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2024.9.14 J1第30節 北海道コンサドーレ札幌 vs 東京ヴェルディ

札幌のホームゲームです。
札幌は浅野を除くとほぼ今シーズンベストと言えそうなスターターを揃えます。右の2列目には駒井が入りました。東京Vは3バックの右に林ではなく綱島。染野、松村はベンチからのスタートです。


札幌の行く手を塞ぐ

6月のゲームでは札幌のビルドアップを深い位置まで追いかけて不安定化を狙った東京Vですが、このゲームでは対照的に、札幌のプレーを静観するプランを持っていました。中盤に5−4−1のブロックを構えつつ、前線は大﨑、岡村、菅野の3人に対して木村ひとりでボールに寄せる程度で、中盤まで札幌が進むことを許容します。その上で、5-4の2ラインを狭く保って札幌の前線のプレイヤーを挟み込み、ボールを奪いにかかります。

東京Vは札幌の前進を途中で裏返すと、前線の木村、山見、山田の走力を活かした攻撃へ移行します。中盤の森田と齋藤を経由し、札幌の最後方にいる岡村、髙尾、パク・ミンギュを裏返すスルーパスを使って最小の手数でゴール前まで持ち込むことを狙います。

基本的に札幌を待ち構える東京Vですが、機を見て高い位置からのプレスも併用する意図を共有していたようです。札幌のバックパスをトリガーにして木村がGKまで寄せると、2列目の山田と山見がサイドに開き、大﨑、岡村から髙尾、パク・ミンギュへのパスコースを塞ぎます。同時に森田と齋藤が中盤の札幌のプレイヤーをマークすることで、菅野から前方向へのパスの選択肢を奪い、札幌にボールを捨てるプレーを強いることを狙っていました。
東京Vは全体として、札幌の中盤のパスワークには付き合わず、ビルドアップの起点と終点にリソースを集中することで札幌の攻撃を効率的に制約しながら、カウンターの局面へ移行しようとします。

一方の札幌は、東京Vがボールを放棄しつつ札幌のエラーを狙ってくることを前提に、サイドから東京Vの5バックを脅かす狙いを持っていたようです。
そのポイントは、近藤と青木が宮原と翁長のマークを引き連れて内側方向へ移動することで、5バックの幅を圧縮し、ピッチサイドにスペースを作ることでした。ここに髙尾とパク・ミンギュが進入することで、対面の山見、山田のマークを振り切ります。このプレーを起点にして東京Vのバックラインの裏へ進入しようという意図が見えました。

自ら選んだタイミングでだけ広くポジショニングしつつ、それ以外の時間は狭く守ることを志向する東京Vと、その意図に反してディフェンダーに動かざるをえない状況を突きつけたい札幌。長い時間を与えられた札幌の攻撃陣が東京Vの守備網を上まわって得点を動かすか、東京Vがトランジションの場面から利益を得るか。札幌のボールプレーの質がゲームの行方を左右することになりそうです。

動かない自由

ゲームは、東京Vのブロックが機能して、札幌が前進に苦労する展開で始まります。
札幌は余裕をもって中盤まで到達しますが、その先の選択肢をつくることができません。札幌は主に右サイドから持ち上がり、ポジションチェンジによって東京Vのディフェンスを動かそうとしますが、翁長、谷口、山見は互いの持ち場を維持して髙尾と近藤のプレーを先取りするポジションをとっていました。ボールのないところの動きでディフェンダーを動かそうとする札幌の戦略は、スペースを管理しようとする東京Vのプレーに対してミスマッチを起こします。

一方、東京Vが5−4ブロックの内側にリソースを集中すると、札幌がその手前にスペースを得る構造もありました。札幌が5−4ブロックに引っかからずにボールを維持し、このエリアへ戻すと、度々大﨑が前を向いてボールにプレーする機会が生まれていました。
しかし、札幌はこの状況を活かすことができません。大﨑がボールを得るタイミングで前方にいる鈴木や駒井がマークを背負ったままで、パスの選択肢を作ることができません。大﨑が他のプレイヤーの動きを待ってからパスを出すと、千田や谷口も同時に反応してインターセプトにかかることが多くなります。

