AA05うめぇwwwww
またサイゼが燃えている。
いや、正確に言えば今回にしてもこれまでにしても、サイゼが燃えたことはない。サイゼを話題にした人が火元になり、人々が燃え上がっているだけである。
そのツイートがこれだ。
ポエム的な言い回しと、みんな大好きサイゼリヤの名前が挙がっているせいか、めちゃくちゃ燃えている。
僕は千葉氏の他の発言も含めて「こういうことが言いたいんだろう」というのは分かったつもりだし、多くの人から「サイゼを攻撃した」と見做されたが故に内容まで目が向けられないのは勿体無い。
というわけで解説的なものと、加えて自分の雑感を書き連ねてみることにしたので、お付き合い頂ければ幸いである。
まず千葉氏が以下のように言っていることは留意したい。
いやね、「サイゼリアじゃなくてサイゼリヤだ!」と言いたいのは分かるけど、抑えて抑えて。
つまりサイゼを例には出してはいるもののサイゼを批判しているわけではないということ。
じゃあ、何なのか?
順を追って書いていこう。
サイゼリヤの注文方式
皆さんはサイゼリヤに行ったことがあるだろうか。
僕は大学生の頃に行った記憶はあるが、今回火種になった注文方式はコロナ禍を受けての変更なので、当時は確か普通にメニュー名を言って頼んだんじゃなかったかな。
当時仲間内で話題だったミラノ風ドリアを頼んだくらいで、他のメニューを堪能したわけでもなかった。
昨年の冬頃にTwitterで燃えてるのを見て(繰り返しになるけどサイゼは燃えてなくて、サイゼデートをダシにしてなんかよく分からんものが燃えてたのである)、そこまでTwitter民を熱狂させるものとは何だろう?と思い、行ってみることにしたのだった。
サイゼリヤのメニューは豊富だ。
つまみ系からメインから主食からデザートから飲み物まで、色々揃っている。
いわゆる普通のファミレスだったら店員さんを呼んで注文するところだが、サイゼは違う。
卓上にある紙の伝票に、鉛筆で番号を書き込むのである。
例えばペペロンチーノならPA03、エスカルゴのオーブン焼きならAA05と、アルファベットと数字の組み合わせと個数を書き、店員を呼ぶ。
店員は書かれた注文票を見て、「ペペロンチーノと、エスカルゴのオーブン焼きですね」と口頭で確認し、オーダーを通すのだ。
正直、この体験には僕も「おぉう、マジか」と思った。
PA03と書いて渡す時に、「俺はPA03を食うんだな…」と、なんだか自分がロボットになったような感覚が一瞬湧いた。大げさに聞こえるかもしれないけど。
ただ次行くときは、たぶん慣れてしまって、何のためらいもなくPA03と書いてしまうだろう。
千葉氏が声を上げているのは、「自分が食べたいものを記号で出力する」という顧客体験(User Experience: UX)の一部分についてである。
商品にはバーコードが、本にはISBNがとか、自分にだってマイナンバーが割り当てられてますよねとか、そういう話ではないのよ。
食べたいものを食べるときに「ペペロンチーノとエスカルゴのオーブン焼きをください」ではなくて「PA03、AA05」と書き込む無機質さを目の当たりにした驚きなんである。
ミネラル麦茶のペットボトルが欲しいときに、自分で手に取ってレジに持っていくのではなく、4901085167380というバーコードを入力しなければならないようなもんだし、ホテルのチェックイン時に名前じゃなくてマイナンバーだけ書くような味気のなさに近い。まぁこれらはむしろ非効率なので、普及はしないだろうけど。
「いや別にそれくらいで目くじら立てる必要ある?」とか
「おぉん!?サイゼdisってんのか?」とか思う人もいるかもしれないけど、そうじゃあないんだ。次に進もう。
効率化と資本主義
サイゼの注文は、紙に記号を書き、店員に渡す方式だと言った。
店員はそれを読んで注文を繰り返すわけだが、「じゃあ他のファミレスみたいに口頭で注文すれば良くない?」とも思える。
ところがそれじゃいけない理由は、店員が長時間、客のテーブルに拘束されることにある。「えーっと…あれどこだっけ」「あ、これも!」みたいな現象が頻発するのだ。僕もやったことがよくある。
その時間に店員を付き合わせることなく、注文の出力が確定してから呼ばせれば、店員の数は最少で済むわけだ。
ところが、似たようなメニューやオプション的メニューがあるので、メニュー名を直接書かせればミスが生じやすい。たまに居酒屋にあるみたいな、あらかじめ作ったメニューリストにチェックさせる方式も、サイゼくらいメニューが多くてメニュー名が長かったりするとごちゃごちゃで大変になる。
そこでサイゼリヤが考え抜いた答えが、記号だったのだろう。
ミラノ風ドリアはDG01で、チーズたっぷりミラノ風ドリアはDG02、セットプチフォッカ付きミラノ風ドリアはDG05だ。
この記号を書かせてから口頭確認すれば、「これ頼んでないんだけど!」というエラーの発生率も抑えることができる。
