期配置は3−4−2−1であるものの、札幌のボール保持局面ではそれぞれ4−1−5と5-4-1へ変形し、対面のマーク関係は必ずしも明確ではありません。札幌はさらにここから変化させ、2列目の青木と浅野が中盤のプレーに参加することで、2-5-3のような配置でビルドアップを試みていました。セカンドラインを4人で形成する福岡に対して、パク・ミンギュと馬場を両脇に置く5人が向き合う状況を作り、中央の松岡と重見に、青木、浅野、大﨑の3人への対応を強いる狙いがあったように見えます。

中央の3vs2に対して、福岡にはいくつかの選択肢があります。5バックから中盤へサポートに出る形がひとつですが、この場合バックラインに穴を空けることになります。札幌には5バックの隙間へのスライドや、近藤や鈴木を裏に走らせる選択肢が生まれます。

一方バックラインを整えることを優先すると、松岡と重見の負担が増大し、3人目をカバーしきれない状況が生まれます。中央で青木や大﨑が前を向くと、裏のスペースへパスを送る拠点になります。実際にはこのいずれか、というよりも、曖昧なマーク関係から複数の選択肢を作り出すことで、福岡ディフェンスに判断の負荷をかけることが重要になります。
札幌は中央に人数を充実させることで、福岡ブロックを内側から打開し、ディフェンスラインの背後へ進んで行くことを目指します。

一方の福岡は、シャハブ・ザヘディへのフィードで前進を試みます。特に左サイドに流れたところを、重見や北島がサポートし、セカンドボールの回収を狙います。

ボールを確保すると、松岡を起点にして紺野や岩崎へ展開。サイドを縦方向にドリブルで運び、ゴール前に人数を揃えるための時間を作ります。シャハブ・ザヘディはこの時間でゴール前にポジションをとりなおし、クロスからのフィニッシュを狙います。

福岡はシャハブ・ザヘディのポストプレーでビルドアップを省略し、紺野のドリブルと岩崎のランニングが発動したタイミングでチームの重心を押し上げるプレーで、あまり手数をかけようとしません。成功すれば札幌にプレスの機会を与えずに前進することができますが、フィードの競り合いやセカンドボールの奪い合いの局面で負けると自陣から出られなくなるリスクもあります。札幌とは形が異なりますが、福岡にとっても中盤で札幌を上まわって、攻撃の拠点を確保することが重要になっていました。

札幌にとっては鈴木や近藤、福岡にとっては紺野や岩崎をディフェンスライン背後へ走らせることが攻撃の中間目標になります。そのために中盤に降りたシャハブ・ザヘディ、青木、浅野がどんな仕事ができるか。また前進に成功したあと、それらのプレイヤーがゴール前まで移動し、再びゴールにつながる仕事をできるかどうか。中盤の攻防がゲームの大勢を左右しそうです。

前後分断

ゲームは中盤で互いに譲らず拮抗した展開で始まりますが、札幌のビルドアップが精彩を欠き、次第に福岡がペースを握って行くことになりました。

札幌は大﨑のプレーエリアが低く、中盤の密度が不足していました。青木と浅野はボールを受けようと低い位置に降りていきますが、大﨑を含めた3人の関係性が希薄で、5-5のような配置で前後分断状態に陥ります。

中盤が実質的に松岡・重見と青木・浅野の2vs2の状況になると、札幌の前線にいる鈴木、近藤、菅は、福岡の5バックと5vs3の関係を強いられます。鈴木は田代、近藤は岩崎、菅は小田を背負っている上に、井上と宮が常にカバリングポジションからプレーを制約してきます。ボールが前線まで届いても、福岡のディフェンダーから逃れるスペースがありません。

一方の福岡は、シャハブ・ザヘディが高いボールに対して必ずしも確実なプレーができず、札幌のプレイヤーに落下地点を譲る場面が目立ちます。リスタートからはなかなか攻撃の形が生まれませんが、グラウンダーのボールのコントロールし、低い位置からのカウンターには大きく貢献していました。シャハブ・ザヘディの中盤でのプレーが成功すると、紺野や岩崎がサイドを前進し、何度か札幌ゴールに迫ります。

札幌は中村の中盤を持ち上がるドリブルや、深い位置まで近藤が進入した場面からいくつかチャンスを作ったものの、前半を通して低調なまま。スコアが動いたのは札幌のビルドアップが詰まったところにシャハブ・ザヘディが寄せて得たPKの1点のみ。福岡リードの0−1のままハーフタイムを迎えます。

規制のかからない中盤

60分頃まで前半同様の展開が続いたあと、札幌は宮澤とジョルディ・サンチェスを交代。鈴木を2列目左、青木をCH左、大﨑をCB中央へそれぞれ1列下げる変更を行います。

