沼に堕ちる

 アイドルでありながら俳優でも活躍する方を韓国では演技ドルというらしい。先日、演技ドルと言われる方のファンミーティングに行ってきた。
東京1回、大阪2回の計3回。スゴッ。

介護休職中で無給の分際でありながらなんと奢侈なことよ。

 ファンミーティングのお方はアイドルグループSF9(エスエフナイン)のメンバーで俳優の“RO WOON(ロウン)”さん。
彼の出演している作品を見て素敵だなとちょっぴり惹かれ、出演作を次々と消化した後は、少しでも情報を知りたくて、youtubeをむさぼるという有様。

「沼にはまる」って絶妙なネーミングだ。

 子供の頃、雨上がりの田んぼのぬかるみに好奇心で長靴の足をちょっとだけ突っ込んだら、抜け出せずに転んで尻もちをついたことがある。焦れば焦るほどぬかるみに足をとられ、赤いランドセルも、片手に持っていた黄色い傘も、お気に入りのピンク色のキティちゃんの長靴も、もちろんその時着ていた洋服も泥まみれになった。お気に入りのキティちゃんの長靴は、内側まで泥が入り込み、繊維に入り込んだ茶色は何度洗っても取れなくてがっかりした。半べそをかきながら母に八つ当たりをしたら、母は「あなたの軽率な行動のせいだ」と言った。当たり前だ。その時、私は好奇心で泥に足を入れたことを猛烈に後悔した。もう二度とこんなことはしないと思った。

 介護で大阪に滞在している日程と、大阪で開催される彼のファンミーティングの追加公演が、ばっちりと重なっていることを知ったある日、私は勢いにまかせ、昼夜公演のチケットを買っていた。後日、クレジットカードの請求金額を見て「無給の分際で一体何を」と後悔と反省を繰り返した。SNSから続々と流れてくる彼への熱い思いを綴るTLは、逆に私を冷静にさせた。2公演はやりすぎだよなぁ。せめて1公演だけにすればよかったなぁ。と後悔の念に拍車をかけていた。

 東京公演から2週間ぶりに大阪公演に登場した彼は、初回公演で見た緊張の面持ちとは別人で、頭の上で大きなハートを作る仕草を連発したり、自由に水を飲んだり、短期間の日本滞在で日本語の語彙も増え、終始リラックスした様子に見えた。

 無事に昼夜公演を見届け、その日のことを思い返しながら帰路についた。
彼が歌った曲、彼が話した言葉、彼が流した涙。
電車の中、忘れないように頭の中で何度も反芻しインプットした。
ふと、顔を上げて回りを辺りを見渡すと、そこは見知らぬ駅だった。
どうやら反対方向の電車に乗ってたみたいだ。それも30分以上。
慌てて引き返し、なんとか当日中に自宅に着いた。醜態。
その夜、出待ちしたファンが、彼が車から顔を出し手を振っている様子の動画を投稿しているのを見つけ、出待ちしなかった自分を悔んでた。

私は作品を見たことを猛烈に後悔すべきなのだろうか?

 好奇心は人の心を惑わせる。
まぁいいや。もうしばらくはこの沼に浸かっていよう。
生温かくて案外気持ちいいものだ。


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