ある夜のできごと|乗り継ぎ駅
女性の恋は ”上書き保存” と言われます。
それに比べて男性は ”別名で保存” とのこと。
確かに、わが身を振り返れば頷けるので、あながち間違ってはいないようです。
それを ”未練” のひと言で片づけてしまえばいいのでしょうが、あまりにも淋しいと思ってしまうのは、男の性なのでしょう。
「やぁ、しばらく!このあたりで仕事かい?」
「ううん、桜通線に乗り換えなの。あなたは?」
「新しい企画の打ち合わせさ」
「相変わらず忙しいのね」
「『懲りてないわね』って聞こえるなぁ」
「心配してるだけよ」
「この前、加奈子からも同じことを言われた」
「あの子も、あなたのこと心配しているのよ」
「月に一度だけど、逢うたびに君に似てくるな」
「そうかしら、わたしはあなたに似てきたと思ってるわ」
「じゃぁ、心配でしょうがないだろ?」
「半分はわたしに似てるから丁度いいのよ」
「加奈子と話すようになって、やっと君のことが判るようになった気がする」
「わたしもよ。別れてからあなたの気持ちが判るようになったわ」
「別れてしまってから判っても仕方ないけどな」
「判らないまま一緒にいるよりはいいわ」
「私たちはまだ繋がってる部分があるってことかな」
「加奈子を通じてね」
「じゃあ、こんど三人で食事...」
「...」
「あっ、いや、悪かった」
「ごめんなさい、そろそろ行かなくちゃ」
「うん。加奈子には、今日逢ったことは?」
「地下鉄の乗り継ぎ駅で逢ったって話すわ」
「同じ線に乗ってきて、別の線に乗り換えたってかい?」
「ちょっと立ち話をしたって」
「そっか」
「じゃ、行くわ」
「うん、元気で」
「あなたも」
「さようなら」
「さようなら」
※ これはフィクションで【my Style】のお客様とは関係ありません。。。