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「聴くだけで自分の精神が別の世界に連れて行かれるような体験がしたい」――男女4人組バンド「Gokigenyo」が1stアルバム『kai』を語る
音楽の持つ本質的な魂を追求する男女4人組バンド「Gokigenyo」が、
11月6日(水)に1stアルバム『kai』をCDでリリースする。
彼らは重厚なビートを軸に据え、音楽ジャンルの枠組みにとらわれないアプローチで、有機的なリズムとハーモニーを紡ぎ出している。yuky(Vo.)の柔和で芯の通ったボーカルと、副島祥吾(Gt.)、Shakezoe(Ba.)、前田ヒロシ(Dr.)の3人の楽器隊による熱気溢れる没入感のあるサウンドが作り出す世界観で、聴く者の精神を「非日常の新地平」へと誘う。
2020年代にサイケデリックを求める4人に、曲作りの裏側にある世界について語ってもらった。(聞き手:千駄木雄大)
Interview
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◾️メンバー4人を引き寄せた人物とは?
――4人は同じ高校の部活や大学のサークル出身者同士ではありません。それぞれ出自は違いますが、音楽の方向性が同じだったことから、今があると思うのですが、まずはバンド結成の経緯を教えてください。
前田ヒロシ(以下、前田) 西荻窪にあるBAR Bitchという飲み屋で長身の男とたまたま隣になったんです。名前はナカゾノ君。みんなからゾノと呼ばれていました。彼はマスターに「バンドをやりたいんだけど、ドラムがいない」と話していたんです。そこで、マスターからの紹介と酒の勢いもあって、僕がドラムをやることになりました。
ほかのメンバーも寄せ集めで当初、「ベーシストには眉毛がなくて便所サンダルを履いた奴が来る」と聞かされていたのですが、実際に来たのは、長髪でヒッピーみたいな風貌で、オレンジ色のベースを持った奴でした。それが、僕たちの前身のバンドのヴォーカルになるリュウキ君です。
――当時のバンドのアーティスト写真を見ているのですが、なかなかクセが強いですね。
前田 その彼とゾノ君を含めて、3カ月は活動していたのですが、リュウキ君が「俺はギターを弾きたい」と言い出して脱退。バンドも自然消滅しました。同時期にリュウキ君はインターネットを通じてギターの副島祥吾(以下しょう君)と知り合います。2人は意気投合してバンドを始めることになりましたが、ドラマーがいない。そこで、リュウキくんが僕を推薦してくれたんです。
――前田さんとShakezoeさんは同じ大学出身ということですが、当時から面識はあったのでしょうか?
Shakezoe 面識はありましたが別々の軽音サークルに所属していたため、バンドで一緒に演奏することはほとんどなかったですね。
前田 ただ、大学を卒業してから共通の知り合いに誘われて、それぞれが違うバンドで一緒の企画に出演することになったんです。そこで、リュウキ君、しょう君、Shakezoeが初めて出会います。そして、打ち上げで意気投合したのをきっかけにShakezoeが正式加入して、「月のマドロス」が結成されます。
――これが前身バンドに当たるのですね。
前田 そこから1年間ほど活動しましたが、2022年5月のライブ後に突然、リュウキ君が脱退。翌月にもライブは控えていたにも関わらずです……。出演するかどうか迷った結果、リュウキ君の知り合いで歌声が素晴らしかったyukyちゃんを、新たなヴォーカリストとして迎え入れることにしました。これが「Gokigenyo」の始まりです。
――そのライブまで練習期間は2週間ほどしかなかったとのことですが、間に合ったんですか?
副島祥吾(以下、副島) 新しいバンドのオリジナル曲が欲しいと思って、『kai』にも収録している「陽気に揺れる」という曲の原型を急いで作り、しゃけくん(Shakezoe)も一曲用意してくれました。それに月のマドロスの頃の曲を合わせて何とか30分やり切ることができました。ボーカルのyukyちゃんは加入したばかりで大変だったかもしれません。当の本人はどう思っているのかな?
yuky ガチガチだったじゃん(笑)。声もブルブルで歌えたものではなかったです。わたしは軽音サークルに所属したこともなく、音楽活動はこのバンドが初めてだったので「みなさん、よく耐えてくれました」という気持ちでした。
――通常ならそこで出演を辞めるか自然消滅しそうなところを、yukyさんの加入で新たな発展につながったわけですね。
副島 月のマドロスにいた3人がこのまま解散するのは、もったいないと思ったんです。そして、この中に歌の上手い人が加われば、素晴らしいバンドができると確信していました。そこにyukyちゃんが入ってくれたため、本当にいい方向に転がったと思います。
◾️「天国と地獄」が感じられる音楽を目指す
――70年代のUSロックな曲調、そこにyukyさんの日本語の歌詞が乗ることでサイケデリックな雰囲気を漂わせているのが、Gokigenyoの特徴だと思います。バンドのコンセプトはどういったものなのでしょうか?
