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2024.9.21 J1第31節 FC町田ゼルビア vs 北海道コンサドーレ札幌

町田のホームゲームです。
札幌は大﨑と荒野が出場停止、また髙尾が前節の怪我の影響でメンバー外になりました。中央には宮澤、右CBには馬場がそれぞれ入ります。また左CBは中村で、パク・ミンギュは1列前の左WBです。
町田は怪我で離脱した中山の左CBには昌子が右CBからスライド。ドレシェヴィッチがスターターに復帰しています。出場停止から戻ってきた藤尾はベンチからのスタートで、右FWは中島が担います。

3人のMFタイプのプレイヤー

このゲームの札幌は、町田に対して中盤で優位に立とうという意図を持っていたようです。駒井、青木、宮澤の3人が、下田と白崎の2人の監視を逃れてプレーする隙を伺います。ボール保持の局面では、宮澤を中盤に残した3バックのままプレーし、中盤に人数を残します。

前進は鈴木へのロングフィードを使います。3バックでボールを動かしつつも、最後はGK菅野へ戻したところからの長いパスで前線を直接狙います。このとき、鈴木は裏へ抜けるよりも後ろ向きの体勢でポストプレーを行います。札幌は、駒井、青木に加えて高いポジションにいる宮澤が関与することで、下田と白崎の2人に対してセカンドボールの回収で優位に立とうとします。
札幌はこのエリアでボールを確保するとプレーエリアを押し上げますが、逆に、そうではない場面で前を急ごうとはしません。

町田のボール保持に対しては、4−4−2で向き合います。宮澤、駒井、青木は左にスライドするだけで、2列目に留まります。左WBのパク・ミンギュは高いエリアから中村の左の位置まで移動するため、比較的距離の負担が大きくなりますが、全体としてはボール保持へ移行するときの移動を最小化するための設計でしょう。
このゲームの札幌は、町田の攻撃を受け止めることでプレーエリアが下がることを受け入れつつ、カウンターへ出るための経由地点をピッチ中央に設定し、そのためにMFが攻守に中盤に留まるための配置を用意していました。

一方の町田は、主に左サイドで札幌のDFを裏返すことを狙います。オ・セフンへのロングフィードを後方から杉岡、下田がサポートし、セカンドボールを確保します。

下田へボールが渡ると同時に藤本がランニングを開始し、スルーパスで札幌のサイドのDFを裏返そうとします。この関係をオートマチックに発動することで、DFのアプローチが間に合わないタイミングで裏のスペースへ進みます。
サイドを割った後も素早くクロスへ持ち込みますが、オ・セフンはボールがサイドを進むわずかな時間でポストプレーをしたエリアからゴール前までの移動を終わらせ、フィニッシュに備えます。中島、ナ・サンホはオ・セフンの動きをおとりにDFから逃れるポジションをとってセカンドボールを狙います。

札幌のボール保持に対しては、人を基準にしたマークが基本になります。2CBは中央に残りますが、ボールに近いエリアでは札幌のプレイヤーに直接アプローチし、ボールプレーを制約しようとします。
このゲームのマーク関係としては、オ・セフンと中島が宮澤と岡村をマークする方法からスタートしていました。これは、宮澤が最終ラインに降りるプレーを想定してのものだったと思われますが、前述の通り札幌は宮澤を中央から動かそうとしなかったため、オ・セフンと中島が縦関係のように見える場面が生まれていました。

町田はCHの一人である下田をサイドまで移動させ、サイドに厚くしたリソースを使って札幌に後手を踏ませようとします。一方の札幌は中央にMFタイプのプレイヤー3人を置き、特に宮澤をそのエリアから動かさないことによってパスの経由地点を確保して、安定的に町田陣地へ進むことを狙っていました。町田が札幌のボールプレーにエラーを生じさせたり、断念させるか、あるいは札幌が町田の圧力に屈さずに攻撃へ移行するか。札幌陣地の攻守の入れ替わりでどちらが優勢になるかが、ゲームの行方を左右しそうです。

ファーストディフェンスの及ばない隙間

ゲームは、藤本の縦突破によって町田がいくつかチャンスを作る展開で始まりました。しかし次第に札幌がカウンターとロングフィードによってペースを握っていきます。オ・セフンのポストプレーに対しては主に岡村が対応し、およそ五分と言えそうな状況が生まれます。セカンドボールが札幌、町田それぞれにこぼれますが、いずれにおいても町田がその次の展開で札幌のプレーを止めることができません。

町田がボールを得た場合には、下田が左サイド深い位置まで進出して、藤本が馬場の周辺に飛び出す起点を担います。札幌はここでサイドへの侵入を許すことがあっても、クロスを回収した後のプレーが明確でした。中央に残された白崎の周辺に鈴木、スパチョーク、青木、駒井らが進入することで、町田のファーストディフェンスの及ばない隙間からカウンターに移行します。
町田のSBにはサイド攻撃を押し上げる役割があるため、町田の攻撃が終わった直後の最後方には昌子とドレシェヴィッチが残された状態です。札幌は最前線に鈴木とスパチョークを残すことで、裏へのボールを警戒させ、白崎とCBの距離を押し広げることができていました。また、仮に下田が対応に戻った場合も、札幌はその手前のエリアに宮澤を残しています。町田にとって、札幌の2トップ、青木と駒井に対応したとしても、5人目の宮澤の動きまで制約するのは難しい状況が生まれます。札幌はこの構造から、繰り返しカウンターへ移行することができました。