札幌がボールを保持しつつ、東京V陣内に入っていくきっかけを作ることができずにいると、東京Vは高い位置からのプレスを発動して積極的に札幌のエラーを誘うようになります。
東京Vに引き込まれる展開から、急に圧力を受けた札幌の最終ラインは動揺を見せます。木村の圧力を受ける菅野の左右にパスコースを確保しようと大﨑と岡村がポジションを下げると、木村ひとりに対して3人が押し下げられる状況が生まれます。山田と山見は労力をかけることなく、馬場とパク・ミンギュへのパスに備えることができていました。菅野はサイド方向へのロングフィードで一気に逃れる選択をすることが多く、これが度々ラインを割ってスローインになります。

札幌を閉じ込める状況を作ることに成功した東京Vは、カウンターで得点を狙いたいところでしたが、札幌を中盤まで引き込んでいるためゴールまで距離があり、パスひとつでチャンス創出というわけにはいきません。木村、山田、山見がポジションを上げるまでの時間が必要になり、そのためのパスやドリブルの時間で札幌のディフェンスに寄せられる状況がありました。
東京Vがゲームを支配しつついくつかチャンスを作るものの、得点には至らず。0−0でハーフタイムへ。

ピッチの中央が開く時間

札幌は後半から、スパチョークに代えて菅が入りました。菅を左WBに置き、青木が1列前のポジションを担います。
札幌はこの変更と同時に、東京Vの5-4ブロックの手前のエリアでのプレーを増やすことを確認していたようです。左サイドの山田の周辺に菅、大﨑、パク・ミンギュを配置して、パスワークで宮原のサポートを引き出すと、より高い位置で青木のキープ、さらにその背後へ鈴木がランニングすることで東京Vのバックラインの突破を図ります。

しかし、東京Vを自陣に引き込んで裏へ素早く進入しようするプレーは、長いボールへのランニングや、中盤でのドリブルを使うため、空洞化した中盤でボールを失うリスクも大きくなります。いわゆるオープンな状況は、トランジションの場面で札幌のマンマークから逃れたい東京Vも同時に利する効果がありました。

53分、東京Vが先制します。東京V陣内で札幌の攻撃が終わりますが、札幌が即時奪回の意志を見せず、綱島、谷口が余裕をもってボールをコントロールする状況が生まれます。このとき大きく開いた中盤のスペースで、駒井は谷口に対して、大﨑は齋藤に対してほとんど制約をかけることができませんでした。
フリーの状況で谷口から齋藤へとボールが移動すると、馬場が山見のマークを捨てて齋藤へアプローチ。この時点で札幌は自らマンマークの関係を壊すことになりました。

馬場を引きつける形になった齋藤が、その背後でフリーになった山見へパスを送ると、札幌のマンマークのズレの連鎖は大きくなっていきます。岡村が木村のマークを捨てて山見へ、それを見たパク・ミンギュが山田を捨てて木村へ向かい、最終的にペナルティーエリア内で山田にディフェンダーが誰もついていない状況が生まれます。

菅野のスライディングによって一度は攻撃が途切れルーズボールになったものの、それを拾ったのはフリーの山田。余裕をもってスペースへコントロールし、ゴールへ流し込みました。東京Vが0−1とします。

ビハインドになった札幌ですが、後半開始時点からゲームの流動性を高める選択を自らしている状況で、東京Vがさらにリスクを避けるようになると、有効な手がありません。64分にはボールコントロールに長けた青木と大﨑を下げて前線にアマドゥ・バカヨコ、ジョルディ・サンチェスを入れ、プロセスを省略しつつゴールに直接迫ろうとします。
一方の東京Vはトランジションの場面でハードワークが必要な2列目の山田と山見を松村、染野に交代し、守備とカウンターの強度を維持。さらにオープンになっていくゲームに備えます。

