請求権パターンというフィクション
はじめに
初めまして、「司法とうさぎ」と申します。「うさぎ」と呼んでください。予備校を全く使わずに京大ローを上位修了し、司法試験に一発合格しました。
今日は民法を勉強し始めの2年前くらいの自分に向けた記事を書こうと思います。
今日の話の結論はもう決まっていて、「いわゆる請求権パターンという考え方には部分的にフィクションが混じっていて、それが初学者を混乱させる要因である。」というものです。
導入
さて、民法を勉強し始めるとまず直面するのが「答案の書き方分からん…!」という悩みだろうと思います。現に2年前くらいの私も民法を勉強しながら同じような悩みを持っていました。
そこで「どうやったら民法の答案って書けるようになるのかな〜」と思いながら、色々なインターネットのサイトを漁ったり、予備校の市販の演習書とかを読んでいたのですが、ある時、私は「請求権パターン」という単語を見つけました。
司法試験予備校によって(?)提唱されている「請求権パターン」とは、大要以下のような考え方だろうと思っています。
Ⅰ:「請求権パターン」とは、私法上の請求権の存否を判断するという枠組の答案を書く際の思考の枠組み・答案の書き方である。
Ⅱ:まず、法律的主張を離れて、原告の生の主張というものを考える。
Ⅲ:それを法律的に根拠づけられる条文・法理を探す。
Ⅳ:当該の条文・法理について、要件を網羅しているのかを検討する。
Ⅴ:要件が充足している場合、条文に設定された効果が発生する。
Ⅵ:これに対する反論として、相手方の生の主張を想定する。
Ⅶ:その生の主張を法律的に根拠づけられる条文・法理を探す。
Ⅷ:以上の作業を決着が着くまで繰り返す。
当時の私は、「これだ!」と歓喜したのを覚えています。これで答案が書けるようになると思いました。これ以降、「請求権パターンで考える…請求権パターンで考える…」と念仏のように唱えながら、民法の演習をするようになりました。
けれど、その時の私はこれだけでは答案を書けるようにはなりませんでした。めでたしめでたし。
当時の私の気持ちを思い出すと、こんな気持ちだっただろうと思います。
「生の主張って言うけど、生の主張ってどうやったら思いつくの…?」
「とある予備校の市販の問題集で、「土地を返せ」というのが生の主張で、これを法律的に構成すると、“所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権“になるって書いてたけど、どう捏ねればそうなるの…?」
「相手方の反論ってどうやって探せばいいの…?」
かわいそうな悩みです。これらの悩みに今なら答えられます。そして、この悩みはあの頃の私が悪かったのではなくて、請求権パターンという考え方にフィクションが混じっていたからだということができます。
以下、順番にあの頃の私の疑問に答えていこうと思います。
「生の主張って言うけど、生の主張ってどうやったら思いつくの…?」
よくこう言われます。「生の主張とは、法律的な主張を離れた当事者の不服であるから、当事者がどういう点について不服を有しているのかという観点から生の主張を考えていけばいい。」
今でもこれが全て嘘だとは思いませんし、全くもって正しいことを言っているとは思います。けれど、これだと初学者は答案を書けるようにはなりません。
むしろ、暗記した訴訟物と当事者の不満の目線の往復運動をすることによって、生の主張を発見すべきであろうと思います。
敷衍しますと、民法(注:財産法)で叶えられる主張というのは高々知れています。お金を寄越せ、物を返せ程度のものです。そうすると、拡散してしまいがちな当事者の不満から思考をスタートさせるのではなくて、既存の法律的なメニューの中から当事者の不満を一応掬い上げられる訴訟物は何だろうかという観点から訴訟物を選択する。これが生の主張を考えるということの意味だろうということです。
不法行為の事案であれば、真っ先に飛びつくのは、訴訟物選択として、不法行為に基づく損害賠償請求権、条文は709条です。被害者はきっと謝って欲しいだろうなぁとか考えていても仕方ありません。そんなものは法律的に叶えられないのですから。
乱暴に例えるならば、レストランに来た客の顔を見て、今の手元の材料で作れそうなメニューから一番客の顔色的に食べたそうなメニューを作って、客に無理やり食わせる。これが生の主張を考えるということです。
ここで請求権パターンのおかしい点は、生の主張ーそれに即した法律構成を創造的に考えられるということを前提にしている点です。そんなの初学者には無理です。そして、訴訟物というのは民訴法あるいは要件事実論のタームです。
結局、民法の答案というのは民法の勉強のみでは完結せず、民訴法・要件事実論を下敷きにして完成するという点があります。そこを明らかにせず、あたかも、民法だけで考えられますよ、生の主張を思いつかないのはあなたの想像力の欠如です、と思わせてしまう点に、請求権パターンの第一の問題点があると思っています。
「とある予備校の市販の問題集で、「土地を返せ」というのが生の主張で、これを法律的に構成すると、“所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権“になるって書いてたけど、どう捏ねればそうなるの…?」
この私の過去の疑問にも、これで答えられるようになります。要件事実論をさっさと勉強しましょうということです。
「相手方の反論ってどうやって探せばいいの…?」
相手方の反論を探すというのは実は結構難しい作業です。民法の分野を横断的に見ることが要求されるからです。
そして、反論を探すというのは要件事実論の言葉で言うと、相手方の主張に対して抗弁となるような主張を探すというのと大体同義だろうと思っています。
例えば、①X→Z(虚偽表示による土地の売買の仮装)、②Z→Y(売買)、③XはYに対して、所有権に基づいて土地の明渡しを求めたという簡単な事案でも、攻撃防御方法は以下のように分野横断的になります。
Kg:1Xもと所有、2Y現占有(物権的返還請求権)←物権法
E:XZ§555(売買による所有権喪失の抗弁)←債権各論
R:XZ§94Ⅰ(虚偽表示の再抗弁)←総則
予備的E:§94Ⅱ(ZY§555)(虚偽表示の第三者)←総則
というわけで、反論を探すのは民法の勉強を一周しないと結構難しいのですが、単純な事例問題だと、そこに出てくる攻撃防御方法も、典型的であることがままあります。
従って、有効な処方箋としては、メジャーな要件事実論の教科書に出てくるような攻撃防御方法を覚えてしまうということが結構良いです。
典型的な攻撃防御方法を超えて反論を捻り出そうと思えば、もっと高度な民法の能力が必要になりますから、それは追々考えていけば良いところです。各分野の理解をじわじわと深めていけば良いのだろうと思います。
ここでも、請求権パターンの悪いところは、このような反論が創造的に出てくるかのように語る点です。そんなの無理です。これが請求権パターンの第二の問題点だろうと思います。
おわりに
かように、結構世間に流布している(?)請求権パターンというのはいくつかのフィクションが混じっています(①生の主張・②相手方の反論が創造的思考であるという点)。
こう見て貰えば分かる通り、請求権パターンというのは要件事実論の攻撃防御方法を、主張・立証責任の厳格な分配という観点を緩くして答案上扱いやすくしたものに他なりません(例えば、要件事実論では、§415Ⅰ本文、但書は原告側と被告側にそれぞれ主張・立証責任が振られますが、請求権パターンでは§415Ⅰという一つの実体法の適用と捉えられることになります)。
要件事実はロースクールから勉強すべきものというイメージも強いかもしれませんが、学部生からできるだけ早く要件事実論を導入して、それをいかに民法答案にダウンサイジングするのかを考えることが戦略的だと思います。そうしないと、民法答案がいつまでもフワフワとしてしまいます。
こんな記事が2年前の民法初学の私にあれば良かったな〜と思います。
それでは〜
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