1月2日 辛抱たまらず
辛抱強さというものは、年々目減りしていくのだろうか。
むしろ歳をとるごとに、いろいろなことを耐え、飲み込み、やり過ごす知恵がつき、辛抱強くなっていくものだと若い頃は思っていたし、実際に舞台の稽古場などで実践的に実感することも多い。うまくいかずとも感情的に声を荒げたりすることは、昔に比べて格段に減った(……自分なりには)。
だがしかし、執筆に向かう集中力に関しては、音を上げる頻度が確実に上がっている気がする。辛抱強くパソコンの前に向き続けることが出来ない。昔から、描けないとドラマティックに泣きわめき、比喩でなく壁に頭を打ち付けたりするようなところがあった。けれど、今はその泣きにさえ体力を奪われたくなく、都合良く(結果的には悪いのだが)猛烈な睡魔がさらいに来てくれたり、著名な文化人たちが「書けないときはあえて書かない」などと言ってるコメントをネットで拾い集めては、自分とは抱えてるハードルが巨木と竹馬レベルで違う偉人の言葉を盾に、私も書けないときは無理しなくていいんだ、などとひとりごち、ひたすら竜の卵をふ化してマージするだけの何が面白いのか自分でもわからぬスマホゲームで時間を溶かしたりする。
今は正月の二日目、台本がまだちっとも進まず、焦るのに辛抱できず、夕べも二本映画を見た。一本は入江雅人さんにお勧めしてもらった「遊星からの物体X」で、南極でグロい怪物と対峙するSFスリラー。元旦に見るべき映画なのか以前に、今さら見るのかという感じだけど、アクションバトル映画かと思いきや意外にも、怪物が潜む閉ざされた地で、疑心暗鬼に囚われた仲間内の心理戦がメインの傑作だった。こんなに面白い映画だったのか。
カート・ラッセルといや「潮風のいたずら」(ロブ・マーシャルのなかで唯一好きな映画)くらいしか代表作が思い浮かばなかった私。今まで知らずにすみませんでした。目がキレイな人だなあ。
その後に見たのは、まったく趣の異なる日本映画。これに関してはまた別の機会にかけたらと思うけど、噂に違わぬ素晴らしい映画で、後三時間四時間これを見ていられないかと終わりを惜しみながら観た。涙を流して感動する傍らで自分が台本を描けていないこと(しかも今こうして怠けていること)に深く落ち込み、だらしない落ち込みの涙も流れた。そのくせ映画の世界と離れがたく、すぐにKindleで監督が執筆したエッセイを購入して読み、私とさして年の違わぬ監督の、誠実で情熱的なお仕事ぶり、それでいて暖かな人間味とユーモラスな文体に感嘆した。自分の怠惰が浮き彫りになってやっぱり落ち込む(まるで趣味のようにスナック感覚で落ち込んでいるのもダサい)のだけど、抱えておられることのレベルの違いは重々承知しつつも、著者である監督の悩みや葛藤に親しみをおぼえずにはおられず、また軽やかな筆致に素直な憧れの風が吹き、影響を受けやすい私は背中を押されるような気持ちでこれを書いている。
いや、ここで背中を押されたなら今書くのは脚本でしょう、まずそこでしょう。もちろんわかっている。よおおっくわかっている。これもまた、竜の卵をふ化する作業と変わらないと言われたら、こうべを垂れるしかない。
だけど実は昨年から、来年になったら何でもいいからこのnoteに文章を書こうということは決めていた。日記なのか、エッセイなのか、コラムなのか、何ともつかない戯れ言でも良いから、とにかく自分の心境、環境、思いついては流され消えていくつれづれなることを、習慣的に書いていきたいと思っていた。140文字のツイートに矮小化したり、コラムで小ぎれいにまとめたりすることが自分の中で常態化していることに、私自身がほとほといやになっていたからだ。
うまく書けなくても良いから。
やまなし、おちなし、いみなしでもいいから。
思いついたことを書きたい。
……と思いながら、最近の私は、ブログやnoteひとつあげるのも辛抱が足らず、書こうと思ったはしから億劫になりやめてしまうということが続いていた。ゆえに三行ほど書いて、酷いときはタイトルしか書かずにやめてしまった下書きがこのnoteに山ほどある。
どこで思い上がったのか、いや、やっぱり単に胆力がなかったのだろうけど、お仕事の依頼で頼まれた時以外、いわゆるお金にならない書きごとを、ちっともしなくなっていた。
昔はお金にならないことが前提で、読み手さえいない荒涼とした地にも(たとえば別アカウントでひっそり作ったmixiとか)、落書きレベルでところ構わず書き散らしていたのに。
なので、来年からはとにかく思いついたら何でも書こうと決め、年の節目にやりたかったから、11月頃にそう思い付いても書かずにいたら、年をまたいでその決意をすっかり忘れており、今は1月2日である。
相変わらずの中途半端さ。
しかも台本を書けてないないのだからよしなしごとを書く権利などない!……ともうひとりの自分が叱咤しているので、これはきっと台本が上がるまで公開しない。
王様の耳はロバの耳と叫びたい人が彫った穴ぼこのごとしだ。
でも、それでちょうどいい気がする。
俗人である私は、すぐに「いいね」とか、これで案件来たらどうする?(来ねえよ!)……などといういやらしい欲に踊らされてしまうから、誰もいないところでひっそり書きはじめるのがいい。
あ、これもまた「書き初め」というやつか、と今思った。
というわけで、これが三日坊主にならないと良いなと思いつつ、私の背中を押してくださったエッセイの著者に一礼して書き初めを終わります。
(台本も頑張ります。)
西川美和監督、ありがとうございました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?