黄色いワンピース

*性被害描写が含まれます。フラッシュバックなどの心配がある方はご注意ください。

このニュースを読んで、思い出した出来事がある。
正確には忘れていた訳ではないのだけど、あまり深く考えないようにしていた記憶。
それを、頭と心が思い出そうとしてしまう。
これもフラッシュバックというのかな。
ちょうど「彼女は頭が悪いから」(姫野カオルコ著)を読み終えたばかりだった。
ちょうどフジテレビの一連の問題も話題になっていた。
性暴力被害、性加害について考えていた時にこのニュースを読んだ。

「殺すぞ」
で記憶の蓋が開いた。
私も言われたことがある。
43年くらい前。
確か小学校3年か4年の時。
おそらく私が一番最初に遭った性被害。
あの日、私は黄色いワンピースを着ていた。
放課後だったのか、日曜日だったのか分からないがまだ明るかった。
小学校の友だち数人と校庭で遊んでいた。校庭に私たちの他に人はいなかったように思う。
若い男の人がやってきて「いっしょに遊ぼう」と言った。年齢は15〜20代前半くらい?よく覚えてはいないが「大人と子どもの間くらい」の印象がある。
背が大きくて、体格が良かった。
私たちはちょっとびっくりしたし、あまり乗り気ではなかったけど「大人と子どもの間くらい」に見えたし、断るのも悪いような気がして「いいよー」と言った。
どんな遊びをしたのかはよく覚えていないが、何かの流れで男が私を抱き上げた。
「抱っこしてあげる」とか言われた気がする。
(抱っこ…?)と思う間もなく抱き上げられた。
なんだか恥ずかしかったけれど、嫌な顔をするのも悪い気がして嫌な感じを誤魔化すように笑った。
「つかまっちゃったー」という感じで笑った。
身をよじって降りようとしたら強い力で押さえ込まれた。
着ていたワンピースの裾をまくり上げられ、下着に手を入れられた。同時に耳元で「殺すぞ」と言われた。
耳元で囁かれたので他の子どもたちには聴こえていなかったと思う。ただじゃれているように見えたかもしれない。
相手は何の凶器も持っていなかったが、体は大きく力が強かった。何より、「大人の人に殺すぞと言われた」恐怖で動けなくなった。
そこからどうやって逃れたのかは覚えていない。
親には話したが、どんなふうに話したか覚えていない。
親から学校に報告され、見回りが強化されることになったが、学校から話を聞かれたかどうかもよく覚えていない。
ただただ恥ずかしかった。
誰からも「お前が悪い」とは言われていないのに、自分が悪いのだと思った。
あんな格好をしてたから、抱き上げられた時笑ったから。
あの日、私は黄色いワンピースを着ていた。
私は他の子と比べて背が高く体格が大人びていた。
ワンピースは黄色と白の格子柄で体にフィットするデザインだった。
お母さんが子どもの頃おばあちゃんに作ってもらった、お下がり。
半袖で、膝上丈の。
「あんな格好してたから」
誰かに言われたのか、自分で勝手に思ったのか分からない。ただただそれが悲しかった。
おばあちゃんがお母さんに作ってくれたワンピースなのに
お母さんのお下がりのワンピースなのに
お気に入りのワンピースだったのに

それからあのワンピースを着ることはなかった。
恥ずかしいから、自分が悪いから、詳しく話すこともしなかった。
よくあることなんだ、こういうことはよくあることなんだと考えるようにした。大したことじゃない。世の中にもっと酷いことはいっぱいあるんだし。
ずっとそう思っていた。

今、記憶の蓋を開けてもう一度覗いてみると、小学生の私は黄色いワンピースが好きで、でも嫌いで、それが悲しくて、そして自分が悪いと思ったままだった。
私が自分の体の発育に無頓着で、あんな体にぴったりしたワンピースを着てたから。
あの大きな男に愛想笑いをしたから。うまくかわせなかったから。

なんだこれ、性被害を受けた人の心理そのものじゃないか。あんなに子どもだったのに。
大人になった今振り返っているから、今の目線でモノを考えているところはあると思う。
でも、あの時出来なかった、あの時の気持ちを言語化するとこうなるのだ。

性犯罪というのはこのようにとてもとても表面化しにくいものだ。被害者は自分を責める。人に話すことを躊躇する。
言語化出来るまでに長い時間を要することも多い。
今、これを書いている間もずっと吐き気と頭痛を感じている。
けれども、このままだともっと気持ち悪いから、書くことにした。

「なんでこんなに時間が経ってから言うんだ」
「すぐ警察に行けばよかったのに」
「被害者にも落ち度があったのでは」
「ハニトラ」「売名」
性被害の訴えが起こると無数に噴き上がるこうした言葉を、二次加害を目にする度に形容し難い憤りを感じていた。

痴漢冤罪やハニトラは実際にあることも知っています。
でも、同時に世の中には表面化しない無数の性犯罪がずっとずっと起こり続けていることも事実です。
性暴力被害者の傷と心理について、少しでも理解が深まることを願います。
ここまで書くまでに何度も「私の受けた被害は小さなものだけど」と書こうとしてやめました。どうしてもそう思おうとする心理が働くけれど、きっとそうではない。

私は箱の中にいる小学生の私の肩を掴んで「あんたは絶対悪くない、絶対だ!」と言い聞かせることにします。

全ての性加害に鉄拳を。

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