いらないプライド
先日、深夜の混んでいる井の頭線でのこと。
たぶん肩か鞄がぶつかったとかそういう理由で、30代くらいの男性と60代半ばの男性が、ちょっと言い争いっぽくなったんですね。
そしたらその60代半ばのオジサンが突然「俺を誰だと思ってるんだ!」って大声を出したんです。
もちろんその周りの乗客はみんな「え、誰なんだろう?」と思って、そのオジサンの顔を見ました。僕もすかさず見たのですが、別に有名人ではありませんでした。
スーツではなくて、カジュアルなジャケットだったので、例えばどこかの教授とか、作家とか、建築家、あるいはもう定年退職していて、働いていた頃は有名な企業のお偉いさんとか、ちょっとした官僚だったのかもしれません。
まあとにかく「オマエらみたいな雑魚とは違うんだぞ!」という気持ちをブンブン振り回しています。
そこでその相手の30代の彼が「え、誰なんですか?」ってもし聞いてたりしたら、すごく面白い展開になってたとは思うのですが、さすがにそういうことにはなりませんでした。
でもその60代のオジサン、悲しいですよね。「ああ、とにかくこんな大人になってはダメだ」とすごくすごく自分をいましめました。
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大人になってくると本当に「全く必要のないプライド」のようなものが心の奥深いところに住み着き始めますよね。
「先生」って呼ばれ出したら、「先生」って言われないと「ちょっと気になってしまう」という話を聞いたことがあります。
別に呼ばれたくないけど、お医者さんとか教師とか代議士とか作家とかをやっていると「先生」って呼ばれてしまうそうなんです。
で、それが長年呼ばれ続けて普通になってしまうと、「林先生」って呼ばれずに「林くん」って突然呼ばれると、「え?」って気持ちがムクムクとわいてくるそうなんです。
うーん、わかりますわかります。そういうものですよね。
→もちろん「そんなことない。だいたい先生って呼ばれたくない。くんでもさんでも呼び捨てでも自分は大丈夫だ」って方、すごくたくさんいらっしゃると思います。ある「先生」に「聞いた話」ですので、怒らないで軽く流してくださいね。
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僕も反省しなければいけないことがありまして。
開店して10年くらいした頃のこと、bar bossaって例えば雑誌で渋谷特集があれば必ず掲載されるし、音楽が楽しめる飲食店特集があれば必ずお声がかかるし、僕も音楽ライターみたいなことをたくさんやり始めたし、「まあ、もちろん音楽業界や飲食業界周辺では「有名なお店」だと自負していたんです。
だから、お店以外の場所で「渋谷のbar bossaっていうボサノヴァとワインのバーをやっているんです」って自己紹介するとほとんどの方が「あ、そうなんですか。いやあ、有名ですよね」って言ってくれてたんですね。
それがある音楽業界関係者が集まるようなパーティで、すごくボサノヴァ好きという方がいて、僕のある友人が「じゃあ、bar bossaの林さん、紹介しますよ」みたいな感じで紹介してくれたんです。
そしたらその「自称ボサノヴァ好きさん」が「へえ、ボサノヴァがかかるバーなんてあるんですね」って仰ったんですね。
その時、僕はおもいっきり心の中で「ええ? うちのお店のことを知らないって本当にボサノヴァ好きなの? そうとうモグリだなあ」って思っちゃったんです。
すいません。その頃、すごくお店が忙しい時期で、本当に天狗になってたんです。
でもすぐに反省しました。
その方とちょっと話したら、すごく誠実で良い方だし、本当にすごくボサノヴァのことに詳しかったし、「うわあ、今度お店に行きますね」って目を輝かせて言ってくれたし、「あ、そうかあ。うちって結構有名だと思っていたけど、全然まだまだ知名度はないんだろうなあ。よーし、これからも頑張ろう」って思い直すきっかけになりました。
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いやあ、全く必要のないちっぽけなプライドってやっかないですよね。ほんと、そんなプライドなんてどこかに行ってほしいものです。
小さい自分、卒業したいものです。