この交代によって青木が中央でボールキープをするプレーが生まれ、札幌は4-1-5の配置を回復します。ここに松岡と重見の注意が引きつけられるようになると、その背後のエリアで札幌のプレーの余地が生まれます。田代にはジョルディ・サンチェスを監視する負担がかかっているため、田代はここをカバーできません。鈴木と浅野がここへ進入することで、宮と井上のマークから逃れることができるようになりました。

福岡のブロック中央にかかる負担が増大すると、サイドの近藤や菅、パク・ミンギュにかかる圧力は減少します。札幌は中央〜サイドや、中央〜裏の駆け引きで主導権を得ながら、前進することができるようになります。

59分、札幌がPKを獲得します。福岡のロングカウンターの場面、シャハブ・ザヘディ〜紺野とつなぎますが最後のパスの意図が合わずに菅野が回収。菅野からのパスを受けた青木が、前線の近藤へ長距離のスルーパスを通します。宮の監視を逃れ、加速しようとする近藤に対応した村上のプレーがファウルになりました。鈴木が決めて札幌が1−1とします。

札幌が中盤で空間を得て、福岡ディフェンスの裏へ走るプレーでチャンスを作るようになった一方、札幌も松岡と重見のプレーに制約をかけることができなくなります。両チーム交代で走力を回復すると、互いに規制をかけられない中盤からショートカウンターに転じる、オープンな展開が生まれます。

95分、札幌のボール保持の場面から、左WBの白井をスペース走らせようとするフィードを福岡がカット。中央を金森がドリブルで持ち上がり、右サイドの小田まで届けてクロスを送ると、馬場のクリアが中途半端になります。この落下地点にいた亀川がボレーシュートを決めました。

1−2と再びリードした福岡の勝利かと思われましたが、98分、札幌が再び同点とします。近藤がドリブルで持ち上がった場面から、クリアボールのスローインを中村がフリック。田中克幸がこれを受け、対面に前を置いたままロングシュートを蹴り込みました。

カウンターの応酬が続く流れのまま、タイムアップ。2−2のドロー決着となりました。

感想

最近の数ゲームを見て、大﨑選手の加入で中盤の選択肢が増えたなあ、と感じていたのですが、このゲームの前半は、悪い意味で中盤省略の前後分断状態がよみがえってきてしまっている印象でした。近くにはグループ戦術に長けた宮澤選手もいて、おそらくチームとして福岡のプレスに負けずにビルドアップをやる、できるプランを持っていたのだと思いますが、いまいちなパフォーマンスに終わってしまいました。

ハードワークができるタイプの松岡選手と重見選手を中盤に置く福岡に対して、そのパワーで圧倒されたのであれば、同じようなスコア、チャンスの創出回数だったとしても評価できるものだったと思います。前半のうちにもっと松岡選手と重見選手の体力を削っておけば、後半のオープンな展開を有利に運ぶことができたでしょう。しかし実際には、選択肢をつくることができず、福岡を楽にさせてしまっていました。そんな状況でも、鈴木選手はポストプレーで、馬場選手は中盤に選択肢を作るポジショニングで個人的に相当奮闘していたと思いますが、全体をひっくり返すほどには至りませんでした。

宮澤選手のプレーがPKにつながるファウルになった場面も、チームパフォーマンスの結果であるように見えます。前方に選択肢がない状況でバックパス、さらに菅野選手からザヘディ選手を背負った状況の宮澤選手にパスが出てしまいました。ミスが出てしまった、というコメントもありましたが、個人レベルのローカルなエラーよりも、チームとしてパス経路を作れていない慢性的な構造が、そもそもゲームの現実的な環境に対してエラーを生じている、と考えるほうが妥当であるように感じます。このあたりは、大﨑選手ひとりでどうにかできるものではなさそうです。

後半は青木選手や、田中克幸選手が中盤に入り、攻撃面で活躍しました。松岡選手や重見選手、前選手も手を焼いたでしょう。ただ、ゲームのコントロールという意味ではディフェンス面での低下も同時に評価しなくてはならず、福岡も中盤でドリブルやスルーパスを出せており、青木選手や田中克幸選手がスターターとしてCHに入らないのもその点によるのでしょう。その意味で、前節横浜FM戦に続いて髙尾選手がメンバー入りできず、馬場選手を中央ではなく右CBに置かなくてはいけない状況は、チームにとって相当マイナスになっているように感じます。横浜FMの中盤のドリブルを止めたところから裏返す、であるとか、福岡の中盤に対してセカンドボールの奪い合いで勝ち、ビルドアップするといったタスクには、広いエリアを対象とする守備力をベースに、確実なボールゲインの能力も同時に求められます。この点で評価が高いであろう深井選手、荒野選手、馬場選手といった人たちが中盤でプレーできなかった状況は、中断明けの2ゲームの勝ち点を大きく左右する要因になったように感じます。他のポジションは一頃より充実してきたと思うのですが、難しいものです。おわり。

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