また、オ・セフンへのフィードを中盤で札幌が回収した場合も、札幌が中央に残している青木、駒井、宮澤の3人のMFの存在は、町田の即時奪回を難しくします。札幌は2vs3の状況を使って、鈴木やスパチョークを走らせるカウンターへ移行することも、一度ボールを戻してサイドでパク・ミンギュや近藤の押し上げる時間を稼ぐことも選択でき、町田に対して優位に立ちます。

2次攻撃へ移行できない町田は攻撃が次第にトーンダウンし、札幌に押し込まれる時間が多くなります。しかし札幌は町田を押し込んだあとブロックを動揺させるようなパワーは見せられず、単純なクロスに終始し大きなチャンスは生まれません。
札幌は4-1-5で攻撃しているいつものゲームと比べると前線の幅の確保が十分でなく、サイドチェンジからの2次攻撃へ移行することがあまりできませんでした。このゲームの札幌は4バックが互いをサポートする関係を作っており、最後方の岡村と中村はその間を割られないように振る舞っていました。パク・ミンギュと中村の関係も同様で、右SHとして2列目にいる近藤と比べるとパク・ミンギュはプレーエリアを押し上げづらい守備タスクを担っていたと言えます。3-1-4-2 の札幌はパク・ミンギュを十分押し上げることができず、町田ゴール前での幅を欠くことになります。

スコアは動かず、ハーフタイムへ。

疲れてくれば札幌は中盤を晒すだろう?

町田はハーフタイムに交代を実施。中島に代えて藤尾が入ります。また札幌も開始早々の51分に宮澤がプレー続行不可能になり、深井と交代を行います。

札幌は町田の対応を見越してか、後半から前線へのフィード方法を変更します。ターゲットを近藤に変更してサイドで杉岡と競り合う形を作り、これを駒井や鈴木がサポートしてサイドに縦の圧力を作ろうとします。鈴木が近藤を追い越すようにサイドを走ると、昌子が対応に出ざるを得ません。町田はCBを中央に留めておくことが難しくなり、後退圧力を受けます。札幌としては、町田を安全に自陣から遠ざけることを狙っていたでしょう。

多少のアップデートはあったものの後半も大きな構図は変わらず、札幌が自陣に重心を置いて町田の攻撃を耐え、カウンターとロングフィードで反撃するという状況が続きます。

膠着状態が続き、残り30分を過ぎると両チーム交代を実施。
町田はオ・セフンと藤本に代えてミッチェル・デュークと相馬、札幌は鈴木と馬場に代えてジョルディ・サンチェスと菅がそれぞれ同じポジションに入ります。

町田は前線の活動量を維持することで、札幌のDFの疲れにともなってゲームがオープンになることを期待していたと思われますが、札幌の4−4−2はあまり崩れません。むしろ札幌のほうが、近藤を押し上げてピッチ内側方向へ進入する菅のランニングを加えて、カウンターの威力を維持しました。

82分にはナ・サンホに代えてエリキ。87分には下田に代えて仙頭が入ります。町田は構造そのまま、プレーの強度を維持して勝ち越しを狙います。しかし札幌も譲らず、得点は動かず。ゲームは0−0のドローで決着しました。

感想

守り勝ちを許した東京Vとのゲームから一転、町田の中盤に隙間ができるのを待ち構え、そこから慎重に前に出て行く札幌の姿が見られたゲームでした。札幌が攻撃のために広くポジショニングした状況から、戻りきるまえに相手チームがそのスペースを活用する、という場面ばかり見てきたので、なんとも新鮮な景色です。
もちろん突然やってみた、ということではなく、昨シーズン後半あたりからかなり試みられてきたことが形になってきたということでもあるでしょう。後半疲れてきた頃に札幌自ら持ち込む中盤省略のオープンな展開もお約束に近いですが、このゲームのように最後まで崩れない姿も、今までにあまりなかったことだと思います。

それにしてもこのやり方が成立するのは、局面のバトルで個人が負けないことが前提になります。このゲームの序盤、馬場選手が何度か藤本選手に外されて、後ろから追いかけるような形になってしまっていましたが次第に落ち着いていきました。また町田は一カ所で突撃が始まったら、その動きをキャンセルしてやり直す、ということをあまりしません。ボールの行く先に対人バトルがあるとわかっていれば、岡村選手が活躍するための舞台は整った、という感じになるのも納得です。

局面のバトルと言えば、エリキ選手のプレー時間がもう少し長いと結果が違ったかも知れない、というくらいにはギリギリの均衡だったとは思います。縦横に面を押さえるように待ち構える札幌にとって、止まったところからの加速が持ち味の選手に対しては、スピードに乗るスペースに入って止めればよいというわかりやすさがありますが、エリキ選手は止まったときのクオリティがあり、いつどちらの方向に加速してくるかわかりません。自陣で構える戦術をとるときに、そういう選手に長い時間を与えることになる、というのは大きなジレンマになるところです。

対人守備で、奪いきれないまでも遅らせたり、精度を削って耐えることができれば、それ以外のエリアに残しておいた人を使って利益を得られる可能性が出てきます。あくまでもそれで耐えられることが前提ですが、相手に先に動くように促し、アタッカーが前がかりになった背中のスペースを進むようなプレーは、個人的にはもっと見たいなと感じます。アウェイだからなのか、町田が上位だからなのか、このゲームではその意思統一ができていたと思いますが、他にもこのゲームのようなプレーが効果を挙げそうな対戦相手はいくつもありそうです。おわり。

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