副島 僕は「天国」や「地獄」を感じられるような、日常の世界を超えて別の場所に行けるような音楽が好きなんです。例えば、マリア・マルダーの「真夜中のオアシス」、マイルス・デイヴィスのライブアルバムに『Live Evil』というものがあるのですが、この世のものとは思えない演奏です。
ほかにも、Grateful Deadの『Live/Dead』というアルバムは、「Dark Star」の20分以上の混沌としたジャムから始まり、やがて「St. Stephen」という曲の印象的なギターリフが入ってきます。その瞬間、まるで暗い霧の中に眩しい光が差し込むような感じがするんです。
僕は音楽を聴くだけで自分の精神が別の世界に連れて行かれるような体験がしたいんです。そして、このバンドではそんな音楽を再現したいと思っています。それが一貫したコンセプトです。
Shakezoe 僕もしょう君が語る「天国と地獄」という部分に共感するところがあって、「日常からの解放」や「精神的な自由さ」を表現したいと思っています。
前田 実は「天国と地獄」というコンセプトは最近知りました。しょう君が昔からこういう言葉を使っていたのは分かっていましたが、自分としてはあまり意識していませんでした。むしろ、僕はドラマーとして2人が奏でる音をより良くしたいという気持ちが強かったですね。
――急に結成が決まったようですが、yukyさんの心境はどうだったかお聞きしたいです。
yuky どちらかといえば、わたしは目立ちたがり屋で、なにかを表現したいという気持ちは昔からありました。もともと、絵を描いたり、演劇をやっていましたが、どれも長続きしなかったんです。「自分には向いていないのかな」と思うことが多かったのですが、それでも、音楽に関しては「ちょっとやってみたいな」という気持ちがあり、そのタイミングでこのバンドに誘われたんです。
――yukyさんはメンバーの中だと後輩になりますが、この3人の雰囲気はどうですか?
yuky それでも3人の関係はとてもユルく、ご機嫌な雰囲気で接してくれて、一緒にいてくれるため、今日まで続けて来られたのかなと思います。だから、加入したのもなにか特別な決め手があったというよりは、「自然と続いている」という表現が正しいですね。音楽経験がほとんどない状態で始めたため、みんなが師匠のような存在で「付いていきます!」という気持ちが強いです。ずっと、大学1年生が4年生を見ているような感覚が続いている感じですね。
――寄せ集めのメンバーといっては失礼ですが、何年も一緒にいたわけではないことも、うまくまとまっているひとつの要因なのでしょうね。
前田 いや、振り返ってみると、リュウキ君が僕たちを引き合わせた存在でした。すべてはBAR Bitchでゾノと出会い、そこからリュウキ君、そしてほかのメンバーとのつながりが生まれたのです。この偶然の連続が、今のGokigenyoをかたち作っています。
◾️『kai』に込められた同音異義語
――11月6日(水)に発売される1stアルバム『kai』について教えてください。土の匂いのするチャンキーなバンドアンサンブル際立つ「日和見」、ムーディーな白昼のサイケ「夢の中」、ブルージーな進行からギターに支配されるような壮大な展開を見せるクロージング「眩暈」など、陽光の中を漂うようなサイケデリアを感じさせる8曲が収録されています。本作のタイトル名の由来はなんでしょうか?
副島 「kai」という言葉は、同音異義語として色々な意味を含んでいます。例えばこのアルバムを通して表現したい様々な「世界や領域およびその境」という意味での「界(かい)」や、自分たちの内向的な性格を表す「貝(かい)」のような殻に包まれたイメージ、それと音楽には欠かせない快楽の「快(かい)」という意味も込められています。また、漢字を使わず、ローマ字の「kai」にすることで、聴く側にとっての『kai』を自由に想像してもらい、それぞれの感じ方でこのアルバムを楽しんでもらいたいと思っています。この言葉は非常に柔軟で、自分たちの性格や楽曲のイメージ、そしてリスナーに伝えたいことを象徴しているんです。
――今回のアルバムの世界観を作り出す、歌詞はどのようにして書かれたのでしょうか?
