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2025.2.23 J2第2節 ロアッソ熊本 vs 北海道コンサドーレ札幌
熊本のホームゲームです。
札幌は、前節大分戦から6人を変更。特に前線3人はすべて入れ替わり、ジョルディ・サンチェス、青木、荒野から中島、田中克幸、長谷川に。さらに左WBを中村から田中宏武へ、右CBを髙尾から西野へ、CHの木戸を馬場へそれぞれ変更しています。
熊本は、前節長崎戦のメンバーを中心に、右WBを大崎から藤井に変更。また左WBを担っていた渡邊と、前線やや下がり目に入っていた古長谷を入れ替える配置を採用しています。
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マンマーク+攻撃への備え
熊本は、札幌を自陣に引き込む意図を持っていたようです。札幌最終ラインのボール保持に対してはプレスを行わず、渡邊と半代はCHへの縦パスを警戒する立ち位置に留まります。札幌の前進をセンターサークル付近まで許容していた、と言えるでしょう。一方そこから先へのパスはマンマークで奪い、札幌の背後に「用意」したスペースを使ってカウンターに移行しようとします。
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例外として、左WBの古長谷は深い位置でのディフェンスを免除されていました。近藤のドリブルに対応するのは左CBの岩下で、古長谷は最終ラインに加わろうとしません。ピッチ内側をケアする役割も三島と上村で、古長谷をタッチラインの近くに留めるためのサポートをします。
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古長谷の役割は、センターラインの高さでボールキープを行い、チームが札幌陣地へ移動するための時間をつくることです。札幌を自陣に引き込むということは、ゴールまで長い距離がある状態で攻撃を開始することになりますが、その中継地点にボールプレーに長けた古長谷のターンやドリブルを置くことで、カウンターの起点を安定化しようという意図でしょう。
熊本は、全体的にはマンマークを採用しつつ、前線では札幌の3バックに対して渡邊の半代の2人で対応し、数を合わせていません。その余ったひとり分を、中盤でカウンターの起点になる古長谷のマンマークの免除に使う、という構図になるでしょう。
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古長谷の周囲では、特に守備面において岩下や三島のハードワークが必要になりますが、全体的には札幌に振り回されないようにハードワークのしどころを限定したとも言えます。自陣で札幌の攻撃を受け止めつつ、中盤で待つ古長谷を使いながら、DFの揃っていない札幌ゴール前のスペースを急襲することを目指します。
FWを押し出す
札幌は対極的な考え方を持っており、熊本が自陣に構えていることを前提に、DFを動かすことで攻撃の経路を作り出そうとします。その最終段階を担うのは田中克幸と長谷川で、この2人が中盤で前向きにボールを扱う状況から、中島、近藤、田中宏武を熊本のディフェンスライン背後に送り出すプレーを狙います。
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このゲームの札幌のポゼッションは、西野が一列前へ、田中克幸と長谷川が一列下がることで、中盤に横並びの5人を形成する形から始まっていました。後方の大崎、パク・ミンギュ、馬場、高嶺の4人が一列前の5人へのパスと、ひとつ飛び越えた中島へのフィードを選択肢に、ボールを動かしながら前進のタイミングを伺います。3列を当てはめると、4−5−1のような形とも言えるでしょう。
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熊本が引いてマンマークを選択したことから、札幌の中盤5人はほとんどマークを背負った状態になります。結果的に札幌の選択は、前線の中島へのフィードでした。中島は左サイドへ流れて袴田から逃れつつポストプレーを試み、周辺を長谷川と田中克幸がサポートしてボールを確保しようとします。
2列目の5人が、前後方向(田中克幸と長谷川は前線方向へ、西野はそのまま)と左右方向(近藤と田中宏武はピッチサイドに留まり、田中克幸と長谷川はボールサイドへ移動)に矛盾した動きをすることで、熊本のDFには横一列を保つことができずギャップが生じます。この隙間を使うことが、ゴール前へ向かうための経路をひらくことになります。
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長谷川と田中克幸は対面の阿部、上村のマークを逃れるプレーをして、札幌の次の展開を作ることができていました。中島や、同サイドの田中宏武へのスルーパスが第一の選択肢だと思われますが、このゲームでは逆サイドへの近藤への展開がよく使われていました。
熊本は近藤に対応するロールを岩下に任せ、古長谷を前線に温存しようとしていますが、阿部のサイドにフィードが入った状況では近藤へのマークと両立することが難しく、一度近藤を自由にすることになります。岩下には札幌のサイドチェンジに対応して近藤のマークに戻る負担があり、札幌はここに負荷をかけることで破綻させようとしていました。
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ゲームは、概ね両チームの意図が表現され、互いにチャンスを迎える展開で進んでいきます。札幌は中島へのフィードを起点に前進し、その手前で長谷川や田中克幸が活動。そこから近藤のドリブルなどに展開します。熊本は古長谷や藤井を経由しながらカウンターで札幌ゴールに迫ります。
