
【1章】 「NORMCORE」は、社会変革を象徴する?
誰も考えなかった?本来の意味
NORMCOREは“流行に関する言葉”ではない。「流行が生み出される、既存システムの崩壊」を象徴している言葉なのだ。
NORMCOREを知っているあなたも、知らないあなたも、頭に?が
浮かんだかもしれない。これらの理由を詳しく、そして解りやすく説明するために、まずはNORMCOREの言葉の起源を辿る。意外にも“本来の意味”は知られていないから。
そして、何より未来の社会像を分析するには、これを把握することが鍵なのだ。
≠NORMCORE!!??? From Novembre magazine. Photo: Nicolas Coulomb
NORMCORE≠ファッショントレンド用語?
「ファッショントレンド用語」としての意味は、ブランド表記などがない、グレーのパーカーや白いTシャツ、シンプルなスニーカーなどを合わせるスタイルのことを指す。つまり、どこでも誰でも手に入るアイテムを合わせる、“究極の普通”*の服装のこと。そしてそのスタイルの例として、故Steve JobsやfacebookのCEO、Mark Zuckerbergが挙げられた。
本来の言葉の意味は正反対
実のところ、NORMCOREという言葉は現代社会においてより幸福に、より自由に生きるための指針として誕生した。
2013年10月、NYを拠点として活動する流行予測団体「K-HOLE」が『YOUTH MODE A REPORT ON FREEDOM』というレポートを発表。そこで「K-HOLE」は、グローバル化した現代では世代論が崩壊していると主張。さらに、現代人の生態を下記の通り主に3種挙げ、それらの姿勢が限界に達していると説明している。
ALTERNATIVE:他者と異なることや集団に属すことを軽蔑するも、個性を追い求めた結果孤独になってしまうこと
MASS INDIE:異質さとノーマルさの中間でいることを常に保つこと
ACTING BASIC:MASS INDIEを意識してベーシックであることを追求するも、結局は他者と「異なること」を基盤としているため、MASS INDIEの抜本的な解決策となはならない
画像キャプション:『YOUTH MODE〜』の終章に掲載されている、レポート内容をまとめた図。これが要と思われる。
そしてこれらを超越する姿勢として、NORMCOREは提示されている。
「K-HOLE」が提唱するNORMCOREとは、集団に属すこと、他者と同じであることや単調であることなど、全てを受け入れることでそれらの考えを超越し、何にでも適応する姿勢のことだ。逆に言えば「ノーマル」なもの自体、本来存在しないと理解すること。(それゆえ個性を意識したり、ノーマルさから回避する必要性もない。)そうすることが、唯一「自由になれる」方法であると「K-HOLE」は主張する。
元ネタが拡散されたわけじゃない
上記のような意味にも関わらず、NORMCOREが「ファッショントレンド用語」だと誤認されたのはなぜか。それは、この言葉に火がついた発端は「K-HOLE」が発表したレポートではなく、THE CUT magazineのファッションに関するコラムがウェブ上で拡散されたことだと言われているからだ。
画像キャプション:大衆に消費を促すために、企業によって意図的に生み出される流行というシステムは滅んだと言える。
「NORMCORE」≒ 実質的降参
私はこの現象を見て、「NORMCORE」は単なる流行ではないと感じ、いてもたってもいられなくなって、これを書いた。
“他者とは異なるスタイル”(=“普通”ではないスタイル≒流行)を長年生み出し続けていたファッションシステムが、“普通”を流行だと言い出す。
“流行という社会システム”が崩壊しつつあることを示す言葉さえも、流行として取り上げてしまう。
これはむしろ、そのシステム自身が白旗を揚げるような、究極の行為ではないだろうか。
さらに、「NORMCORE」というファッションスタイルは、「K-HOLE」が提唱する概念では、(NORMCOREではなく)ACTING BASICに該当する。つまり、NORMCOREという名のACTING BASICという概念が、ファッションスタイルとして流行していたのだ。
この状況において、社会の潮流がK-HOLEが提唱する通りに変化すれば、次に来るファッショントレンドは本来の意味のNORMCORE=ノーマルは存在しない=多様性を重視すること=トレンドの崩壊。
そう、「NORMCORE」というファッショントレンドは、流行そのものの崩壊を意味する現象だったのだ。
次章では、「NORMCORE」というファッションスタイルが流行した理由を明らかにする。そして章を重ねるごとに、ファッションを通して現代の社会構造をつまびらかにし、具体的な未来の社会像を予測する。そんなのできっこないって?まあそう言わずに、最後までお付き合いいただきたい。きっとワクワクするから。
*『GINZA 2015年1月号』
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