他の注文方法についても一応見ておこう。
例えばラーメン屋の食券。
塩ラーメンとか、全部乗せ醤油ラーメンとか書かれたボタンを押して、店員に渡す。この時点で「無機質だ」と感じる人はいるかもしれないが、「塩ラーメンを食べるぞ」という意思について、「塩ラーメン」という言語性を維持したまま出力する自由は残されている。
ただサイゼに券売機があったら、メニューは多すぎて複雑だわ決めきれないわで、店頭が長蛇の列になるだろう。複数置けばコストも高くなる。
次は回転ずしとかカラオケにあるタブレットでの注文。
これも、「北海タコの炙りが食べたい!」という意思を、言語性を奪われることなく出力できる。ただし席ごとにタブレットを用意するイニシャルコストがかかるし、電気は食うし(今後の電力ひっ迫で値上げに直結するかもよ・・・?)、壊れる・壊される心配があるし、その辺のコストは値段に反映されているはずだ。
そして最近よく見る、QRコードをスマホで読み取って注文するやつ。
スマホ使えない人や持てない人を完全に切り捨てにかかっているよね。結構すごい。店の戦略だと思うし、客にセレクションをかけるという意味でも"正しい"んだろうけど、これはこれでまた違った残酷さを持っている。
つまりサイゼは、豊富なメニューを、エラーなく、遅滞なく、店員の不必要な拘束なく、幅広い顧客に、低コストで提供するために、紙と鉛筆による注文方式をとっているわけだ。
しかしその代償として、言語で注文する自由を奪い、食べたいものを記号で出力するUXを客に強いているわけだ。
反応を見ていると、あまりそれを代償として感じていない人が多くいるようではあるけど。
なんだかこう書くと、サイゼを悪者にしているみたいだけど、そうじゃあない。サイゼは資本主義の世の中で、低価格で安定して美味しい食事を提供する方法を徹底的に考え抜いて実践しているだけであり、客がそれを選んでいるから生き残っているわけだ。
つまり、便利さや低価格と引き換えに、食べたいものを記号で出力する無機質さを、自ら受け入れているのが今の世の中ということになる。
えっ、それで大丈夫?というのが千葉氏の言いたいことであり、「これは資本主義批判だ」と説明するロジックである。
その先に・・・
千葉氏はサイゼの戦略そのものを批判しているわけではない。
安い、うまい、の実現のために、食べ物に与えられた名前・意味といったものを剥ぎ取り、記号として出力する無機質さを選ぶ社会を批判している。
これまでも、資本主義と効率化の流れの中で、食事の形態は変化してきた。
対面のやり取りは非効率なので、食券やら何やらに置き換えられてきたし、人が運ぶことなくレーンを寿司が流れてきたり、「味に集中」するために自習室のブースみたいな空間でラーメンを食べるようになったり、色々だ。
資本主義社会は”成長”を前提としている。
安くて早くてうまいという効率性の追求の結果、店員とのやり取りや、客同士の会話や、商品を言語として出力することさえもジワジワと削られてきた。
その先に、自分の足で歩いて席に着く自由や商品を選ぶ自由なんかも削られて、ベルトコンベアみたいなのに乗って、今日食べるメニューをAI自動判定されて、「LC003」みたいな名前の食事を提供され、店のペースで食べさせられてはいお会計、みたいな世界が待っててもおかしくないんじゃないか?
その世界では、自分の足で店に入り、自分の頭でメニューを悩んで、「これとこれ下さい」と頼んで、自分のペースで食事を楽しむことに価値を見出す人は、それ相応の対価を払わないといけない。
「そんな『人間らしさ』よりも安いうまい早いの方が大事」な人が多ければ、「人間らしい」飲食店は自然淘汰されていく。「あら、あの店いつの間にか無くなってしまったのね」と。
これはサイゼの戦略の是非ではなくて、「無意識にでも人が求めるなら世界はそうなっていく」という話。そんな繰り返しの果てに、「ふつう」の食事を楽しめる富豪と、無機質な食事しか選択肢のない庶民、みたいな構図の世界になってしまうのではないか。
便利さや効率性を、無批判に享受するだけで良いのだろうか?
千葉氏はそういう現代人の姿勢を危惧しているんだと思う。
冒頭に述べたように、サイゼは燃えていない。
燃えているのは人間の方だ。
それと同じように、資本主義社会の中で生まれてくるサービス自体が問題なのではなくて、1人1人のニンゲンがそれをどう受け取って選択するか、の問題なのだ。
もちろん、こんな話は実現しないかもしれないし、彼がそういうことを言いたかったと理解した上で「いいじゃないか、何が悪いんだ」と言う人もいるかもしれない。
ただあまりにも「サイゼに文句あるのか」「いやなら別の店に行けばいいじゃないか」みたいな意見が多かったので、何だかな、と思ってしまったのでした。
お腹すいた。サイゼ行こかな。