yuky 歌詞づくりでは「映画のような」描き方を意識しています。そして、曲を作るときには、「こうしたくない」という共通認識がありました。それは「感情を直接伝えるのは避けたい」ということです。安直に「今、こう感じているんだ!」という気持ちをそのまま文字にするのは単に事実の羅列になってしまってつまらないんです。
――直接過ぎると「青春パンク」っぽくなってしまい、Gokigenyoの目指している世界観からは異なりますからね。
yuky そこから自然と考えが深まっていきました。例えば、なにかを感じたとき、その情景を思い浮かべることになりますよね。情景描写というのは、ただの写実的な描写ではなく、感情が乗っているからこそ、特別なものになる……。これは、しょう君とも共有している考え方です。わたしは、なにかを見たときや感じたとき、それをどう表現するかを日々意識していて、そして、それは生活に根ざしていることが多いです。考えごとをしたり、なにかを感じたりするのは、電車に乗っているとき、仕事帰りにひとりで夜道を歩いているとき……。そうした日常の中でふと歌詞が思い浮かんできます。
副島 僕はスタンリー・キューブリック監督の作品が大好きで、「言い過ぎていないが、すべてしっかりと伝わる」という作風にとても惹かれます。ときに観客にすべての解釈を委ねるという表現は無責任に感じることもありますが、キューブリックの作品の場合はそのようなことがなく、言い過ぎていないのにしっかり伝わるんです。そして、説明しすぎないことで観客は映画の中の当事者になったようにその世界に没入できるんだと思います。僕が歌詞を考える時にはキューブリックの映画のように、聴く人がその世界に入り込めるように、情景描写や言葉の選び方には慎重になって取り組んでいます。もちろん、言葉の持つ音やリズムそのものも大事なので、語感とサウンドの調和も重視しています。
――サウンド面でいうと、ギターのサイケデリック感とドラムのスネアの音作りとタメも特徴的ですが。ベースは大事なポイントを一つひとつ押さえていく感じですね。ファンキーながら余計なことは極力省いて、本当に必要な部分を意識して演奏しているように聴こえます。やっぱり、どの曲でもファンキーさは大事にされたのでしょうか?
Shakezoe これまでさまざまなバンドに在籍してきましたが、どのバンドでも意識していたのは、「いかにシンプルに説得力のある音を作るか」ということです。これは一貫して共通していることで、シンプルさが持つ力を大切にしていきたいんです。それと、最近はヒップホップをよく聴くようになり、トラックメイクの意識が自分のベースのフレーズや音の配置に影響を与えていると思います。今は音をどこに置くか、その配置を考えることが重要だと感じています。
◾️Gokigenyoの目指すサイケデリック
――「ごきげんよう」というユニークなバンド名と違って、曲全体は非常にサイケデリックですね。先ほどから頻出している「天国と地獄」というコンセプトは、どこから生まれたのでしょうか?
副島 僕は音楽活動以外では地質学の研究員をやっているんです。
――なるほど。そうしたバックボーンがあるのですね。
副島 自然科学というのは、物質の法則を理解し、「物質世界を極めるような領域」ですが、精神世界は科学では中々触れることができないものです。一方で、音楽は精神世界に直接触れられるものだと感じています。僕は科学では理解できない精神世界を音楽を通して向き合って、その誰もが持つ未知の世界を楽しみたいんです。そしてサイケデリックやジャズ、ブルースといった音楽は精神世界にもっとも近い存在だと思います。これらの音楽は、民族的なルーツに根ざしており、人々の気持ちを高揚させたり、感情に入り込む力を持っています。そういった精神的な部分と直接つながっている音楽が、僕の心を惹きつけるのです。
――そんな、副島さんにとってサイケデリックとは? そして、Gokigenyoの目指す先とは?
副島 エドガー・ヴァレーズという、100年前の電子音楽の先駆け的な作曲家がいるのですが、ピンク・フロイドの『狂気』のLPに付いていた帯に、彼の「音楽は音の有機物なり」という言葉が書かれていたんです。それは、とても素敵な表現だと思いました。
音楽というのは、単に個々の楽器があるだけではなく、それぞれの音が溶け合って、ひとつの複雑な有機体として存在するという感覚ですよね。
それってすごくサイケの感覚だなぁと思うんです。僕たちはバンドとしてこの感覚を重視していて、『kai』にもそれは反映されていると思います。また今後も、音楽がもつ本質的な魂を追求して、聴く人が非日常の世界に没入できるような音の有機物を構築していきたいです。
Gokigenyo
プロフィール
Gokigenyo(ごきげんよう)は音楽の持つ本質的な魂を追求する4人組。
重厚なビートを軸に据え、音楽ジャンルの枠組みに囚われないアプローチで、有機的なリズムとハーモニーを紡ぎ出す。柔和で芯の通ったボーカルと熱気溢れる楽器隊が創る没入感のあるサウンドと世界観で、聴く者の精神を非日常の新地平へと誘う。
*最新アルバム『Kai』*
![](https://assets.st-note.com/img/1730810949-7DRjW9b8BCErmTqFL2wMlNKP.jpg?width=1200)
STOCK NO:BRIR-010
ARTIST : Gokigenyo
TITLE : Kai
FORMAT : CD
RELEASE :2024年11月6日(水)
PRICE:¥2,200(TAX IN)
【Track List】
1.朝
2.めざめ
3.何処かへ
4.日和見
5.陽気に揺れる
6.微睡のブルース
7.夢の中
8.眩暈