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音楽の親切すぎる効果について

先日、久しぶりに近所の某しゃぶしゃぶバイキングへいったら、店内の様相がだいぶ変わっていた。
コロナ対策はまあ当然として、気になるのは、店内を動き回る猫だ。

猫といっても私が頻繁に写真を撮りためてしまうあの世にもかわいい生き物ではなく、配膳用猫型ロボットのこと。
猫型、なんて書いたものの、実際は遠隔操作で動く配膳カートに▲の耳をつけ、上部の画面に猫の顔が表示されているだけのもので、尻尾もなければ喉を鳴らすこともない。カート移動時、申し訳程度にニャーと言ったりしたかどうか……つまりはただと猫風に見せているだけの動く棚なんだけど。
問題は、その猫が常に音楽を鳴らしていることだ。
これがまあ、気が散るったらない。

音楽が近づいてきたらそろそろお肉も届きますよ、ってことなんだろう。けど、同じ曲をひたすらくり返しながら横を行ったりきたりするので、自然と会話は止まり(コロナだから喋らんでくれってことかな?)、代わりに固定されたメロディが耳にこびりつく。
ああいやだ。かつて居心地良かった店の変貌にブチブチ文句を言いたい気持ち。だけどやがてその環境にも慣れ「これはどういう意図でこのメロディにしたのか?」と考え出すと、ちょっと面白くなってきた。
とりわけ、カート到着時の音楽のほうだ。

音楽は二種類あって、移動時はまあ~のんきというか、猫がるんたるんたと下町の路地を散歩でもしてるような音楽。それがいざテーブルの横につき、客が皿を取る段になると、やたらに爽やかなポジティブムード溢れる音楽に変わる。
良いんだけど。
だけどさ。
肉のお皿を取るだけなのよ?

さあお肉どうぞ!というのが確かに前向きで喜ばしいことだというのはわかるんだけど、なんというか、その度合いがかみあってない。
この音楽を聴いてイメージするのは、

ついに建てた、俺たちのマイホーム……
庭付き一戸建て、二世帯仕様の6LDK。
「パパ、早く早くう!」
広い芝生の上を子どもたちが駆け回る……
妻と僕は堅く手を握り合う。
ずっと憧れていた夢の暮らしが、今、始まるーー

こんなかんじ。
肉が届くだけで、こんな感じ。食べ放題だから何回も、マイホーム。
その多幸感……

いる?

でもきっと執筆の疲れで頭がやられてたのでしょう、のんきな下町散歩から過剰な歓喜ムードに変わる瞬間が徐々に笑えてきて、しまいには皿が来るたびに小躍りして笑った。
いや、こんな笑いいらないのだけど。
壮大な夢じゃなく、普通にしゃぶしゃぶが食べたい。

音楽っていうのは本当に、良くも悪くも人の心に作用するのだなあと思う。
それでいうと、昨日みたワイドショーもそうだ。

タレントのコロナ感染を伝えるニュースの際に、めちゃくちゃ陰鬱な音楽が流れていたのだけど、いまだにこれ?となんか、びっくりしてしまった。
しかもそれは、タレントさんが深刻な病状にある……と(いうわけでもなさそうなのに)悲壮な音楽が誇張しているのとも違う。どちらかというと「タレントの○○さん、わいせつ罪で逮捕」とか「暴力団組織との関与が疑われ……」というような、まがまがしい系の音楽である。
コロナに罹ったら悪いことをしたのだとでもいうイメージ?
を、いまだにやっている?
配信ものばかり観るようになり、地上波のテレビを全然つけなくなって久しいが、コロナ禍になって二年もたつというのに、お茶の間ではまだこんな方向づけがされているのかと、改めて驚いたし、ちょっと怖くなった。

音楽効果が過剰にイメージを教えてくれすぎて、なんというか「親切すぎ!」というのは、近ごろどこでも感じることだ。
だからTik Tokなんかもちょっと苦手だし、私が先日このnoteでグチグチと文句をたれたSATC新章「And Just Like That...」に対して抱く違和感もまさにこれだと思った。(しつこくてすいません!)

かつてのSATCは使用される音楽が選曲も演出もとにかく抜群だった。これ、という瞬間にかかる音楽がドラマに強力なドライヴ感を与え、各回ごとのテーマを補填して豊かに彩った。
ところがこの4回見てきた新章は、これぞというときにバーン!粋なミュージック!というものが少ないかわりに、とにかく心証に即したゆるいBGMを俳優の演技にかぶせており、それがやけに説明的で、あまりにも普通のテレビドラマにしてしまっている。
そんなさみしいピアノ音楽かけなくても充分キャリーの気持ち伝わるよ!
ご親切にこちらの想像の余白を埋めてくれ、誰が見ても心情がわかるようにしてくれることが、独自の色彩を欠くだけでなく、俳優の見た目より何より老いた気持ちにさせられる。

音楽ってほんとに凄い。
人の気持ちを上げも下げもするし、元気にも弱らせもする。音楽はどこまでも世界を広げてくれるし、だからこそ限定的な方向づけもする。
何でもない音楽なんて、ないのかもなあ。
だから、過剰に親切な音楽効果に慣らされていきそうになったら、あの猫型配膳ロボットを思い出すことにする。
それにしても……「肉出すのにちょうどいい曲」って何だろうね?

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知らんがニャー

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