拮抗していたゲームは28分、熊本が先制します。札幌の中盤から送られた近藤へのパスをカットした岩下が、左サイドを古長谷とともに持ち上がります。札幌が自陣でブロックを構える構図に持ち込むと、渡邊へのシンプルなフィードで前進、こぼれ球を拾ってファーサイドへクロスを送ると、逆サイドから飛び込んだ半代が押し込みました。
1−0で迎えた後半49分、熊本が追加点。近藤のランニングを使おうとした西野のパスに正確性がなく、熊本のゴールキックに。熊本はリスタートからも、一度DFがボールを持って札幌を引きつけ、サイドの深い位置へフィードをして安全に前進を試みます。豊田から半代へのボールは大﨑がヘディングで跳ね返しますが、中村がこれをコントロールしきれず。渡邊がルーズボールを拾って前方へ抜け出します。大﨑が対応に出ますがそのままスピードを落とさず、フィニッシュへ。ファーサイドに決まり2−0とします。
ビハインドの札幌ですが、時間経過とともに中盤でDFと駆け引きする動きに乏しくなり、中島のポストプレーから先のプレーを急ぐ傾向が生まれます。直線的に進んでいく札幌のアタッカーに対して、熊本の3バックの対応は容易になりました。70分頃までにかけて、札幌は前線のユニットをジョルディ・サンチェス、スパチョーク、青木に変更しますが傾向は変わらず。スパチョークや近藤が縦方向に強引な突破を試みる場面が増え、チャンスの質が上がりません。
91分、熊本が3点目。札幌が中村、出間とドリブルで持ち上がり、近藤のクロスからチャンスを迎えた直後。再び、サイドの豊田から半代への長いボールに札幌が対応しきれません。半代がドリブルで持ち上がり、塩浜へ戻すとダイレクトでシュート。これがファーポストに跳ね返ってゴールとなります。
次第に札幌の攻撃が縦に急ぐ傾向を強めてトーンダウンする一方、熊本は札幌の背後を狙い続け3得点。危なげなく勝利しました。
感想
札幌との中盤の駆け引きを回避する大分はハイプレスと撤退守備の往復、ビルドアップを放置して引き込んだ熊本は中盤でマンマーク、という違いはありましたが、札幌のゴール前の準備が十分でない状況を狙って攻撃しよう、という意味では共通するプランの大分と熊本に対して2連敗、という結果になりました。第1節ではセットプレーを与えてしまった、という表現になっていましたが、このゲームの1点目のように撤退守備らしい場面から熊本の得意とするクロス〜ファー詰めで失点、さらにカウンターも止められない、という状況を見て、岩政監督のコメントからはディフェンス全般への不安感が早くも滲んでいます。
当然ディフェンスにも問題はあるのだと思いますが、どちらかというと、攻撃が怖くない、長続きしない、というところのほうが気になります。大分も熊本も、札幌の攻撃ってこんなもんか、という感じでゲーム中にだんだんと自信をつけ、前への鋭さを増していったように思いますし、札幌のプレイヤーも攻撃に自信が持てずに淡泊になり、前半よりも後半のほうがより迫力がない、ということが続いているように見えます。
一方で、このゲームの前半は、新しいチームの片鱗が見られて面白かったです。田中克幸選手、長谷川選手が熊本のディフェンス網の内側で活動し、その時間で中島選手が前方向へトライする、という場面は、長らく5人が横並びになり、DFとアタッカーが共にオフサイドラインに張り付く「止まった」状態から、個人技やクロスでなんとかする、というペトロヴィッチ監督の構築する攻撃とは、明らかに違うヴィジョンを持っていることが感じられました。中盤でプレーをして、前線のアタッカーをディフェンスの裏へ押し出す、というイメージです。
欲を言えば、長谷川選手がボールを持つ周辺で、田中宏武選手が縦や横に離れていく動きをしたり、近藤選手のドリブルに対応しようとする岩下選手に対して、西野選手が追加でストレスをかけるようなプレーがあればより熊本は嫌だったろうなとは思います。中島選手、田中克幸選手、長谷川選手が目立っていた一方、周囲がそれを「使う」ようなところまで行けていない印象で、ここは伸びしろでしょう。
また前進方法は中島選手へのロングフィードが多かったですが、これは熊本がハイプレスを封印していた影響が大きいと思います。熊本が中盤で待っていますから、わざわざディフェンスの望むところにパスを入れる必要はなく、その裏へ送る選択が多くなる。実際に、マンマークであることを利用してマークを外側に引っ張れた時には、真ん中にできたスペースで高嶺選手が受ける、というような場面もありました。ビルドアップについては、相手の守備の考え方によって、別のオプションが見られていくんじゃないかなと期待しています。
問題は、そういう良さは感じられたもののゲームの中で一瞬であり、そうではない状況 (被保持、被カウンター、セットプレー、その他どれともつかないグレーなあらゆる場面) を耐えたり、札幌が作りたい状況へ(そうしたくない熊本に抗って)移行させることができず、逆にそこを狙われて失点を続けている、というところでしょう。これを「ディフェンスの問題」と言うこともできるでしょうが、どちらかというと相手の攻撃意図に逆らうだけでなく、そこからボールを捨てずに攻撃局面へ持ち込むことについてのあらゆること、ゲームの管理能力の問題のように思えます。
ペトロヴィッチ監督はその能力を札幌に求めなかったように見えます。ボールを奪ったらすかさずWBが5トップに加わり、できるだけ前線へ早くボールを届ける。逆サイドのWBも上がる約束だからこそ、福森選手のサイドチェンジは効果抜群です。これは、中盤省略であり、中盤の能力不足を良くも悪くも覆い隠してくれます。
岩政監督はその負債と向き合いつつあるように見えます。鹿島には当たり前にあったのに、と思っているかも知れません。しかし札幌では歴史上、この能力を構築できたことはもちろん、(J1に昇格できるレベルで)構築しようとしたこともなかったのではないかと思います。守備の文化のあるなしは、撤退守備で跳ね返して助っ人ブラジル人たちに託す、というのとは違う文脈で理解されるべきだろうと思います。まっとうなトライだなと思う一方、どれだけの時間が必要なのだろう、ということが気になってしまいます。おわり。