ゴール前へ短絡する札幌のプレーはそれほど効果を挙げることができまぜん。クロスの起点と終点での個人的なぶつかりあいが続き、ファウルやクリアによるボールアウトでゲームが止まりがちになっていきました。札幌は70分に岡村を前線に置く変更を行い、さらに直接ゴールを目指す姿勢を強めますが、大きく状況を変えることはできず。リードする東京Vは時折カウンターを発動しながら、着実に時間を進めます。

96分には東京Vが追加点を挙げます。自陣ゴール前のこぼれ球を拾い、前がかりになった札幌の背後に空く広大なスペースをチアゴ・アウベスと松村の2人のパス交換で運びます。最後はチアゴ・アウベスが菅野との1on1を制してゴール。そのまま東京Vが危なげなく守り切り、0−2で勝利しました。

感想

城福監督は6月のゲームでも2トップの想定を外して札幌の守備を混乱させたりしていましたが、今回もプラン勝ちをしたと言えそうです。今シーズン、札幌が東京Vのディフェンスを組織的に攻略できていたのは、180分のうち(6月のゲームの後半開始)15分くらいだったのではないでしょうか。攻撃面でほとんど東京Vの脅威になることができず、2ゲーム続けての完敗です。

大﨑選手の加入によるビルドアップの改善は、このゲームに関してはその機会そのものがなかった、ということになると思います。大﨑選手個人のパフォーマンスはこのゲームにおいてもいつも通りだったと思いますが、東京Vは、札幌の自陣のプレーをまるごと無視するプランを持っていました。対面の木村選手ひとりに対して3人で運ぶことは、大﨑選手がいなくてもそれほど難しくない、というよりは、5−4ブロックのところまでどうぞ運んでくださいという誘いに、そのまま乗ってしまったと言えるでしょう。
札幌がその誘いに乗らない、という意志を見せたのはハーフタイムを超えてからようやくです。後半の開始から10分くらいは、左サイドの低いエリアで札幌がボールを扱う場面があり、大﨑選手をそこで活かそうとする様子が見えましたが、それも結局は長いボールを蹴るための準備で、ブロックを崩しにかかっているとは言えないものでした。ディフェンダーに二度追いを強いたり、チーム全体で押し上げて、ラストパスを提供するようなエリアまで中盤の選手を移動させるような時間は、札幌が自ら捨てていました。

強いて言えば、東京Vがときどきプレスに出てくるわずかなタイミングこそ、中盤にスペースがあってディフェンスを裏返すチャンスだったわけですが、そのとき大﨑選手はサイドの深い位置にいて、チームとしてもビルドアップをしようという意志が持てていなかったように見えます。
その結果待っていたのは、中盤で自由にしてはいけない東京Vのプレイヤーにプレーされての失点です。森田選手にはなんとか数字に直結する仕事をされずに済みましたが、オープンになった中盤で齋藤選手とチアゴ・アウベス選手に圧力を届けられず、得点を演出されています。

相手チームのディフェンスに苦しみ、攻撃で成果が挙げられないうちにマンマークの隙が見えて失点、というパターンは今シーズン前半の札幌の典型のような姿です。大﨑選手やパク・ミンギュ選手の加入と、岡村選手や髙尾選手のコンディションの向上で改善したチーム力の上積みは、プレスで札幌を押し込もうとするチームに対しては、それを押し返す力として最近のゲームで発揮されるようになってきました。
一方、東京Vは(川崎などと違って)中盤の押し合いを回避するという意味で、そういった上積みが通用しない相手でした。押し合ってもらえず、引いてオープンな状況を待たれてしまったために、元々苦手としていたシチュエーションに追い込まれてしまった、というゲームだったように思います。
個人的には、押し合いをしたくないチームにボールを押しつけて、引きつけた上で背後を狙ったり、引くと思わせておいてビルドアップで押し込んで動揺させたり、というような、相手チームにとって不本意なプランを見るのが好きですし、J1に残るために後がない状況であればなおさらなのですが。東京Vの思うつぼという感じの時間が続いてしまい、残念でした。おわり。

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